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第4話 妖艶クラブ

新連載です。

評価やブックマーク頂けると幸いです。

「え、ここって……?」


目の前に広がるのは、鎧を身にまとった屈強な男たちが行き交う傭兵の街。

市場では剣や鎖帷子が並び、鍛冶屋のハンマーが力強く打ち鳴らされている。

活気のある掛け声、酒場から響く笑い声――


「ここが、お前の新しい生活の場だ。風景は少し違うが、屋敷の質は王宮と変わらん」

エヴィリオは無表情のまま言った。


「じゃあ、どうしてこんなゴツゴツした人たちばかりいるんですか!?」


「ここは傭兵を育成する領地だと習っただろう?ここにいるのは、王国の軍事を支える者たちだ。」

貴族はグラウド王国第2施設のエドリック領を幼少期に学んで知るが、ノエルは当然学んでない。


ノエルは市場を歩く大男たちを見て、思わず後ずさった。

もちろん数多くの女性も領地内にいるが、彼女の目につくのは、鍛え抜かれた体に無骨な武器を持ち、鋭い目つきで周囲を見渡す傭兵たち。

貴族の社交界にいたノエルとは正反対の世界だった。


(でもここなら、所作や言葉使いに気をつけなくてよさそう)

無口として生活するのは、陽気なノエルにとっては苦しいものだった。

貴族や王族と接する機会が少ないに越した事はない。


ヴィエナがそう考えていると屋敷へ到着した。

「ここが屋敷だ。あとは侍女が案内してくれるから好きにしてくれ」


「あれ?エヴィリオ様は、どこいくんですか?」

彼女の問いに、エヴィリオは軽く肩をすくめると、屋敷とは反対の方向へ歩き出しながら答えた。

「王宮で息が詰まった……息抜きに街に出かけてくる」


王族でありながら神脈の加護の力がない彼にとって王宮は、居心地が最悪だった。


ノエルはふと、エヴィリオの後ろ姿を見つめた。

束縛を嫌い、自由を求める彼の姿は、どこかこの堂々たる屋敷とは相容れないようにも見えた。


(息抜きってもしかして、妖艶クラブ?)

白い結婚をした若い男が行う、息抜きは妖艶クラブ(娼館)とノエルは考えた。妖艶クラブにエヴィリオが行くのは別に良いとして、後をつけたら、彼の冷酷と噂される手がかりが得られるかもしれないと考えると、ノエルの探究心が刺激された。


(ちょっとくらい、どんな場所か見てみたいし)

そう自分に言い聞かせ、ノエルはエヴィリオの後を静かに追い始めた。


エヴィリオは人混みを縫うように歩き、やがて目的の建物へと足を踏み入れた。

ノエルが少し遅れてその場所に辿り着くと、そこはまさに彼女の予想通りの場所――


(やっぱり、妖艶クラブだったわね)

尾行で行き先が分かり、探偵のような気分で少し嬉しい。

そう思っていた時――


彼女の尾行はすぐに露見した。

エヴィリオは振り返り、ノエルの存在に気づくと、少し驚いた表情を見せた。「なぜ付いてきたんだ?」その問いに、ノエルは正直に答えた。

「妖艶クラブに行くのかなって、ちょっと気になって…」

エヴィリオは一瞬の沈黙の後、ふっと笑みを漏らした。「そうだけど?お前も一緒に来るか?」その誘いに、ノエルの心は一瞬揺れた。女性には楽しめない場所だと聞いていたが、好奇心が上回った。


「行きます!」彼女の答えに、エヴィリオは再び笑みを浮かべ、二人は共に中へと足を踏み入れた。


――――――――――――――――――――――


(なんだここは!楽園かと思った。)


そこは薄暗くも落ち着いた雰囲気の店内で、豪華な装飾が施されている。ふかふかのソファが並び、美味しそうな果物がテーブルに並べられていた。

そして、美しい女性たちが世話までしてくれる。


これは入り浸っても仕方がない。ノエルは口元に寄せられたイチゴに躊躇なくかぶりついた。すっきりとした甘さが口の中に広がる。


ノエルは笑って赤髪で碧眼の美女――オルビアを見ると、周囲から黄色い悲鳴が上がった。

「ミラージュ様!可愛い」、「次は私を見て」「愛らしい」沸き起こる賛美の数々に悪い気はしない。


愛おしそうに頭や頬を撫でられながら、柔らかい胸に包まれて、甘やかされる。


実に甘美なる経験だ。第二王子の妻になればこの場へ付いていける。(最高ですな)もはや妖艶クラブ通いは美点の一つかもしれない。


「……こいつ、人生イージーすぎるだろ」


オルビアを挟んで向こう側に、頭を抱えて足を組んだエヴィリオが座っている。

彼は傍に侍る妖艶な美女たちには指一本触れようとはせず、店内でお酒を嗜んでいた。


「しかし、どうしてミラージュ様のような方がこのような場所へ?」


「俺の婚約者だとさ。今日披露宴をしてきた」


「ノエル様とエヴィリオ様が結婚?」

大袈裟なくらい驚いて、オルビアはノエルとエヴィリオを交互に見やった。周りの女性たちも皆、驚愕な表情をしている。


察するに、夫となるエヴィリオが他の女に手をかけていないか心配で健気な婚約者、という風に見られているのだろう。


実際ノエルは、妖艶クラブを楽しみつくしているのだが、蜃気楼のように儚げな容姿のおかげで勝手に良い方向へ解釈してくれる。何とも都合が良い。

 

「ノエル様、ご安心ください。エヴィリオ様はこの店の女の子に手を出したことは一度も……」


「おい、余計な事を言うな。どうせすぐこんな結婚など離縁だ。ミラージュの無口姫がわざわざ俺などに嫁ぐ理由がない。金目当てなら他の貴族で良かっただろう?」


エヴィリオは立ち上がるとノエルの手を取り結婚指輪を眺めた後、顎を掴んで瞳を覗いた。


わずかな光源の薄暗い室内であっても、美しい手とその目だけは高貴なほどに煌々と輝いている。


(ああ、手も瞳も本当に美しい)

ノエルはつい、うっとりと目を細めた。

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