表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

第10話 読みたい心


「エヴィリオ王子。私に叶えられる願いなら、叶えてみせよう!」

ノエルは胸を張り、どこか得意げに宣言した。


エヴィリオは眉をひそめ、深いため息を吐いた。

「……おい、調子に乗るな。はぁ。これだから作法も学んでいない奴が力を持つと大変なんだ……」


彼はこめかみを押さえ、頭を抱えるようにして呟く。

だが、ノエルはそんな小言などお構いなしだった。


にじり寄ったかと思うと、エヴィリオの顎をすっと持ち上げ、彼の瞳を真っすぐに覗き込んだ。

距離が近すぎる。エヴィリオは戸惑い、思わず体を引こうとするが、ノエルの無邪気な力に押されて動けない。


ノエルは、まじまじと彼を見つめた。

美しい……まるで冬の夜空に輝く星のような、澄んだ黄金の瞳。


(なんだよ……)

エヴィリオは迷惑そうに目を逸らそうとする。だが、逃げられない。


(……て欲しい)

そんな言葉が、不意に心に浮かんでしまった。


ノエルは目を細める。

(よく心が読み取れないな……次に質問をぶつけた時に、探りましょう)


油断ならない相手だ。ノエルはそんなことを思いながらも、楽しげに口角を上げた。

しかしその策略は、あっさりとエヴィリオに見破られた。

「お前、心を読み取ろうとしてるな?」


冷ややかに放たれた言葉に、ノエルはぱちくりと瞬きをして――「御名答です」

彼女は小悪魔のように口元をつり上げ、いたずらめいた笑みを浮かべた。無邪気で、悪びれた様子は微塵もない。

 

エヴィリオは小さく舌打ちし、顔をしかめた。

だが、それ以上に驚いたのは、ノエルの次の行動だった。


わずかに間が空き、空気がふわりと緩む。


その隙をつくように……

(膝枕で頭を撫でられたい)

そんな密かな願望を、彼は心の中で呟いてしまった。


「ふむふむ」

ノエルは、すべてを理解したように頷くと、無言でエヴィリオの袖を引っ張った。


ぽかんとするエヴィリオをよそに、ノエルはソファへと腰掛け、彼の頭を自分の膝の上にそっと乗せた。

そして、何も言わずに、彼の髪を優しく撫で始める。


エヴィリオは一瞬身を強ばらせたが、抵抗することなく、膝枕と頭を撫でるノエルを、そのまま受け入れた。

瞼を閉じ、彼女の温もりを感じる――こんなにも心地よいものだとは、思わなかった。


今まで、彼は周囲から敬遠され、蔑まれ、遠ざけられることこそあれ、誰かに慰められることなどなかった。

口では必要ないと強がっても、心はずっと求めていたのだ。


(……これが、白い結婚か。意外と、悪くないな)

エヴィリオはぼんやりと思う。


ノエルは、膝の上で目を閉じるエヴィリオを見下ろしながら、そっと微笑んだ。

吸い込まれそうな瞳。優しくも儚い心。――無骨な中に秘めた、未熟で純粋な美貌。


(私は、この王子を絶対に離さない)

ノエルは心の中で、そっと誓った。


その時――


「コンコン、大変です!」

勢いよく扉を叩く音と、従者の慌ただしい声が響いた。


ノエルとエヴィリオは動きを止めた。

ソファに座るノエル、その膝に頭を乗せるエヴィリオ。

それを目の当たりにした従者は、絶句した。


「……」


数秒の沈黙のあと、従者は顔を真っ赤にして頭を下げた。

「し、失礼しました! お取り込み中でしたか!」


「よい、話せ」

エヴィリオは何事もなかったかのように立ち上がり、そっとジャケットを羽織った。

いつもの冷静な王子に戻っているが、耳の先が微かに赤い。


従者は深呼吸して、事態を告げた。

「近域に、A級の魔獣が出現しました!」


「なんだと?」

エヴィリオの表情が一変する。


「領内の傭兵では、到底太刀打ちできません。王宮に、S級の傭兵騎士の派遣を要請しましょう!」


「……よし、分かった。すぐに王宮に知らせよう」

エヴィリオは歯を食いしばりながら命じた。


だが――ノエルはその横顔を見つめ、胸が痛んだ。


(エヴィリオ様……本当は、王宮なんかに連絡したくないはず。だって彼は、王宮からずっと嫌がらせを受けてきたのだから……

私は、エヴィリオ様に、これ以上つらい思いをしてほしくない)


「エヴィリオ様!」

ノエルは思わず叫び、彼の腕を掴んだ。


「……なんだ。緊急で忙しいんだ」

眉をひそめつつも、ノエルに近づくエヴィリオ。


ノエルはそっと彼の耳元に口を寄せ、ひそひそと囁いた。

「えっと……」


エヴィリオの表情が、一瞬にして驚愕に変わる。


「!!!」


評価・ブックマーク励みになります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ