同棲から!
長く、そして短いインフルの自宅待機期間が終了した。基本的に友達がいない涼にとって学校という場所は憂鬱の巣窟といっても過言ではない。
それほどまでに学校という場所は嫌いなのだ。
ふと、愛美が言っていた言葉を思い出した。
「キーボードだっけ」
愛美が言うにはそのバンドは4人でやっているらしく人数は足りているがキーボードがいなくて少々手こずっているそうだ。
何やら次やる曲がキーボードがいた方がやりやすいとも言っていた。そもそも今は11月。
今から部活入るにしては遅すぎる時期だった。
その差を埋めようと必死に休みの間キーボードの練習をした。軽いコード進行やら何やらの知識をつけることはできたもののその差は埋まらないだろう。
そんなことを思い出してるうちに家を出て、憂鬱の巣窟へとたどり着いてしまった。幸いなことに今日は金曜日、学生なら誰しもが待ちに待った日であろう。
少しだけテンション上がってるうちに習慣化していたであろう自分の席に座る。
無意識に座ってしまうのだから怖いものだ。
涼が通う高校は一般的に名門私立という目でみられることが多い。実際合格実績は凄まじいので否定はしないしする必要もない。その分授業スピードが早く、普通の生徒ならまず追いつかない。予習は必須と言った感じで授業は応用ばっかりだ。
1週間も休んでいた涼は一切理解できなかった。
(こんなことになるならもっと予習しとくべきだった…)過去を悔やんでも何もならないが生真面目な涼にとってこれは苦痛であった。
そして安息の時間とも思える昼休憩が始まった。
涼は基本的に昼ごはんは食べない主義だ。不健康だって?別に大丈夫だろう。別にお腹が空いてるわけでもないし一緒に食べる友達もいないので食べる必要がないのだ。なのでこの時間は全て睡眠に充てている。
腕を枕がわりにし、眠りにつこうとする。そんな時、
「樹上涼さんであってる?」
この声でわかる。北沢さんだ…!誰にでも優しくクールで可愛い女の子、と言ったかなり良い印象を持っている人。青色のボブは本人曰く染めてないそうでそこら辺を詮索されると可愛らしく怒る。
中学の時、お互いにお互いの学校の愚痴を言い合ってたのを未だに覚えている。
あの時の泣いてる姿も可愛かったなぁ…
「え、えーとあってるよね?」
心配そうに聞いてきたので頷くことにした。
「じゃあ、放課後、西門にきて、待ってるから」
なんの誘いかわからなかったが恐らく愚痴りたいことでもあったのだろうと考えそれ以上は考えないことにした。
放課後。流石に誘われといて行かないのはあれだったので向かうことにした。西門の場所を知らないので北沢さんの後ろをついていくことにした。
そしてついた西門には北沢さんと愛美さん。そして知らない顔が2つ。
「ようやくきた!涼さん、だよね!」
明るいなーとか能天気なことを思いながら頷く。
「私は狐茄小風気軽に小風って呼んでね!一応ドラムやってます!」
声のトーンはかなり高くかなり楽しそうに話す。
金髪と黒のパーマが入ったツインテールは風が吹くたびに良い香りを出す。
そして担当楽器を言ってるあたり、恐らく例の軽音楽の件だと確信した。
「…佐藤彩花、ベース、よろしく」
今度は逆に暗く重い雰囲気のある少女だった。一度もこの学校でこの子の姿を見てないが他学年なのだろうか。黒、というよりかは紫っぽい髪色は薄く、綺麗な透明感を出していた。
「私もしといたほうがいいかな、九重愛美一応ギターやらせてもらってます。よろしくお願いしますね」
改めて見るとかなり長い髪をもってるなと感心せざるを得なかった。腰まで伸びる髪は茶色というよりかはベージュを連想させた。いつも通り癖っ毛がすごい。
「北沢雨奈ギターボーカルやらせてもらってます」
まっすぐ透き通った声は本当にボーカルをやってるんだなと一瞬でわかるほどには真っ直ぐな声だった。
「涼ちゃんってあの孤高のお姫様の涼ちゃんだよね?!」
「小風。」
ため息混ざりに北沢さんが止める。
そんなことより、私…孤高のお姫様って呼ばれてたんだ…私独裁政治とかしてないのにどうしてそんな印象が?あとで小風さんに詮索しとこう。
「ご、ごめん…」
「別に大丈夫ですよ」
自分の声がすんなり出たことに驚いたが別に変な発言とかはしてないのでセーフである。
「それじゃあ、行きましょうか」
愛美がそういうと皆がゾロゾロ歩き出す。
とりあえず涼もついて行くことにした。
歩くこと10分。到着したらしい場所は一軒家だった。
この中の誰かの家なのだろうか
「ただいまー」
「ただいま帰りましたー」
「ただいま…」
「ただいまー!」
各々が家に入る時にただいまと言うので恒例行事なのかと思いつつ
「お邪魔します…」
そう申し訳なさそうに入る。別に空気が読めないわけではない。ただ知らない人の家にただいまはなんか違う気がしたのだ。
玄関は広く、目の前には階段があった。
続々と階段に登るので涼もそれについていく。
登った先には広い部屋があり、そこには楽器やら小道具がたくさん置いてあった。しかも壁をみた感じ防音室なのだろう。
「じゃあ涼ちゃんはそこに座ってて!今日は見学!」
「わかりました…」
困惑が拭いきれぬまま返事を返した。
練習開始時がおおよそ4時くらいだったが、練習終了時が10時だった。いや待てよ?騒音トラブルにならないか?もしくはこの防音室とんでもない性能という可能性が…あいつらの顔的にそうだな、あんな笑顔で騒音トラブルされてたまるか
ていうかそろそろ帰った方が良いんじゃ…
「そろそろ終わりにしましょうか」
「そうだね!疲れたぁ」
「いつもより…辛かった…」
「まぁ良い練習にはなったんじゃない?」
「それは…そう…」
楽器を片付け始めてる時に
「そういや涼ちゃんこの後どうするの?」
「え?普通に帰るんじゃないんですか?」
困惑混じりで返答する
「涼ちゃんには言ってませんでしたっけ、ここ、シェアハウスなんですよ」
「そうそう!うちら4人で住んでるの」
「とりあえず今日は暗いし泊まっていったら?」
情報量のマシンガンを撃たれ軽く錯乱するが
「なら、お言葉に甘えて…」
承諾してしまった…
「やった!お布団用意するね!」
「じゃあ私ご飯作ってきますね」
「なら…私手伝う…」
「ありがとうございます」
続々と防音室を出ていき行動を始める。
「それじゃあ私は…案内するね」
「どこをですか…?」
「決まってるじゃない、この家だよ?リビングの場所もわからないでしょ?」
わかっているはずなのに意味のわからない質問をしてしまったことを恥ながら
「あ、ありがとうございます!」
そう、感謝を伝えた。
正式なメンバーではないにしろ、本当に泊まっていいのか心配になるくらい広くて豪華な家だった。
言葉通り夢見心地だった。
誰が何言ってるかわからなくなってきた。
我ながらややこしい設定




