軽音楽から!
朝から咳が止まらない。インフルエンザとも思える症状に頭を抱え、病院に足を運ぶ。
そして見事、インフルエンザA型と診断された。適当に薬を受け取り、帰路に着く。
その帰路で、しかも私の家のすぐ前で懐かしい顔を見かけた。
その瞬間、体が急に重くなった。
(家はすぐそこなのに…)
フラフラとよろめく体はどんどん重くなり、近くの壁に寄りかかる。そして、
そのまま深い眠りについたように気を失った。
「ん、ん…」
目を覚ますとそこは身知れた天井。ちょっと安っぽそうな、安心感のある天井。
「起きましたか?心配したんですよ」
確かに顔は知っており、声も聞いたことがある。けど名前が思い出せない。
とりあえず無言を貫き通そう。
「やっぱり涼さんは無口なんですから」
その言葉に唖然とした。
言葉の意味がわからなかった。初対面、尚且つ名前を知っている。誰だ?名前を知ってるなら同級生とか?それなら知ってても違和感はないがわざわざ私の名前を覚えるか?
答えはNoだ。一々誰も話しかけないであろう陰キャの名前なんて覚える意味も価値もないからだ。
なんか悲しくなってきた。涙の季節はもう過ぎ去ったのに。
だんだんこの子近くなってない?目線に圧を感じるんだけど私なんかやらかしたっけ
「お粥でも作りましょうか?」
「冷蔵庫とか何もないけど」
「じゃあ買ってきますよ」
「いや大丈夫です」
「大丈夫じゃないです。ついでに冷えピタとか風邪引いた時に使えるものも買ってきますね。どうせ氷枕もないでしょうし」
面倒見が良いのだろう。いつのまにか私の家の備品不足に気づいてらっしゃる。
止める余裕もなかったのでそのまま彼女を買い出しに行かせた。
あー眠い。結構疲れているのだろう。
もう寝る。おやすみー
このことが夢であったかのようにそれを信じるがままに眠りにつくことにした。
「起きてください。ご飯できましたよ?」
「ふぇ?」
自分の声とはおもえないとんでもない腑抜けた声が出た。人は寝起きだとこんな声になるのか…
そして目の前には美味しそうなお粥が置いてあった。
基本的にはお粥とか炒飯とかお米はそんな好きではない涼が箸を進ませる。それほどに美味しいお粥だった
しばらく何も食べてないから、というのも理由の一つなのだろう。
「はい、あとこれ使ってください。お金はいらないので」
先ほどきてた時に言っていた冷えピタなどの風邪引いた時に便利グッズ達を本当に買ってきてくれてたのだ。
「あと、気になったんですけど」
少し貯めてからその女性は言った。
「軽音楽、興味ありません?」
唐突な話題に動揺を隠せなかった。
確かに家に楽器はある。なんならドラム、ベース、ギター、シンセ全部揃っている。けれど彼女に見せた覚えはない。しかもそれは全部コレクション。できなくはないけど使う機は一切なかった。
そして普段は散らかってる地面を見ると綺麗に掃除されていた。
おそらく掃除してる途中にみてしまったのだろう。
「それはちょっと…」
掠れゆく声で必死に声を出した
「だめ…ですか?」
うっ…と声が出そうなのを必死に抑える。悲しそうな目でこっちを見る彼女はどこか寂しげだった。
その顔で思い出した。いつも寂しげでハムスターみたいな顔をしていた彼女の名を
「愛美…?」
「どうして急に私の名前を?」
困惑しながら聞く彼女にアンサーを送る。
「たった今名前を覚えだして…」
そう言い切ると本当に泣きそうな悲しい顔で涙をうかばせながらこっちを見る。
「え…?」
私が名前を覚えてなかったのがそんなショックだったのか。私にとっては日常茶飯事で特に傷つきはしないが陽キャにとっては辛いのかもしれない。
「ごめん…そんなつもりじゃ…!」
「別に覚えてなくていいですよ…」
そうだ。思い出した。
ずっと病院で、同じ部屋でいつも寂しそうにして、私が来るととっても喜ぶ少女の姿を。たまたま近くにその病院があって、友達という設定で暇つぶしにその部屋に入ってた。
来る度に同じ病室にあるベッドに一緒に入って持ち込んだテレビゲームやボードゲームなんかをして遊んでたっけ、
あれ私結構しっかり覚えてるんだな。偉
「やりたいんです。あなたと…軽音を…!」
こんなに可愛く誘われては断る人間はこの世界にいないだろう。
ただのコレクターでも出来るのだろうか不安だ。
ただ少し楽しそうではある。
柔らかい手で手を握られると
「わかりました…1ヶ月だけ…1ヶ月だけ入ります…」
押しに負けて承諾すると
「いいんですか?!」
あからさまに喜ぶ彼女の姿はとても可愛らしく、瓶に詰めて保存したいくらい可愛かった。
1ヶ月だけなら、続けられるだろう。
本当の意味で作品続かなそう




