和姫ちゃん?
――私は、少し薄暗い空間にいた。
なんとも奇妙な場所だ。
足元は霧が掛かっていて見えないし、薄暗いせいかこの空間がどこまで続いているのかすら見通せない。
そんな、空間の中。
私の目の前には一人の少女が立っていた。
年齢は13~14歳くらいだろうか? 子供とは言いにくいけど、大人とも表現できない。そんな年頃。
――見覚えがある。
前世の時代劇アニメ、『信春騒動記』の悪役・和姫。
そして、今の私が転生したという、仙台藩のお姫様・和姫。
ただし、髪色は銀ではなくて、黒だったけれど。
そんな和姫ちゃんは私に向けて深く頭を下げてきた。謝罪の意味なのだろうけど、そんな所作一つとっても洗練されていて感嘆してしまいそう。
『ご迷惑をおかけして、申し訳ありません』
「迷惑って?」
『本来ならあの『悲劇』は妾が止めるべきでした。なのに、まったく関係のない貴女様を巻き込んでしまって……』
悲劇、というのも気になるけど、今するべきなのは慰めでしょう。
「あぁ、いいのよ。そんな気にしないで? 私にだってメリット――いえ、利益はあるのだから」
横文字を言い直した私を見て、美少女ちゃんがくすりと笑う。
『伝わっていますから平気ですよ。たぶん『スキル』の力ですね』
「おおー」
江戸時代美少女ちゃんから『スキル』という横文字が出てくるのは不思議な感覚だった。
でも、そっか。あのお姉さんは『自動翻訳』のスキルをくれると言っていたものね。それがこうして効果を発揮しているのか。
「……私の方こそゴメンね? この身体、きっとあなたのものよね? なんだか乗っ取っているみたいで……」
『気にしないでください。どうせ死した身の上。抜け殻をどうお使いいただこうと気にしませんから』
「抜け殻って」
もうちょっと言い方はないのだろうか?
それに、まだ子供なのに『生』に執着がないのも……。この時代特有の価値観とか? なんか、「転生したい!」と願った私が貪欲みたいじゃない?
本人から『気にしません』と言われても、なんだか悪いことをしている気になるのが人情というものだ。
「わかった。じゃあ、あなたの望み通りにしましょう。暴挙を止めるんだっけ? 一体誰の何を止めればいいの?」
『それはですね――』
美少女ちゃんが口を動かした、瞬間。私は自分の意識が急激に浮上しているのを感じ取った。
ちょっと待って――
まだ、誰を止めるか聞いてない――
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