陰陽寮
朝。
爺が私の部屋にやって来た。
「姫様。実を言いますと、陰陽寮から正式に姫様を招くという通達が来まして」
「お、いよいよですね」
「はい。どれだけの頻度かは分かりませんが、とりあえず今日登城して欲しいとのことでして」
「今日。急ですね?」
「それだけ姫様に期待しておられるのでしょう。……それと、此度の件で殿が不機嫌になられまして」
「あー」
ビシッと言ってやったからね。そりゃ不機嫌にもなるか。なんという駄目な大人でしょう。
「ですので、殿が屋敷にいるときはなるべく会わないよう気をつけていただきたいのです」
「はぁ、まぁそれは大丈夫ですけど」
今までもあの人にばったり会うことはなかったし。何だったら書庫の本を私の部屋に持ってくればずっと引きこもり生活をすることも可能だ。
「そのあたりは楓を中心とした忍びが上手いこと誘導いたしますので、姫様はそれに従っていただければと」
「はぁ、それは構いませんが……なんかすみませんご迷惑をおかけしちゃって」
「いえ、お気になさらず。忍びは全て姫様にお味方いたしますので」
「…………」
なんか、さらっと凄いこと言わなかった?
◇
陰陽寮は名古屋城の本丸にあった。簡単に言うと天守閣とか大奥がある区画で、城の中心。一番厳重に守られているところ。
見た目としては鉄筋コンクリートっぽい二階建ての建物だった。いや私は建築に詳しくないからほんとに鉄筋コンクリートかどうかは分からないけど、少なくとも和風な建造物ではない。天守閣のすぐ近くに西洋風(?)の建物が『でーん』と建っているのは違和感が凄かった。
もうちょっと時代劇っぽい建物をさぁ……と考えていると、この前町で出会った陰陽師が出迎えてくれた。あの狐っぽい目をしたイケメンさん。
「ようこそお越しくださいました。改めてご挨拶を。第28代安倍晴明で御座います」
「……安倍晴明?」
「はい。そのご様子ですと初代をご存じのようで」
「28代?」
「28代で御座います。襲名式ですので」
「あー、平安時代からだとそのくらいになるんですか」
「なるのでしょうな」
フッ、とニヒルに笑ってから安倍晴明さんは陰陽寮の中を案内してくれた。
「おー」
建物の中は、どことなく病院みたいだった。あるいは研究所とかはこんな見た目をしているのかもしれない。廊下があって、左側に部屋が並んでいて……。病室に頑丈な扉を付けました、って感じだった。
で。そんな建物内では狩衣姿の陰陽師たちが忙しなく行き来していた。
「ずいぶんと忙しそうですね?」
「えぇ。上様が呪われておりまして。その後始末を」
「……上様が呪われていたんですか?」
一大事じゃん。
というか、そんな重大機密を私に話していいのだろうか? もしや「へっへっへっ、秘密を知ったからには生きて帰すわけにはいかないぜ!」って展開? 自分から教えたくせに。
「ハァ……」
やれやれ分かってねぇなぁコイツみたいな顔をする晴明さん。
「姫様が浄化してくださった上様の胸の汚れ。あれが呪いだったのです」
「あ、そうなんですか? 綺麗にしたと思ったんですけど」
「……えぇ、とても綺麗になっておりました。あのまま放置していては上様も危なかったでしょうし、感謝しかありませぬ」
口ではそう言いながらも、なにか言いたげな清明さんだった。これは、あれかな? 「くっそーこんな素人の少女に出し抜かれるなんて!」みたいな展開?
「なにやら妙なことを考えておりませんか?」
「いえ別に?」
「……なるほど、考えていることが分かり易い御仁ですな」
「なんか知らないけどバカにされてしまったでござる」




