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時代劇の悪役姫になりました。~処刑は嫌なので、正義の味方をはじめます~  作者: 九條葉月


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決意

 用事があるとのことで、爺に連れられてお父様の部屋へ。

 いつもの私なら呼び出しの理由を尋ねるのだけど……なんとなく、憚られた。だって今の爺が明らかにやつれているというか、憔悴しているんだもの。


(あ、もしかして、春様からのお手紙が原因かな?)


 上様が私に会いたがっていると。

 そして、陰陽頭が陰陽寮にスカウトしたがっていると。そんな内容が記されていたはずだ。


 とはいえ上様の扱い方なんて分からないし、陰陽寮なんてもっと分からないから爺に丸投げしてしまったんだよね。……おや? もしかして私が原因かな? 今のうちに謝っておこう、ごめんね爺!


 そうして。


 お父様の部屋に到着すると、まずは爺がお父様の側へと移動し、何事か説明してから例の手紙を手渡した。


 しばらく手紙を読み込むお父様。なんか、段々と手の震えが大きくなってない?


「――ふざけるなぁっ!」


 お父様がぶち切れた。なんだなんだ? この人は結構単純というか怒りっぽいけど、ここまで怒るのは珍しいかもしれない。


(……なんかあったのかな?)


 後ろにいるはずの和姫ちゃんに問いかける私。


『…………』


 あれ無反応? 無視された? いや和姫ちゃんはそんな子じゃないからなぁ。

 なんだか、負のオーラというか不機嫌というか『ぶっころしてやる』みたいな雰囲気が漂っている気がする。私の背後から。


 うぉおぉお、この、不機嫌な人が近くにいるとこっちの肩身が狭まる現象、何とかならないものか……。


 ここは一発芸で笑いを取って和姫ちゃんを上機嫌に。と思っていたら、お父様は爺に詰め寄った。


「爺! なんだこれは!? 何のつもりだ!?」


「いえ、こちらとしても、なんとも……」


「上様が和に興味だと!? 陰陽寮に寄越せだと!? ふざけるな! やっと、やっと和の婚約を破棄できたというのに! もう一度手放せというのか!?」


 怒りにまかせて手を振り回すお父様。

 いやいや、手放すって。そもそも私(和姫ちゃん)と池田家との婚約を認めたのはあなたじゃないんですか? 一度は覚悟を決めたんでしょう? 何でこんなにも怒り狂っているのか……。


(どう思う?)


 もう一度和姫ちゃんに問いかけるけど、やはり返事はなし。なんだか室内の温度がちょっと下がったような気さえする。


 さすがにヤバいと思ったのか、爺が宥めに掛かる。


「と、殿。落ち着いてくだされ。陰陽寮なら屋敷とも近いですし、通うこともできますので」


 え? 私お城まで通勤するの? 陰陽寮ってほどだから寮生活じゃないの? というか私の陰陽寮行きは決定なんですか?


 色々とツッコミを入れたい私だったのだけど、


「――黙れ、黙れ黙れぇい!」


 お父様が爺を蹴飛ばしたことでそれどころじゃなくなった。おいおい、いくら家臣だからって蹴るのは無しでしょう蹴るのは。


 倒れ込んだ爺の側に近寄り、()る。……幸いケガはなさそうだね。


 なんてことをするんだ、という抗議を込めてお父様を睨み付ける。


「な、なんだその目は!? おまえをそんな娘に育てた覚えはないぞ!?」


 いやまぁ、そりゃあ育てられてはいませんからね。


 おっと、しかし私は知的生命体。まずは言葉で交渉しましょう。いきなり家臣を蹴るやつとは違うのだ。


「……お父様。そんなことをおっしゃいましても、上様のご希望を断るわけにもいかないでしょう?」


「そんなもの、何とでもなる! いざとなれば謀反を起こせばいい! そこまですれば上様も諦める――」


「――なりません」


「……和?」


 この人は自分が何を言っているか分かっているのだろうか?


 本気で謀反を起こす気はないのかもしれない。瀬戸際外交として「和を諦めないと謀反をするぞ!」と脅すだけなのかもしれない。


 ――ただし、幕府がどう捉えるかは別の問題だ。


 本気で仙台藩が謀反を起こすと判断し、本気で叩き潰しに掛かることも十分に考えられる。


 私は、仙台藩のことは何も知らない。仙台になんて行ったことはないし、どこにあるのかすら曖昧だ。もちろん知り合いなんていないし、愛着もない。


 でも、この屋敷にいる人たちのことはよく知っている。

 楓お姉さんやお里さん。爺や蔵人さん。屋敷で働いている藩士の方たち。


 謀反となれば、みんなが罰を受けるかもしれないのだ。仕事を失うかのしれないのだ。――死んでしまうのかもしれないのだ。


 そんなこと、許せるものか。


 そんなことを簡単に口にしてしまうこの男を、許せるものか。


「お父様。伊達家を守るためにも、()は上様に謁見したいと思います。その流れによっては、陰陽寮に通うことになるかもしれません」


 強く、強く睨み付ける。場合によっては魔法を使うことも覚悟しながら。


 数秒か。あるいは数十秒経ったか。


「――っ! …………、……か、勝手にしろ!」


 吐き捨てるように叫んでからお父様は部屋から出て行ってしまった。


 まぁでも追いかける気にもならないので、私は爺の横にしゃがみ込んだ。


「爺。大丈夫ですか?」


「は、はい。拙者は……申し訳御座いません。拙者が至らぬばかりに姫様のお手を煩わせてしまい……」


「いえ、あんなの相手に良くやっていると思いますよ?」


 おっとしまった。ついつい『あんなの』と言ってしまった。まぁでも実の娘の和姫ちゃんにしてもこんな扱いをするだろうというか、これよりもっと酷い扱いをするんじゃないのかな? 不機嫌を隠そうともしない和姫ちゃんの様子からして。


「……姫様。上様との謁見、本気で御座いますか?」


「いやまぁ正直面倒くさいですけど。逃げるわけにはいかないでしょう?」


「それは、そうで御座いますが……」


「爺にはこれから将軍相手の礼儀作法を教えてもらわなきゃいけないですねー」


「……そうですな。そういたしましょう」





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