お手紙
翌日。
楓お姉さんに抱き抱えられたまま屋敷に帰ってきてしまったけど。次期将軍が相手なのだからちゃんと挨拶してから帰るべきじゃなかっただろうか? ほら、私って小心者だからさー。そういうの気になっちゃうんだよねー。
「はぁ……?」
相談をしていた楓お姉さんが「小心者? どこが?」という顔で首をかしげた。解せぬ。
「というわけで、軽く謝罪するべきだと思うんですよ」
「次期将軍に対して、軽く、ですか……?」
信じられないものを見るような目をする楓お姉さんだった。いいじゃん軽くで。若様だって軽い人間だったのだから。
「というわけでどうします? とりあえず名古屋城天守閣に忍び込んだり?」
「やめてください」
「魔法を使えば簡単ですよ?」
「やめてください」
「ほら、いざとなったらどこかに攻撃魔法をぶち込んで城兵が気を取られているうちに……」
「おやめください!」
楓お姉さんの猛反対により、『ドキッ☆トラブルだらけの天守閣潜入作戦♪』は無期限延期となった。中止じゃないのがミソである。
「ん~、じゃあお手紙でも出します?」
「いえ、手紙を書いても渡す手段がないかと」
「そこはほら、楓お姉さんに頑張ってもらって……」
「無理です、無理無理。天守に忍び込むなど……」
断固拒否されてしまった。いや町に遊びに来た若様に手紙を渡してくれるだけでいいんですけど……。真っ先に天守閣潜入を思いつくあたり、楓お姉さんもだいぶアレだよね。
……え? 私の悪影響? ははは、そんなまさか。まさかそんな。
私が一人ツッコミをしていると、
「――っ! 何奴だ!?」
楓お姉さんが私を庇うように動いた。その視線の先は……庭?
とりあえず楓お姉さんの周りに結界を展開。それから庭へと視線を向ける。ちなみに私は最近習得した結界(自動展開)に守られているので安心だ。
庭にいたのは……商人? 行商人? そんな格好をした男性だった。
特徴のない顔。
人混みに紛れたら見つけられなさそうな顔。
「ははーん? おにーさん、忍者ですね?」
私が『きらりーん』と目を光らせると、忍者(仮)は参ったとばかりに自分の頭を叩いた。
「あいや、これは鋭い。さすがは姫君で御座いますな」
へっへっへっと揉み手をする忍者だった。
「姫様! 平然と話しかけないでください! ええい! 貴様! どうやってこの屋敷に忍び込んだ!?」
「いやいや、ご安心を。此度は正式な手順を踏んで入ってきましたので」
「正式?」
「えぇ。とは言いましても、忍びとしての正式な手順でありますが。――蔵人様は承知済みですので、どうか、どうか」
「…………」
楓お姉さんは納得できていないっぽいけど、まぁ私としては正式でも非公式でもいい感じだ。だって結界があるからそんな酷いことにはならないだろうし。
「つまり、お客さんですか? お茶でも出します?」
「姫様!?」
「でも、お茶も出さないのはどうかと思いますし……」
あ、忍者なんだから余所でお茶なんか飲まないかと気づいたところで、
「……はははっ、いやいや、これはご丁寧に。しかし今日は使者で御座いますので。お茶を楽しむのはまた別の機会に」
「使者?」
「はい。――津田元春様より、お手紙を預かっております」
津田元春。織田信春様の偽名だ。
す、っと忍者さんが手紙を差し出してくる。いかにも時代劇っぽい、折りたたまれた手紙だ。
まずは楓お姉さんが受け取り、隅々までチェックし、そのあとで私に手渡される。
「ほうほう」
相変わらずのくねくねした字だけど、自動翻訳のおかげか問題なく読むことができる。なになに?
「……上様が会いたがっていると?」
春様の父親。つまり、今代の征夷大将軍である。




