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時代劇の悪役姫になりました。~処刑は嫌なので、正義の味方をはじめます~  作者: 九條葉月


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閑話 若様

 その日。

 若様――次代将軍織田信春はいつも通り町へと繰り出した。


 目的は町歩き。

 しかし、語感の軽さとは裏腹に、その実態は幕府による統治がどれだけの効果を発揮しているか確かめるための調査であった。市場の価格変動や流民・物乞いの数が増えていないかの確認、町にどれだけ活気があるか、等々……。


 一度見ただけでは全てを調べることなどできないし、資料として使うなら、定期的な観察が必要となる。ゆえにこそ信春は何度も何度も町へ足を運んでいたし、それは現将軍である父も黙認していた。


 ……純粋に、町歩きを楽しんでいることも否定できないが。


 そんないつもの町歩きの中。ふと目を引かれたのはとある三人組であった。


 一見すると、豪商とその娘二人。


 普段の信春であれば特に気にしない物見遊山ご一行だ。


 だが、妙に目を引かれた。


 三人組の中で一番年下であろう少女。年齢は13か14歳くらいだろうか? 結婚してもおかしくはない年齢だが、なんとも子供らしい無邪気な笑顔を浮かべている。


(うむ、うむ。こうして少女が笑っていられるのも平和な証拠か)


 信春が心の中で何度も頷きながら、不思議とその少女から目を離せないでいると……にわかに周囲が騒がしくなった。どうやらスリが逃げるのに失敗、女を人質に取ったようだ。


 だが、信春がまず注目したのは三人組の動きだった。


 信春が目を奪われた少女を庇うように行動した、商人風の男と、姉と思われた女。


(動きが只者ではないな。忍びが護衛をしているのか? となると、あの少女、どこぞの姫君か? ……おっと、今はそんなことを考えている場合ではないか)


 小さく頭を振った信春は、スリの人質を救出するために一歩前に出た。


 ――ほぼ、同時。


 信春と同じく一歩を踏み出したのは、例の、姫君であろう少女だった。


 何とも見事な心意気。


 さらに言えば。近くで見ればなんとも美しい少女であった。艶やかな黒髪は日の光を浴びて輝くようであり。白き肌は寒き朝に積もった新雪のよう。

 そして、吸い込まれるような感覚に陥る、不思議な魅力を発する瞳。


 心が美しく、外見も美しい。


 信春は感心することしきりだが、だからといって危険な行動を見逃すわけにもいかない。少女を下がらせ、スリに近づいていく。


 信春としては余裕があった。ここで刀を見せて降伏するならそれでよし。まだ抵抗するなら、自分に付いている忍びに『成敗』させればいいだけのことだからだ。


 しかし、信春の思惑は大きくズレることとなった。


「――風よ、我が敵を討て(ヴェントゥスニス)!」


 風が吹き荒れ、飛礫(つぶて)のようなものがスリの頭に直撃した。


(……真法(まほう)?)


 信春も陰陽師が扱う真法を目にしたことがあるし、陰陽頭(筆頭陰陽師)であれば大規模な攻撃魔法を扱えることも知っている。


 だが、こんな町中に、真法の使い手が……?


 疑問に思いつつ、武士として鍛え上げられた信春は『敵』の無力化に向けて動いていた。……それはいいのだが、真法に気を取られて刀を返すことを忘れて男の腕を斬り落としてしまい、結果として少女を立ちくらみさせてしまったのは大きな失敗であった。






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