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時代劇の悪役姫になりました。~処刑は嫌なので、正義の味方をはじめます~  作者: 九條葉月


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経費

 情けないことだけど、生まれて初めてグロテスクな場面を見てしまった私は立ちくらみを起こし、近くの茶屋で休ませてもらうことにした。ほとんどの時代劇は人を斬っても血が出ないから、ギャップがねぇ。


「すまぬな、少女にはちと刺激が強すぎたか」


 申し訳なさそうな顔をする青年――若様だった。改めて見てみても好青年系イケメンで主役に相応しい爽やかさなのだけど……平気な顔で人の腕を切り落とすんだよねぇ。いや犯罪者相手だし、女性を人質にしていたのだから是非もないだろうけど……時代劇って怖いなぁ。


「おっ、そうだ。こういうときは額を冷やした方がいいと聞いたことがある。ちょうど茶屋だからな。氷をもらってこよう」


 そう言い残し、店員さんのところに向かう若様だった。はて? 茶屋なのに氷があるの? もしやこの時代に抹茶フローズンが?


「最近の茶屋はかき氷を出すのが流行っているのですよ」


 と、楓お姉さんが教えてくれた。時代劇世界でかき氷かーっと思いながら壁に貼られたメニューを確認してみる。


「おー」


 この時代の茶屋って団子とお茶くらいしかないと思っていたのだけど、意外や意外。かなり豊富なラインナップとなっていた。個人的に驚きなのはカステラや金平糖(こんぺいとう)、そしてかき氷があったことだ。カステラとかは砂糖をいっぱい使いそうだし、かき氷用の氷は保存が大変そうなんだもの。


 ちなみに。

 私はこの世界の物価なんて分からないけど、団子やお茶に比べるとお高めの値段設定となっていた。特にかき氷なんてお団子が何個食べられるのかってレベルだ。


「いろんな甘味があるんですねー」


 ほへーっと感嘆の声を上げると、楓お姉さんが答えてくれた。


「大神君が甘党でしたので。名古屋においては菓子文化が発展しております」


「へー」


 大神君というと織田信長だっけ。どちらの世界でも甘党であることに変わりはないみたい。


「銭の価値はよく分かりませんけど、かき氷が高くないですか?」


「そうですね。ずいぶんと高い気がします」


 現地人的にもお高いらしい。その口ぶりからすると「かき氷って高いんですよね~」じゃなくて「ずいぶんと値上がりしてますね」って感じ?


 首をかしげていると蔵人さんが解説してくれた。


「近ごろ氷が大量に購入されまして。冷蔵庫の氷が少なくなり、値段が上がっているようなのです」


「へー。かき氷ブームでもあったのですか?」


「いえ、とある大名家が大量購入したところ、『他の大名家も買い占めるに違いない!』という噂が広がったようでして」


「へー」


 どっかの馬鹿殿様がかき氷パーティーでもやったのかな?


 しかし、自分で言っておいて何だけど、よくもまぁ『ブーム』なんて言葉が通じたものだ。これもスキル『自動翻訳(ヴァーセット)』のおかげかな?


 あと、蔵人さんさっき冷蔵庫って言いました? 氷室じゃなくて? まさか電動……? いやこっちも自動翻訳(ヴァーセット)が翻訳してくれた可能性があるのか。


 とにかく、今はかき氷が貴重らしい。


 で、若様はそんなかき氷の原料・氷をもらいに行ってしまったみたいだ。


 流れ的には若様が買ってくれるんだろうけど……それはちょっと申し訳ないなぁ。なにせかき氷だけであのお値段だ。いやでも次期将軍なんだからお金は持っているのかな? いやいやお金を持っているいないじゃなくて、お高いものを奢ってもらうのはなぁ。


「……楓お姉さんってお金持ってます? ちょっと貸してもらえません?」


「ご安心を。あの青年にはこちらから払っておきますから」


「それはそれで今度は楓お姉さんに対して申し訳なさが……」


「そちらについては経費申請しますので」


「経費」


「経費です」


 毎回領収書をもらう忍者を想像してしまう私だった。シュール。


 いやまぁ今この場には上司(蔵人さん)がいて、事情を知っているのだから経費として通るんだろうね。なぁんて考えながら蔵人さんを見ると、彼は意味深に微笑むだけだった。……楓お姉さん、がんばれ。




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