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時代劇の悪役姫になりました。~処刑は嫌なので、正義の味方をはじめます~  作者: 九條葉月


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いっけめーん


「……ここは私があの女性を助けるべきでは?」


「いけません」

「なりませぬ」


 即座に否定する楓お姉さんと蔵人さんだった。


「でも、私なら無傷で制圧できますよ?」


 手のひらの上で雷をパチパチさせると二人も納得したようだ。……目の前の雷が恐ろしくて何も言えなかっただけかもしれないけど。


 いや、もしかしたら「こいつなら放っておいても平気だな」と思われただけかもね。


 ちなみに。

 雷魔法を使うとスリ男に捕まっている女性までも感電してしまうだろうけど……ツッコミはなかった。たぶん『電気で感電』という概念が無いのだと思う。いや楓お姉さんは一度感電しているはずだけど、たぶん理屈では分かってないだろうし。


 ふふふ、ここは最近勉強した氷魔法と風魔法の合わせ技で、氷の飛礫(つぶて)を飛ばすというのをやってみましょうか。生身の犯罪者相手に実験――じゃなかった。恐怖で震える人質女性を安心安全に解放するために!


 ちょっとウキウキしながら私が一歩踏み出したところで。


 ――ほぼ、同時。


 私と同じタイミングで、一歩を踏み出した男性がいた。


 思わず顔を見合わせる、タイミングぴったりな私と彼。


 年齢は、私より数歳年上だろうか? 武家っぽい格好をした青年だ。


 顔つきはガッシリしていて、いかにも武家の人間って感じ。アゴはガッシリしているし、鼻筋は一本通っている。眉毛も太めで下手をすれば暑苦しい顔なのだけど……涼やかな目元のおかげで、奇跡的にバランスが取れているイケメンだった。なんというか、モノクロ時代の時代劇に出てくる主役俳優みたいな。


 正直言おう。


 ――めっちゃ好みのタイプです!


 濃い顔つき! ガッシリとした肉体! しかしながらも涼やかな目元! これで声まで美声だったら一発K.O.で――


「ほぉ。ここで一歩を踏み出すとは見上げた義侠心。だが、危険であるぞ? 下がっておれ」


 美声!

 めっちゃ好みの声!

 もうズキューンバギューン! っと胸を貫かれちゃう私だった。


 ……って、あれ?


 この顔。

 この声。

 もしかして……?


 ――若様?


 この世界の原作、アニメ時代劇『信春騒動記』の主役・織田信春なのでは?


 すぐに気づかなかったというか、今もちょっと懐疑的なのはアニメと現実の差があるから。なんかやっぱり違和感があるよね。

 いや自分が『悪徳姫・和』になったことにはすぐに気づけたのだけど……ほら、和姫(わたし)って銀髪だからね。それで似た顔となればすぐに『きゅぴーん』と来るのだ。


 若様。

 と、疑うとそうとしか思えなくなってしまう。顔そっくり。声はまるで同じ。これで違ったら「ふざけんな!」と逆ギレしても許されると思う。


 若様はよくお忍びで町に出かけていた(というか出かけないと事件に巻き込まれず話にならない)ので、今ここにいるのも別段不思議なことでは無いと思う。さらに人質の女性を放っておけず一歩前に出てしまうところなどいかにも若様らしい。


 ――次期征夷大将軍・織田信春様ですか?


 なぁんて、尋ねられるわけがない。


 どうしたものか。やはり気づかなかったふりか。いやしかし好みのイケメンとの運命的な出会いがあったのにこのままお別れというのも――などと考え、必然的に黙り込んでしまう私だった。


「ふむ?」


 動きを止めた私を訝しみながら、「まぁ止まったのならいいか」と判断したのか、私好みのイケメン青年が二歩、三歩とスリ男と人質の女性に近づいていく。――腰の刀を抜きながら。


「小悪党。その女性(にょしょう)を離せ。これ以上罪を重ねることもあるまい」


「う、うるせぇ! どうせ捕まったら首を刎ねられるんだ! この女も道連れにしてやるぜ!」


「……なるほど、屑であるな」


 呆れ果てた様子の青年。だけど人質のことを思ってかそれ以上近づけないようだ。


「おい! その刀をこっちに寄越せ! 寄越せってんだ!」


「……是非も無しか」


 男の要求に従い、青年が刀を鞘に収めようとした、その瞬間。


「――風よ、我が敵を討て(ヴェントゥスニス)!」


 事前に発生されていた氷の飛礫(つぶて)を、風の魔法で撃ち出す。


 小石程度の大きさの氷は狙い違わずスリ男の頭に当たり、男は大きく体勢を崩した。


 そして、その隙を青年は見逃さない。


 即座に距離を詰め、抜刀。一振りでスリ男の右腕を切断してしまった。


 男の右腕が地面に落ちる。握っていたドスと共に。


(うわぁ……、うわぁ……)


 初めて生で見る実戦。


 初めて見るおびただしい出血と、切断面。


 あまりに生々しいその光景に、私はちょっと立ちくらみを起こしてしまうのだった。








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