無意識自殺未遂 終
今回で詰め込めるかも!
ということで、少し長めです(今回だけ)。
悠立さんは悲しそうな表情をしている
「修行もそこそこに代替わりも無理な話で」
「疲れてしまったんでしょうね、大河さんも」
不眠症か……私の母も悩んでいたっけ。
そして、それを私のせいと言って責めた。
どんな時でも私の家には居場所がなかったな。
「どうしたんだい? 急に暗い顔になって」
「こんな話、嫌だよね。ごめんね」
そんな私を気にしてか悠立さんは声をかけてくれた。
「いいえ、少し昔を思い出してしまって」
「……そうかい。なにかあれば」
「ウチの病院に来ると良い。人手はあるから」
「ありがとうございます」
先程の私は病院の先生からはどう写ったのだろう
悲しい少女にでも見えてしまったのか
私に後悔はない。
紫雨さんと一緒にいれるから、助手になれたから
あの家で我慢したからこそ、今があるのだから
だから、後悔はない。
でも、ここに来たのは仕事なのだから……
未だに私は探偵としての仕事を補助できていない
そう気付いた私は聞くことにした。
「大河さんって今どこにいるんですか?」
「あぁ……今は落ちぶれてしまって」
「ボロアパートに1人って話です」
悠立さんの話し方は特徴的である
敬語が所々に混ざる話し方だ
「じゃあ……誰も知らないんですか……」
「残念ながらそのようですね」
「人に興味がない人だからね」
今は誰も大河さんの場所を知らないらしい。
すると突然、部屋の扉が開き瑞希さんが顔を出した
「あの、悠立? そろそろ戻らなきゃじゃない?」
悠立さんは時計を見るなり慌てたように立つ。
「助手ちゃん、名前は!?」
「えっと、時雨です……」
「時雨ちゃん、ね! 私は仕事に戻らなきゃ」
「だから、また今度。突然ですいませんね」
と、足早に荷物をまとめ家を後にしてしまった。
「あら? 探偵さんはどうしたの?」
「あー、紫雨さんは電話で席を外してます」
そして、これまで話したことを大まかに瑞希さんに
伝えた
「なるほどね。お兄ちゃんの話してたわけだ」
「いいよ。探偵さんが帰ってくるまでお話しよう?」
なんか幼く見られてる?
気を使われているな……これ。
乗ってあげるか……
「あ、ありがとうございます」
うんうん、と頷く瑞希さんは
話し始める
「最近のお兄ちゃんね、ずっと変なこと呟いてて」
「ちょっと怖いんだぁー」
「変なこと……ですか?」
ちっちゃい子供に怖い話をする、みたいな話し方だ
「部屋の隅に黒い幽霊が立ってることがあるってさ」
「それでさ、言うんだってよ」
瑞希さんは人差し指を立てて言う
「俺の物を返せ、もう奪うな……って」
「怖いでしょ〜?」
「確かに、怖いですね……」
「その話はいつ聞いたんですか?」
「あぁ、親族で集まった"あの日"だよ」
少し大河さんの人間性がわかった気がする
単なる予想なのだが
誰かから借金をしたり、他人を踏みにじる生き方
そんなような人なのではないか?
霊が憑いたりするような人ってそのくらいじゃない?
「誰かから恨まれてたりするんですかね……?」
「さぁ、どうだか知らないけど、」
「お父さんには恨まれてもしかたないかもね」
「何かしたんですか? 大河さん」
瑞希さんは暗い声で答える。
そりゃあ話しづらいよな。
「家のお金使い込んだり、お店の料理の味変えたり」
「結構いろいろやっていたかな」
それはすごいな。
というか、元の話題からズレている。
私が知りたいのは犯人についてだ。
大河になんか興味はないぞ
「いや、いい事を聴いたよ。わかった気がする」
「遅くなってごめんね。瑞希さんもありがとう」
会話をしていると、紫雨さんが帰ってきた。
そのまま瑞希さんに挨拶をして私達は家を後にした
「もう、どこ行ってたんですか?」
私はすね気味に紫雨さんに聞く。
「約束があってねある人に会っていた」
「氷雲大河……彼からも依頼があったんだよ」
「えっ、見つかったんですか!? 大河さん」
「見つかったとはなんだい。元からわかっているよ」
紫雨さんは余裕な表情で返す。
「それで、彼からはどんな依頼が?」
「あぁ、部屋の幽霊を祓って欲しいと言われたが」
「お断りしてきたよ」
どうして断ったのだろうか、紫雨さんならできる気が
私が聞く前に紫雨さんは答える。
「状況が状況だったから無理だね」
「えっ、どういうことですか?」
紫雨さんは少し考えた後に言い放つ
「あとちょっとでわかるんじゃないかな?」
「でもまずは、あの亡霊の所へ行こうか」
と言って、紫雨さんは歩き出してしまう。
向かっている場所は神社でも事務所でもなく
私の知らない道を進んでいく
「亡霊さんとはどこで待ち合わせなんですか?」
「待ち合わせなんかしてないよ。会いに行くんだ」
笑っている紫雨さんはどんどんと歩いていく。
気づけば、先ほどとは真逆の汚い住宅街。
ある一軒のアパートの前に来ていた
「ア、アパート?」
アパートの外観は古く、人は住んでいるようだが汚い
そんなことを考えていると私の脳裏にある言葉が
浮かぶ
「今は落ちぶれて、ぼろアパートに1人……か」
「あはは、その話は誰から聞いたの?」
「察しが付いたみたいだけれど」
「悠立さんから聞きました」
「こんなアパートに大河さんは住んでいるって」
ふうん、といった感じに紫雨さんは頷き
私へと笑いかける
「それじゃあ行こう」
アパートの一室を叩いて出てきたのはやはり
亡霊さんではなかった。
「あぁ? 誰だ? って、探偵の姉ちゃんか!」
「幽霊、祓ってくれる気になったんだな!」
出てきたのは髪の毛がボサボサなおじさんだった
髭は整えられていない、肌も汚れている
そんなおじさんに向かって珍しく冷たく
紫雨さんはあしらう。
「用があるのはお前じゃない。そこをどけ」
「あ、えっと……失礼します」
紫雨さんに続き、私は中へ入る。
放心しているのか、おじさんは止めない
「汚い部屋だよ……」
「部屋というのは人間性を写すからね」
すると部屋の隅から言葉が響く。
「全くその通りだ。紫雨のくせによく言う」
私は驚くも、聞き覚えのある声であることに気づいた
横からおじさん、いや氷雲大河は口を挟む
「おい、今もいるのか? いるんだよなぁ?」
「何とかしてくれよお前らがよ!」
「黙っていろよ氷雲大河。お前にようはない」
やはり紫雨さんは冷たい。
いつもと違う紫雨さんは大河さんを睨む。
「何のようでこの部屋に来た。紫雨……」
「答えが出たから来たのだろうな?」
「あぁ、親族から話は聞いていた」
「犯人になり得るのは"ソイツ"だけだ」
恐らく、犯人は大河さんなのだろう。
それしか無いとは思っていた。
今回の被害者が父である徹次さんであれば、犯人は
結婚で揉めた娘夫婦の可能性もあった。
しかし、被害者は母である雪江さんである。
娘夫婦は小金持ちな為、早急に遺産が欲しいわけでも
ないのだから……犯人は息子夫婦しかいない。
だが、今は離婚しているので結果的に犯人は
息子のみである、氷雲大河。その人しかいないのだ
「わかった。時雨も理解できたかな」
「予想通りだったよ。」
犯人がわかっただけの私を置いて、紫雨さんは
大河さんに向き直る
「幽霊は君に言っているよ。自分の罪を認めろって」
「そうすれば祟るのは止めるそうだ」
大河さんは私達を睨みつけた後
警戒したように距離を取った。
台所の方向だ、凶器があるかも知れない。
「大丈夫です。私達は警察ではないので」
「何を聞いても通報はしませんよ」
私は大河の行動に少し焦り、弁解した。
あなたへ危害は加えない……と
少し安心したのか、ごくりと唾を飲み
大河は話し始める。
「母さんを殺そうとした……」
「弟の病院でもらった睡眠薬で眠らせて」
「そうですよね、わかってますよ。」
私は優しく語りかける。
優しい人の演技は得意だから
「眠らせて……母さんの首に縄をかけて、吊るした」
「金が欲しかったんだ……」
重い顔をしているが、反省はしていない。
そんな気がする。
「俺はもう盗みをした。さっきだ」
「殺人未遂もバレた……前科者、無期懲役……」
すると台所から包丁を取り出し、大河は笑い出す。
「ハハ、2人殺したところで変わらねーな」
「生き地獄が地獄に変わるだけだもんなァ」
「おい、待て。」
「"お前の名前はなんだ?"」
急に紫雨さんが言うと
大河は少し動きを止め、答える
「何言ってんだよ。お前知ってんだろ」
「黙れ。いいから答えろ」
「もう一度聞く」
紫雨さんは冷たく、重く、大河へ質問する
もう一度紫雨さんが問うた時、声が重なった
「「お前の名はなんだ」」
「……大河だ! 氷雲大河! だよ!」
「今からお前らを殺す人間だ!」
すると紫雨さんは後ろを向いた
「おい! どうした! 後ろなんか向いて!」
「諦めちまったかァ?」
「もう終わったんだよ。依頼は完了だ」
紫雨さんの目の前に黒い影が立ち上り、
厳格のあるお爺さんへと変貌した。
豪華な着物を着ていて……私、今亡霊が視えている?
「よォ、名前……教えてくれてありがとなァ」
「俺は"氷雲徹次"だよ。クソ野郎」
大河は意識を失った。
後日、テレビを見ていると母親殺害未遂で出頭。
そんなニュースが目に入る。
犯人は1人、氷雲大河。
彼はとある刑務所に送られ、判決は減刑ありの死刑。
これはそう遠くはない未来の話だが……
後のニュースで彼の名が上がることがあった。
彼は死刑予定日の丁度前日に刑務所の水道で
溺死したのだそう。
水の張っていない、水道で。
最初の事件解決は簡単に!