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無意識自殺未遂 肆

"あの日"とは自殺未遂があった日です。

 指紋が、見つからなかった……?


 すると紫雨さんは笑顔で言う


 「いやぁ、ごめんね。酷いことを言った」

 「雪江さんから聞いているんだよ」


 「えっと……? なにをでしょうか?」


 不思議そうに瑞希さんは言葉を発する。


 「孫が成人するまで死ぬ気はない、と」

 「君の反応を見ていただけだ。悪かったね」


 やはりこれは自殺未遂ではない。

 他殺未遂事件だ。


 「万が一、君が犯人だったらと考えてね」

 「犯人は君ではないようだ」


 「は……はあ。ありがとうございます?」


 そんなような会話をしていると、玄関の方から

 音がした。


 「誰か来てるのかー?」

 「知らん靴があるぞー」


 誰かが叫んでいるようだ。

 すると、瑞希さんが慌てて立ち上がる。


 「あっ、夫です。少しお待ち下さい」


 瑞希さんは席を外して行ってしまった


 「昨日のうちに推理したのだろう?」

 「時雨、君は誰が犯人だと思うかな」


 2人になった途端、紫雨さんは問を発する。

 私は少し考えた後に答えを伝えた。


 「……まだ犯人はわかりません」

 「でも私は悠立さんか亡霊さんが怪しいと思います」


 ふうん、という反応の紫雨さんはまたしても聴く。


 「なら、動機はなんだと言うのだ?」


 「えっと、結婚を反対されたから……」


 結婚を反対したのは雪江さんか?

 

 違う。


 「あ、お金……いや、えーっと」


 悠立さんは医者だ。

 犯罪をしてまでお金が欲しいものか……


 「氷雲悠立の動機は薄い」

 「可能性としては低いかもしれないね」


 私の考えを読んだかのように言う。


 「じゃあ犯人は……」


 「他にいるよ。予想だけど」


 ちょうどその時、客間の扉が開いた


 「私のお客様だったとは、待たせてすいませんね」

 「職業柄この時間と夜しか帰ってこれませんで」


 「あぁ、いえいえ。雪江さんの話が聞きたかった」

 「それだけのことだから、心配はいらないよ」


 「それはありがたい」


 悠立さんはハハハと笑い、話し始める。


 「お母さんを初めてお見かけしたのは」

 「私の病院だったかな」


 「ええ、なんでも徹次さんのかかりつけ医だったと」


 紫雨さんと悠立さんの間には変な緊張が走っている


 「当時のお父さんは心臓病で入院してましてね」

 「結婚の挨拶も病室になってしまいまして……」


 少し顔を落とす悠立さんは歯を食いしばっていた


 苦虫を噛み潰したような表情というものである


 「最後まで認めてもらえなかった。でしたね」


 不敵な笑みを浮かべる紫雨さんに少し顔を固くする

 相手に回ると恐ろしいとはこのことなのか……


 「あの人は厳しくも、愛のある人でしたよ」

 「私は救えなかったのに、救ってもらった……」


 悠立さんの目には輝く物があった。

 その輝きは頬を伝い、落ちる。


 「……本当に、尊敬する人ですよ」

 「すみませんね、こんな姿を見せてしまって」


 「いえ、いい人だったんですね。徹次さんは」


 私は口に出す。

 何という感動的ストーリーだろうか。

 

 紫雨さんも私を咎めることなく、話を聞いている


 「感動的な話をありがとう。そこで悪いが、」

 「雪江さんが自殺をしない理由に心当たりはある?」


 早々に話題を切り上げた紫雨さんは淡々と

 話をきいていく。


 「関係あるかはわからないのですがね……」

 「生前、雪江には孫の成人を見届けて欲しい。と」


 「徹次さんが雪江さんに……ですよね」


 「ええ、そうです。おしどり夫婦でしたよ」


 悠立さんは、またもやハハハと笑った。

 何とか雰囲気を持ち直そうとしているのがわかる


 「……そうですか、ちなみに雪江さんのお宅には」

 「行かれたことはありますか?」


 「そりゃあ、勿論ですよ。綺麗だったでしょう?」

 

 悠立さんは自慢気に声を明るくした。

 

 「お父さんの残したお金と私のポケットマネー」

 「少しかかりましたが、リフォームしたんです」


 「聞いていますよ。雪江さんも嬉しそうでした」

 「まー、話はそこそこにして……」


 やはりこの2人の会話には緊張感がある。

 どこか雰囲気が似ている、そんな印象だ。


 「私が聞きたいのは大河さんのことだよ」


 大河さんの名前を出した途端に悠立さんは顔を落とす


 「……あの人はもう駄目なんじゃないかな」

 「奥さんに逃げられて、母も自殺未遂ってくりゃあ」


 「おや、今や名のある料亭の店主と聞きましたが」


 成功しているではないか、何処が駄目なのか。

 そう思わせる言い方で紫雨さんは尋ねたのだ。


 しかし、これは誰からも聞いていない情報。

 雪江さんからも、瑞希さんからも。


 「元ね。徹次さんが入院をした時期に代替わりで」

 「味が変わったとかで客足は遠のいていったそうだ」


 「それで店を畳むまで至った……と」


 "そうだ"と言わんばかりに悠立さんは首を縦に振る。


 いつも通り、紫雨さんは"予想通り"といった顔。

 さすが探偵と言うべき人だ。


 「店を畳んだ後は娯楽に溺れ、妻は逃げたらしい」

 「"あの日"も終始暗い顔をしていましたよ」


 少し頷きながら紫雨さんは笑みを浮かべた。

 すると、紫雨さんの携帯が鳴った。


 「すまないね。時雨、代わりに話を聞いておいて」


 紫雨さんは私を残し、席を外して行ってしまった


 「君は……助手ちゃんなんだっけ?」

 「何か聞きたいことはあるかな?」


 聞きたいことと言われると出てこなくなってしまう。


 「えーと……じゃあ」

 「いつから瑞希さんとは?」


 「ハハッ、そんなことか」

 「あいつに私は一目惚れでね」


 照れ笑いをしながら悠立さんは話した


 「お見舞いに来た彼女を誘ってね」

 「カフェでお茶とかしたものだ」


 すると悠立さんはふと思い出したように言った


 「そういえば、お付き合いしてすぐに大河さんが」

 「ウチの病院に来ていた。挨拶も兼ねて会話したよ」


 何かわかることはあるだろうか

 気になった私は聞いてみる。


 「その時の印象はどんな感じの人でした?」


 少し考えた後に目を閉じて絞り出すかのように言う


 「私もあまり覚えていないのだがね」

 「客足が遠のいた時期でもあってか、不眠症だって」


 「そうですか……」


 「とても辛そうな顔をしていたよ」

 「今ほどじゃないだろうけどね」

あと1話で解決に持ってけるほうが困難である。

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