無意識自殺未遂 参
解決まであと少し……かなぁ
よくわからない感情のまま歩いた。
紫雨さんは何も言ってはくれない。
気まずい時間ではない、不思議な時間。
「もうすぐ着くよ。変なこと言って悪かったね」
「えっ、いえ……大丈夫です」
私は頭の中で復唱している
"似ていたから"という言葉
何が似ているのだろうか。
私なんかがおこがましい。
「言ってなかったね」
「私はしょうが無くで君を受け入れた訳じゃない」
紫雨さんは優しく私に言う。
「私が君を選んだんだよ」
その言葉がとても嬉しかった。
「あ、ありがとうございます」
「本当に、嬉しいです」
事務所は普通の街の中であった。
事務所は2階構造で2階が居住空間になっている
ゆっくりと2階にあがり、荷物を置く。
生活感があまり無いが綺麗な部屋だ
「今日から君の家はここだよ」
「先にシャワーでも浴びるといい」
「いえ、先に紫雨さんどうぞ」
「そう? じゃあ先に行くとするよ」
「書類とか、机の中は触らないでほしいな」
そう言って紫雨さんは部屋を出る。
しばらくするとシャワーの音が聞こえた。
これが初めての紫雨さんに迫るチャンスである。
「まずは机を見よう」
パソコンが置いてある。横にパスワードが書いて
あった。
住所を調べる。地元から少し離れた所なので
名称が知りたかったのだ
「春華澄市、幽昏番地」
パソコンを使っていると、机の上の紙に目が留まる
「このメモ……」
事が起きた日は親族での集まりがあった
もし、事件ならば雪江さんの家族が犯人となる
動機や方法もわからない。
本人の意識を奪い、操るなど人間が出来る芸当なのか
「もしかして、あの亡霊さんが……?」
怪異がどこまでできるのか私は知らない。
可能性はある。
すると後ろから声がする
「ないよ、あれは亡霊だ。怪異じゃない」
紫雨さんが下着に近い姿で立っている。
「早めに戻ってきて正解かな」
「それは……ごめんなさい」
「気になってしまって」
上着を羽織る紫雨さんに謝る。
それでも紫雨さんは微笑んでいる
「いや、いいんだ。本当に私と似ているね」
「探偵として優秀になりそうだよ」
私は気になったさっきの話を聞いてみる。
「……亡霊と怪異って何が違うんですか?」
「あぁ、そうだった。教えるね」
紫雨さんは話し始めた。
ゆっくりと子供に語りかけるように。
「亡霊は能力を持たないが、怪異は持つ」
「それだけのことだよ」
私の言葉を待たずに紫雨さんは言い放つ
「明日も早いし、シャワー。浴びておいで」
「寝ようか」
私は素直に従い、床についたのだ
不思議な事に寝付きが良い夜だ
「そろそろ起きてね。出かけるよ」
紫雨さんの声に目を覚ました私は少し戸惑った。
そうだ、もう私の家ではないのだ。
昨日はロングコートを着ていた紫雨さんは
涼しげな服になっている。
今日は晴れかな。
「春というのは大変だね」
「気温がコロコロ変わってしまう」
「雨も多くなっていきますもんねー」
「そうだね。まるで人間だよ」
紫雨さんはたまに面白い事を言う。
2日目だと言うのに、昔から知り合いだったような
そんな感覚になってしまうのだ
「さ、行こうか。時雨」
私は慌てて支度をする。
今日は土曜日である
会話しながら歩く。
悠立さんの家は市内にあるそうで、遠くはない
「今日は快晴ですね」
「いい日だね。今日も頑張ろう」
高級住宅街へと足を進める。
豪華な家が立ち並び、上品な人々が目に付いた。
「豪華ですねー! お庭も広い!」
「社長家族や俳優も住む住宅街だそうだよ」
急に足を止めた紫雨さんは横の家の呼び鈴を押す
「さぁ、仕事開始。」
呼び鈴の向こうから聞こえた声は明らかに女性である
悠立さんではないようだ
「悠立さんに用事があるのですが、いるかな?」
紫雨さんは言った。
話し方がごちゃごちゃである。
「えぇ……っと夫ならまだ帰っていませんよ」
「もう少しだと思うので、上がりますか……?」
「そうさせてもらう。私だけじゃなくてね」
「私の連れの、時雨も頼むよ」
「わかりました。少々お待ち下さい」
予想外の事に私は狼狽えているというのに、
紫雨さんは冷静で、優雅だ。
しばらくして出てきた女性は私達に謝罪する
少し話をすると中へ誘われた
「突然押しかけて申し訳ないね。申し遅れました」
「私は春雨紫雨。この子は時雨です」
女性は私達に歓喜の声をあげた
「ああ! あなた達が!」
「母から聞きましたよ」
すると女性……雪江さんの娘は話し始めた。
どうやらあの後、雪江さんから連絡があり
とても楽しそうに私達の話をされたとのことだった
「昨日はありがとうございます」
「私、瑞希と申します」
瑞希さんは雪江さんのことを話してくれた。
そして、思い出したようにつぶやく。
「母は、自殺するような人じゃないんです……」
「ええ、存じていますよ」
「私達はそれについて調べているんです」
紫雨さんは微笑みながら瑞希さんへ説明していく。
またしても、私は置物になってしまうな
話し終えると、瑞希さんは冷静になったようで
話し始めた
「あの時、パニックになっちゃって……」
あの日起きたことを……
「私、これ事件だって思ってるんです」
「警察に調べてもらった時は自殺未遂になったけど」
瑞希さんのその言葉を聞いて
咄嗟に私は口を挟んだ。
「事件なら家族の中に犯人がいることになりますよ」
瑞希さんは私を真っ直ぐ見つめる。
「死んでないから解剖もされてないし」
「検査だってされなかった……」
「だから、誰が犯人か暴いて欲しい」
"そのつもりです!"と言おうとした時
紫雨さんは瑞希さんへ尋ねた。
「君はなぜ、そこまで確信している?」
「自殺未遂だと警察が判断したのだろう」
紫雨さんは瑞希さんが犯人だと疑っているのだろうか
私にはそうは思えなかったが……
「……さっきも言った通り」
「私はあの人が自殺なんて考えられません」
「それは君の主観だろう」
「それに、捜査してくれた警察さんから聞きました」
「……縄だけに見つからなかったんだそうです。」
紫雨さんはまっすぐ瑞希さんを見つめている
それに答えるように瑞希さんも紫雨さんを見つめる
「何がなかった……と?」
紫雨さんが質問すると、瑞希さんは深呼吸する
ひと呼吸の後に瑞希さんは言った。
「……母の、指紋です」
あと2話くらいで解決させたいなぁ