春雨紫雨
ミステリー系書いてみたかった。
少しでも面白い、続きが気になる!って思っていただいたのなら、ブクマお願いします!
私があの名前を名乗り始めたのはいつからだろう。
あの日は秋の終わり頃。
気分の悪い雨が続く日だった。
「あっ、傘壊れてる……」
「この折りたたみ気に入ってたのにな」
最寄り駅に着いて、傘を見た私は落胆した。
友達と出かけて楽しい気分が台無しではないか。
「家まで15分かぁ…コンビニで傘買お」
実家ぐらしの私は親に迎えに来てもらうこともできる
のだが、あまり頼りたくはない。
「やあ、君も傘がないのかい?」
考えたくもない親の事を考えていると、
私は誰かに話しかけられた。
「無視はないだろう」
「それもこっちを見ながらとは……」
「あっ、ごめんなさいっ」
「急に話しかけられて驚いてしまって……」
「それもそうだね。悪かったよ」
「急にこんな美人に話しかけられたら戸惑うだろう」
確かに美人だ。
ミステリアスでそれであってどこか惹かれる。
「お詫びと言ってはなんだが、取っておいてくれ」
お姉さんは着ているロングコートの内ポケットから
綺麗に折られた千円札と名刺を差し出した。
「お金なんて! 受け取れませんよ」
当然だが、断ることにした。
こちらが悪いようなものなのに受け取れる訳がない
「傘が無いのだろう?」
「それで買えばいい。それではまた」
お姉さんは長い襟足を少し触った後、
傘をさして何処かへ歩いていった。
「あるんじゃん……傘」
手元に残された千円札は返す相手がいないので、言われた通り傘を買うことにした。
「またか……もう一回、会えるかなぁ」
私は名刺を貰っていたことに気づいた。
夕立探偵事務所……春雨紫雨。
事務所の住所らしい場所と電話番号が書かれていた。
「探偵さんか、今度お礼しに行こ」
私は紫雨さんにあげるお菓子と傘を買って
家路を辿る。
私の家は母、義父、義弟、私という家族構成だ。
本当の父と母は離婚し、母の愛人は連れ子持ち。
あの家に私の居場所はない。
いっそ……探偵さんの助手になってしまいたい。
そうこう考えている間に家の扉の前に来てしまった。
鍵穴に鍵を入れて横に回す
「鍵があいてる…?」
元から空いていたようで、逆に閉めてしまった。
改めて開けて中へ入る。
「おっと、君はさっきの」
「この家の娘だったのか。偶然……」
私の家にいたのは春雨紫雨……探偵さんだった。
どういうことだろう。
探偵さんは少し驚いた顔をしている
「えっ、と……なんで紫雨さんが家に?」
「あれ? 名前教えたっけ……あぁ名刺か」
「突然だけど。君の家族は消えてしまった」
私は紫雨さんの話を聞いて、困惑も悲しみも
怒ることもなかった。
逆に安心してしまった。
事態を飲み込んでしまった。
「君の反応は異端だね」
「そんなに家族は嫌い?」
安堵すらしている私に向かって探偵は質問をする。
「い……いえ、嫌いではないですけど」
「どうでもいいんです」
紫雨さんが相手なら何でも打ち明けてしまいそうだ。
さっき、初めて会った人なのに。
「そうだろうね。予想通り」
探偵さんは笑っている。
「これからどうしよう。私、親戚なんかいません」
「消えちゃった……かぁ」
私は何を期待しているのか、紫雨さんに呟いた。
「うーん。そうか、これは期待かな」
「……私のようになってしまうが、来る?」
私は悩むことなく春雨紫雨に、探偵に答えた。
「よろしくお願いします」
「即答か。予想通り」
「お姉さんは嬉しいよ。よろしくね」
「はい!」
私は成るがままに紫雨さんと事務所へ向かう
事務所へ向かう道は廃れた商店街だった。
「あの、この先ってもう何も無いんじゃ……?」
「そんなことはない。賑わっているよ」
私の記憶ではこの先には廃れた神社しかない。
少し高い山の上にある小さな社だ。
「この先は神社しかないと思ってました!」
「賑わってる街なんてあったんですね!」
「君は中々探偵向きかも知れないね」
「正解だよ。事務所は"神社"だ」
紫雨さんは笑いながらタバコを吹かす。
時々見せる笑顔は本当に魅力に溢れている。
「私、やっぱり紫雨さんみたいになりたいです」
「あはは、嬉しい。でもオススメはしないな」
神社までの階段に差し掛かった。
こんな所に人が来るとは思えないのだけど……
「人が来るとは思えないだろう?」
「えっ……あっ、はい」
思っていた事を的中させられ、
素っ頓狂な声をあげてしまった。
「人が来なさそうだからいいんだよ」
「今から君とは師弟関係……になるのかな」
「探偵さんの助手……ですよね? 頑張ります!」
私は紫雨さんの助手として手助けをする!
がんばるんだ!
「それもあるけどね、何も相手は人とは限らない」
「私の所には妖怪や妖も来るんだよ」
妖怪……? あやかし……?
現実離れした話に驚きを隠すことができなかった。
「妖怪とかって……存在しているんですか?」
「当たり前じゃないか」
「君の家族が消えたのも関係があるんだよ」
紫雨さんは当たり前というが
信じることができない。
「今日の依頼者は亡霊だ」
「あっ、注意してほしいのが1つだけ」
紫雨さんは子供をなだめるような優しい顔で
私に注意した。
「妖怪、妖に本名を名乗ってはいけないよ」
「幽霊や亡霊にもね」
周りの音が消えたと感じるほどの静寂に
紫雨さんの忠告だけが頭に響いた。
「わかりました。名前、考えときますね!」
「そう、それはいいね。良い名前を期待しているね」
もうすぐ階段を登り切る。
紫雨さんは長い襟足を整えて言った。
「もうお客様がお見えだね」
「鳥居を潜れば仕事開始だよ。よろしくね」
「は、はい! よろしくお願いします!」
鳥居を潜った瞬間、ものすごい悪寒がした。
何かに首を掴まれているような感覚で苦しい。
「お客さん……その子はうちの弟子だよ」
「威嚇するのは辞めてくれないかな」
紫雨さんはタバコを吹きながら何かにタバコを向けた
首の苦しさが無くなり、頭に声が響いた。
「あんた……名前は……?」
思えばこの時からあの名前を名乗りだした。
私は紫雨さんの向けるタバコの先へ言った。
「ど、どうも、私は……春雨時雨」
「よ、よろしくお願いします……」
春雨紫雨(探偵さん)
春雨時雨(主人公)
怪異ミステリぃ