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第8話 任務

 辺境軍の小隊長となったロウは、これといった戦いがなかったこともあり、訓練や小さな任務を問題なくこなす日々を送っていた。


 ロウが入隊してからしばらくたったある日、エルザに呼び出された。


 「失礼します。」


 声をかけて部屋に入る。こんな感じで呼び出されるのは初めてのことだ。


 「来たか。久しぶりだな。問題なくこなしてくれているようで何よりだ。」


 エルザが柔らかく笑いながら、ロウに話しかける。エルザはロウの直属の上司だ。


 「ありがとうございます。おかげさまでなんとか。」


 頭を下げる。この人の下で働けて嬉しいと素直にロウは感じている。あの日の選択は間違ってなかった。


 「それはよかった。実はな、大きな任務が決まってな。ぜひロウにも加わってほしいんだ。」


 一転して真面目な顔になったエルザが言う。


 「もちろん、参加させていただきます。どのような任務でしょうか。」


 「実はな、魔王軍の残党が出てな。」


 「残党ですか…!」


 ロウは、自分の鼓動が速くなるのを感じた。まさか、また魔王と関わることになるとは。


 「大した数じゃないらしいんだが、辺境の…ほら平原があるだろう?そこにゲートが開いて魔族が転送されてきているらしい。直接的な被害はないらしいんだがこそこそと陣を組む準備をしてるらしくてな。小規模だが戦になりそうだ。」


 「戦、ですか。」


 ロウは大規模な戦場に出たことはない。物乞い時代は兵役の類は避けてきたし、勇者パーティーは小規模戦が専門だった。


 「君は視野が広い。耳もいいしな。君だったら上手く戦況を変えられると思うんだ。」


 過分な言葉だ。でも、今のロウはそれに応えたいと思っている。


 「はい。そう言ってもらえるなら、なんとか死ぬ気でやってみます。」


 エルザの目を見る。ロウを見つめ、にっこりとほほ笑んでいた。


 「ふふ。いい返事だ。期待しているよ。では、訓練に戻ってくれ。」


 「はっ。」


 一礼しロウは踵を返す。


 「あっ、勇者が作戦に参加するのを言うのを忘れていたな…。まあいいか。」


 エルザがそんなことをつぶやいたが、部屋から出たロウの耳には入っていなかった。






 数日後、先んじて陣を張っていた先遣隊に合流する形でロウは戦地にやってきた。


 辺境軍の陣は丘の上に張られており、魔王軍の残党は平原を挟んで向かいの丘の上に陣を張っている。


 「にらみ合いか…。」


 魔王軍を見ると、獣型、ヒト型、ゴースト型など、多様な魔物たちがいまにも暴れださんとひしめきあっているのが分かる。


 ロウは身震いした。


 戦いはいつ始まってもおかしくない。ロウは腰に差したナイフの柄を握りしめた。


 エルザたちは陣の中心にいて、ロウは一番外側、つまり戦う際の先頭にいる。


 エルザが指示を出すと、ロウたちが突撃するということになる。


 「全体、構え!」


 エルザが声を張り上げた。


 「出撃!」


 「「「おお!!」」」


 辺境軍全体が地鳴りのような声をあげながら魔王軍の陣へ突撃する。


 その先頭を走りながら、ロウは注意深く魔王軍の様子を観察している。


 俯瞰する目と周囲を気配りする耳。


 エルザに言われたことを頭の中で反芻しながら、ロウは戦場を駆ける。


 戦いの火蓋は切られた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] エタるのかと思ってた。何よりまた書いてくれることが嬉しい。今後勇者たちとどう関わっていくのかが気になる。
[良い点] 1話毎の区切りよく読みやすい [気になる点] 主人公がどう変わるのか、勇者達とちゃんと和解(すれ違い修復)出来るのか、どういう終わりを迎えるのか。 [一言] この手の卑屈、後ろ向き主人公が…
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