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第6話 看病と勧誘

辺境伯の館?

「こんなことになるとは…。」


 ウルフを引き連れて囮になり、そのまま川に流されたロウは、森から抜けた下流で無事逃げ延びたエルザたちに回収されたらしい。そのまま看病をしてもらったようで、目覚めると柔らかい布団の中にいた。屋内で目を覚ますのは久しぶりだ。


 起きてすぐ、どうしたものかときょろきょろしていると、50代くらいの女官のような人がやって来た。着替えさせられ、水をもらい、無精ひげと髪を整えてもらった。何から何まで整えてもらってありがたいと思っていると、体に障るといけないので風呂は控えてほしいと謝られた。少しくらい助けたお礼が欲しいと思ってはいたものの、ここまできちんと恩返しをしてもらうと逆に申し訳なくなってくる。


 身なりを整えてもらった後は、豪勢な夕食を食べさせてもらうことになった。


 女官に連れられて会場に行くと、ロウが助けた兵士たちが待っていて、口々にロウに感謝の言葉を伝えてきた。初めての経験だったが、嬉しかった。


 そして、肉、シチュー、柔らかい白パン、高そうな酒がロウの元に運ばれ、兵士たちに囲まれて飯を食うことになった。


 焼いた肉にかぶりつき、パンを熱々のシチューに浸して食べた。何十日かぶりのまともな食事に、ロウは涙が出そうになった。


 席を共にした兵士たちもみな優しく、酒がほとんど飲めないロウに無理に飲ませることもせず、ブドウを絞ったジュースを持って来てくれた。本当に嬉しかった。


 食事会は宴となって盛大に盛り上がり、ロウたちはお互いをたたえ合った。歴戦の兵士たちと話すのは楽しかった。


 ロウにとって兵士とは道端で座って物乞いをしている自分を取り締まり、時に日雇いの仕事と炊き出しをもたらしてくれる雲の上の存在であり、そんな人たちに褒められるのは嬉しいことこの上なかった。


 宴の後、寝床に案内された。まさかの個室だった。その辺で雑魚寝するからいいとずっと案内してくれている女官に言ったのだが、どうか恩を返させてほしいと懇願された。まるで自分が助けられたかのように言う女官を不思議に思い、なんで自分のような身なりの汚い人間にそこまでするのかと聞くと、ロウが助けた兵士の中に彼女の息子が混じっていたからだと答えてくれた。


 ロウは個室をありがたく頂戴した。


 考えられないくらいふかふかのベッドだ。次にこんな豪勢な寝床で寝られるのはいつになるかわからない。できるだけ堪能しておかなければ。


 そう思って目をつむったのだが、なかなか寝付けない。野宿に慣れてしまったからだろうか。だとしたら悲しいことこの上ないが、なるべく何も考えないようにしても、反対にどうでもいいことをぼんやり考えるようにしても、意識は遠のいてゆかない。


 ロウはむくりと起き上がり。ベッドから降りた。探索しよう。


 じっとしていられない性分なのだ。もしかしたら、体を動かせば眠れるかもしれない。


 そう思って窓から部屋の外に出て、中庭らしきところをうろうろしていると、後ろから声をかけられた。


 「おや、まだ寝てないのか?その分だと傷はそこまでひどくなさそうだが、安静にしておいた方がいいぞ。」


 凛とした女性の声だ。


「恩人の怪我が悪化したら当家の恥だしな。」


 ロウはすぐさま振り返り、跪く。


 「申し訳ありません!どうにも寝付けずかってにうろうろしてしまいました。」


 「ん?いや別に中庭を散歩するぐらいはかまわないのだが。そのためにあるものだしな、庭は。というか頭をあげてくれ。私は君のおかげで助かったんだぞ。」


 慌てて頭をあげる。そこにいたのは、ロウが助けた女性だった。森での格好とは違い、貴族のお嬢様のような服装に身を包んでいる。やっぱり偉い人だったんだ。


 「えっ、あ!…怪我とかはなかったですか?あと森では偉そうな口を利いてしまい申し訳ありませんでした。」


 すぐに謝る。貴族と話すときは1に謝罪、2に謝罪、3、4が無くて5に謝罪だ。こちらの何が粗相にあたるのか、皆目見当もつかない。


 「ふむ、そんなにかしこまられるとはな…。あのような勇猛な行動をした男とは思えんな。ふふっ。」


 女性は笑う。月に照らされた笑顔が美しい。


 「…楽にしてくれ。そんな態度をとるってことは大方王都から来たんだろうが、私はあちらの貴族のように君を取って食ったりはしないよ。」


 女性は、困った顔をして言った。眉尻を下げた柔らかい表情にドキッとする。どうやら嘘ではなさそうだ。


 「あ、ありがとうございます…。ええと、なんとお呼びすればいいですか?」


 名前を聞く。そもそも、ロウはここがどんな場所なのかも知らない。兵士がいる貴族の館ということしかわからない。


 「ああ。私はエルザだ。辺境伯の一人娘のエルザ。跡継ぎになりたいがゆえに無謀な遠征を計画して兵士を危険にさらした馬鹿な女さ。愚かにもあきらめて死にかけているところを君に救ってもらったというわけだ。」


 辺境伯。跡継ぎ。


 「…。」


 ロウは固まって動けない。


 「ん?どうした?固まって。」


 「申し訳ありませんでした!!かの有名な辺境伯様の娘様だとは知らずに失礼な態度を取ってしまいました!」


 ロウは必死で謝る。


 辺境伯だって?下手したら勇者より強い化け物クラスの人じゃないか。それでいて人徳ある政治を行うと王都でも評判の人だった。兵士なんかよりよっぽど雲の上の人である。そして目の前にいるのがその娘。なんてことだ。あっ、というか今いるのは辺境伯の館?というか城なのか?


 頭の中で情報が錯そうする。


 「はははっ。混乱しているな。こっちが神妙な空気を出したのが馬鹿みたいだ。大丈夫だ。恩人に何か不利益が生じるようなことは辺境伯家の名にかけて絶対にしないよ。」


 女性、エルザは力強く言う。


 「すみません。ありがとうございます。辺境伯様のことは王都でよく聞いていたので驚いてしまって。エルザ様にも会えて光栄です。」


 ロウは何とか口を開く。


 「それは嬉しいね。ところで、寝付けないと言っていたね。暇なら私の頼みというか相談を聞いてくれないかい?君にとっても悪い話じゃないと思うんだが。」


 エルザは、ロウの目を見て言う。


 「うちの軍に入ってくれないか?」


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