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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

プールの人魚

作者: 狗ろA夏

つう、と滴り落ちる。ひたひたとこぼれ落ちる。塩素臭いプールの水を、ぶるぶると振り払う。

誰もいない屋内プールで、ずっと、ずうっと練習している。

「そういえば、俺はなんでこんなところに…?」

心置き無くプールで練習出来るから、忘れていた。そういえば、ここへ来た記憶が一切ない。

「まあ…いいか、今は練習だ。」

そうだ、とにかく上手くならなくては勝てない。あいつに勝てない。

「今度あいつに負けたら死んでやる。」

飛び込み台を蹴って、手の指の先から水の世界へと入っていく。そのまま深く、深く、深く。つま先までピンと伸ばした足を、揃えて水を蹴る。限界まで、水の奥深くにその身を忍ばせる。しかし少しづつ水面へと上がってゆく。

(今だ。)

その瞬間、大きく両の腕で水を切る。ひゅう、と息を吸い、また水の中へ戻りながら水を押す。何度目かのそのくり返しのさなか、視界に違和感を覚える。

(目の端に何かいる…?)

ここには誰もいないはずだ。ましてや横になど有り得ない。くるりとターンして、その時に見てしまった真っ白な何か。咄嗟に、追いつかれては行けない気がした。

(逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!)

今までで一番速いバタフライだった。それにもかかわらず、その白い皮膚の何かは前を駆け抜けて行った。プールの端に辿り着いた時、それは待っていた。

「ぷはっ…はぁ、はぁ。」

ようやく止まった時、それと目があった。まるで大きな魚のように、大きく両横に着いた目。

「…っ!?」

眼前の出来事に、よろめいてコースロープに背をぶつける。逃げるようにプールから上がり、プールから出ようと出口に急ぐ。だが、出口なんてなかった。永遠と続くプール。非常口のマークさえどこにも見当たらない。

「…嘘だ…。」

早くこの場から逃げ出したい。願うようにプールに沿って泳いでいくと、大きく深いプールに出た。プール沿いを歩いていると、不意に足をつかまれる。

「うおっ!?」

かろうじて足をつかんだその手は、真っ白で、指は細く、指の間には大きな水かきがついている。ぐい、と強い力でプールに引きずり込まれた。

(捕まってたまるか…!)

その異様な手を振り解き、プールの奥底へと逃げる。だが、そこにもその化け物はいた。いつの間にか多数の化け物に囲まれている。

「ゴボゴボッ!?」

白い皮膚。大きな目。異様に長く大きな手。そして人魚のように繋がった奇妙な足。思わず息を吐き出してしまい、もう息が続かない。力無く抵抗するが、無駄だった。


気がつくと、病院のベットの上だった。呼吸器をつけられ、体の一部には包帯が巻かれている。医者が言うには、プールの排水溝に巻き込まれていた所を間一髪で助けられたらしい。どうやら腕を巻き込まれていたらしく骨が砕けて大きく伸びている。長時間水に使っていたせいか、手のひらや足は白くぶよぶよと水を含んでいた。まるであの化け物のように。

「うわああああぁぁぁ!!!」

気が狂ったように包帯を引き剥がし、己の体を願うように確かめる。だが、そんな希望はあまりに浅はかで愚かな行動だった。骨の砕けた指は伸び、それに伴って手のひらは大きく、まるで水かきができたようになり、あげく真っ白に変色していた。

医者や看護師が必死に抑えてくるのをいとも簡単に払いのけ、骨折しているとは思えない動きで突き飛ばした。

「ぎゃあああああああ!!」

地面を蹴って、とにかく廊下を駆け抜けた。階段を駆け下りてとにかく逃げた。だが、階段を降りていたその時、不意に足を踏み外したのだ。

不思議なことに、両の足が同時に前に出たのだ。受け身も取れず、胸を階段にぶつけ、その勢いのまま一回転して背中を踊り場に打ち付ける。ぐらりぐらりと歪む視界の中、人魚のように繋がった両足がみえた。

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