薄黒い液晶、そこから
その時だった。
会話ウィンドウに赤い文字が映し出された。
この三か月この赤い文字色を見ることはなかったが、これは直接自分宛にメッセージが送られた場合の文字色だ。
懐かしく思う文字色が見えただけなのに制御できない感情が芽生える。
誰か戻ってきてくれた!と。
逸る気持ち押さえ、俺はそのテキストログの理解に努める。
[>>*kakera:助けて]
誰だ?名前には見覚えがない。
待ち望んだフレンド、ではない。
知り合いの知り合いか?フレンドじゃなくてもどこかで一度話をしたとか、何かでパーティを組んだとか?
なんとか記憶を掘り起こそうとしても思い当たる節がなく、反応に悩むこと少々。
[>>*kakera:助けてくれませんか?]
反応が鈍かったためか、催促のメッセージが届いてしまった。
これはいけない。知り合いだったら失礼だよ。
まぁもし知り合いじゃなかったとしてもこれから新しいフレンドさんになってもらえばいいんだ。
過疎化でゲームバランスがシフトさせてい今、ひたすら装備集めに奔走した俺に倒せないような敵なんてほとんどいない。
[<<*kakera:いいですよ]っと。
容易く気軽に返事を返す。
[>>*kakera:よかった。それではお呼びします]
お呼びしますとはどういうことだろうか?場所を教えてもらえればこちらから向かうが??
疑問に思って会話ログを見ていると、自キャラの周りに転移エフェクトが発生し画面上から消えていった。
「なにこれ??」
知らない魔法?理解が追い付かず、それともこの後どこかのエリアに移動するのか?と画面を見ても何か変化が起きる気配はない。
「知り合いのどっきりとかか?」
把握できない状況に何とか答えをひねり出し、もしそうだったら単純に嬉しいなと顔がにやける。
[>>*kakera:半分残ってましたか。今からお連れします。そのまま待っててください]
やはりこれはフレンドからのサプライズの類だと確信し、更に顔が綻ぶ。
だって明らかに意味が分からないし。なんかやろうとしてるんだろうな。
魔法の発動だろう、自キャラのいた場所にエフェクトが発生する。
それは次第に大きくなる。
初めて見るエフェクトだがなかなか凝ってる演出だ。
エフェクトはモニタの表示領域全体まで埋まる。
そして
モニタから白い手が腕が突き出す。
「は???」
コントローラーを投げ捨て椅子ごと机から飛びのく。っ、白い腕が俺の左手首を掴んでる、離れたいのに下がれない。
とにかくどうにかしないと!
左手を体に引き寄せつつも、右手は何か適当に手あたり次第で、モニタに向かって投げつける。
「痛っ?なにこれ?や、やめてよ、やめいった、ちょ」
手が緩みかけた。好機!
左腕そして体ごと強引に後方に寄せる。
肘ほどまで見えていた敵の腕は、肩ほどまで伸びている。
っていうか、全部出てきたらどうなるんだ?怖い。無理やり引いてその後押し返すのが正解?どうすればいい!?
「ちょ、助けてくれるんでしょ?なんで逃げるの?絶対離さないんだからっ!」
「痛っ、爪が食い込む、刺さってる!」
「だったら大人しくこっち来なさい!」
「そっちいったら!?知ってますよこれ!映画っぽいの知ってる呪われる!!あと出てくるな!」
必死の攻防、パニック。全然わからない。足は震えてガクガク。心臓がかつてないほど脈打って。
何か言っているが理解しようともおもわない、耳鳴りもする。
「っ仕方ないわね」
(暫定)さだ子の手は俺の腕をつかむのをやめてモニタに戻っていく。
悪霊退散!悪霊退散!!ドーマン!セーマン!
恐怖心でどうにかなった気持ちを壊れたテンションをごまかす。
それでもまだ心臓が破裂しそう。
腕にはくっきりと爪の跡。
霊感とかよくわからんし信じてなかったけど,,,本当にいるんださだ子。フィクションじゃないのかよ…
とりあえず警察に連絡?ん?お寺なのか?
すごく効きそうなお寺?住職さん?それとお札とかか?
また出てきたら怖いから先にログアウトしてから調べよう。
ログアウトするため椅子に座りなおす。
少し落ち着いてきたから、余裕が出たからかつい口に出してしまう。
ふっ、つまらぬ勝利をもたせてくれる。敗北を知りたいものだ。ニヤリ
そして画面に残ったままエフェクトは一瞬で画面から溢れて、俺の体を包み込んだ。