寂れた世界:スキップ可
ゲームに全てをかけたことがあるだろうか?
社会もリアルも蔑ろにして続けたゲーム。
楽しい楽しい大切なもの。
ありとあらゆる時間を犠牲にして、掛けられるだけのすべてをかけて続けたゲームがあった。
自身の魂を込めた遊んだゲーム。他人から見れば馬鹿らしいと思えるだろう。
理解してもらおうなんて気持ちは全くない。
自分自身でさえどうかと思うけど、でもそれでもそのゲームが好きだった。
オンラインゲーム。革命的だった。
かつてより多少オンラインゲームはあったが、それは本当に革命的に感じた。
その地に降り立ってみれば、ガチャガチャと金属鎧の音を立て誰かが操作するキャラクターが走っている。
一人だけではない。
あちらにも、こちらにも、様々な恰好のキャラクターが至る所で。
誰かが会話するログが流れる。これもNPCではない。
プレイヤーが、人間が文字を打ち込んでチャットをしている。
誰かが魔法を使えば効果音とエフェクトが流れる。
狩り(レベル上げ)をしていれば見知らぬ誰かが回復魔法を、ついでに強化魔法なんて唱えてくれたり。
狩場を見誤り即死して萎えて放心していたら蘇生魔法が飛んでくるあの感動。
なんて革命的なんだ。
デスペナルティも非常に良かった。死んだら努力が水の泡だ。
今やデスペナなんて些細なものだろう?
当時は違ったんだ。懸命に稼いだ経験値が、数時間分の稼ぎが消えた。
運よく蘇生魔法をもらえれば、ロストする経験値が緩和される。
下位蘇生なら二割程度。たった二割と思うことなかれ。
その二割を稼ぐのにどれだけ時間がかかるのかと。
レベル上げPTに入ったのに、狩場に向かうまでに1時間、狩場へのアクセス1時間。
その向かう道中に殺されたり、もちろん複数回死ぬなんてこともある。
ようやくレベル上げが始まったときには既に経験値がマイナス領域で、PT組む前よりレベルダウンしてスタートして数時間のレベル上げの結果、経験値取得がプラマイ0、いやトータルマイナスになってるなんてことも。
レベル上げ中にも死んだり全滅するしさ。
全滅するとどうなるかというと、街に戻されるんだよね。
時間かけて狩場まで移動して全滅して経験値マイナスで解散!なんてこともよくある話。
バカなんじゃないの?と思うだろうけどさ
俺もバカなんじゃないの?って何度も思ったし。
まぁそんな感じだったから死が非常にリスクあって絶対に死にたくないし、手間暇かけて育てたキャラクターには愛情が湧くってもんよ
他のプレイヤーは仲間でもありライバルでもあり、敵対したり仲直りしたり、
変な奴いたりしたさ
それを含めてそのすべてが大好きだったんだ。
だからこそ理不尽なほどのレベル上げが大好きですべてのジョブをカンストさせ、生産スキルとかも最高値まで上げたんだ。
武器や防具、装飾品を作るような生産系だったり、ステータスにバフ/デバフを付与する食事系のものだったり、釣りなんていう料理を作るための素材を手に入れるものまですべて上げ切った。
そんなアイテムを駆使して仲間とともにボスを倒して装備を手に入れる。
レベル上げて装備手に入れて最終的に何が目的なの?と言われると俺にもわからない。
わからないけどなんか強くなるのが楽しくて、レア装備とか強い装備を手にしてまたレベル上げに行くのが楽しいんだ。
わかるかな?
わからないかもしれないしわかってもらおうとも思わないけど、俺にとっては全てを捧げるほど楽しかった。
楽しかったんだ。
自分にとっては最高のゲームだった。
他のプレイヤーも同じような人間ばかりだったはずだけれども、新しいゲーム、オフライン/オンラインを問わず、ソシャゲなんてのも流行り始めたしね。
ネトゲと言われる、いや言われたゲームに没頭する人間なんてたいていゲーマー。
だから新しいゲームがリリースされると、そのゲームをプレイする人が出たりして一時的にプレイヤー数が減ったりする。
プレイヤーが多少減っても別に困らないし、むしろレア敵を狙うライバルが減って嬉しいとさえ思えた。
アクティブ数は多少の増減をしながらも、相も変わらず続けてたけど、同メーカーから別のオンラインゲームが出てしまった。
一部のプレイヤーは運営に対して抗議文送ったり、更にはなんとも面白いコピペまで生まれてしまった始末。
ネタだとしたらセンスありすぎだろ。ってな
ネタだとしたら、な
気持ちは痛いほどわかるからこれ以上触れないけど。
新作は試したものの世界観が旧作のものが好きでやはり自分の魂はここにあるんだ。と実感したのがちょっと前の話だ。
今日もゲームにログインしてメニューを開いてフレンドリストを見る。
やはりよく遊んでたフレンドはもうずっとインしていない。
街にいる人もだいぶ少なくなった。プレイしているのは自分と似たような人なのだろうか。
動いてもいないからずっと放置しているのだろうか。
大勢の人で賑わった大好きだった街並みはその面影もなく、BGMだけが静かに流れる。
こうなってくるとオンラインゲームといえど、オフラインと何も変わらない。
俺が好きだったのは活気にあふれる世界で、そして大勢の仲間でありライバルでもだったフレンド達と冒険したり強敵を倒すこと。
しかしモニターは寂れて声もなければ生気もないような自キャラと背景を映し出す。
楽しかったあの頃の面影はもう感じさせてくれない。
俺は何もかもを失ったような、もしくは一人だけ何処かに取り残されたような、そんな喪失感か孤独感なようなものを感じながら、いつもと同じように誰ともチャットもできない会話ウィンドウを見つめていた。