なんで俺は異世界転生できないんだ? というか、なんで死ねないんだ?
あっ! 大型トラックだ! しかも運転手はうとうとしてる! よおし! 今日こそ絶対に異世界転生してやる!!
俺は信号待ちしている大型トラックが走り出す前にダッシュでそこから一キロ離れた横断歩道に向かった。
よおし、来た来たー! 三、二、一……ゼロ!! 俺は大型トラックに轢かれた。確実に轢かれた。これで確実に死ねる、はずなのに。
「なーぜーだー! なぜ俺は死ねないんだー!!」
血だらけの俺をトラックの運転手は目をパチクリさせながら見ている。救急車がやってくるまで俺はその場で悔し涙を流していた。
現実より楽しいという噂の異世界。俺はその場所に行く方法を調べまくり実践した。しかし、なぜか俺は転移も転生もできない。他の希望者はもうほとんど異世界に行っているというのに。
「先生、どうして俺は死ねないんですか?」
またこいつか。というか、なんで毎回私の病院に運ばれてくるの? ねえ、なんで?
「それはこっちが知りたいよ。何なの? 君。色々検査してもすごい治癒能力があることとどんな薬品や毒も効かないこと以外何も分からない。正直、存在自体が不思議だよ」
「そんなことどうでもいいんです! 誰か俺を殺せるやつはいないんですか!!」
「マリアナ海溝に沈めても、宇宙空間に一年放置しても生きてる君を殺せる存在はいないと思うよ。というか、君もうああいうことするのやめてね。色々面倒だから」
「はぁ……」
俺、いったい何なんだろう。誰か……誰か俺を殺してくれ。
「君は異世界転生できないよ。もちろん転移も」
「誰だ!」
「お兄さんが死ねない理由を知ってるやつだよ」
なんだ? こいつ。中学生か? いや、でも、このへんにこんな制服着てるやついないな。
「こんな夜中に何してる? 補導されるぞ」
「僕の姿はお兄さんにしか見えてないから大丈夫だよ。それよりお兄さんが死ねない理由知りたくない?」
「知りたいけど、お前はなんか存在自体がイラッと来るから美幼女と変われ」
「はいはい。じゃあ、これでどう? お兄ちゃん」
「な、何! お前、変身できるのか!!」
「うん、できるよ。それでどうする? 私の話聞く?」
「聞く聞く! あっ! 近くに公園あるからそこまで行こう!」
「うん!!」
公園のベンチ……。
「で? 俺はなんで死ねないんだ?」
「世の中にはね、転生させちゃいけない人がいるんだよ」
「それが俺なのか……。で? 理由は?」
「お兄ちゃんが異世界に行くとね、魔王になっちゃうから神々が全力でお兄ちゃんが死なないようにしてるんだよ」
「ま、魔王? 俺、なるなら勇者とか英雄になりたいんだけど」
「無理無理。お兄ちゃんには魔王の適性しかないから転生しても秒で世界の敵になっちゃうよ」
「そうかー。それは嫌だなー。でもなー、一生この世界で生きていくのは辛いんだよー」
「お兄ちゃん、人生は暇つぶしだよ。終わりが来るまでおとなしくしてようよ」
「嫌だ! 俺は異世界に行ってドラゴンと戦ったりかわいい女の子とイチャイチャしたいんだー!!」
「ねえ、お兄ちゃん。転生者の九割が一ヶ月以内に死ぬって知ってる?」
「……え?」
「神様はね、基本的に無頓着なんだよ。だから、そもそも人間が生きていける世界に送られる可能性は低いし、お兄ちゃんが知ってる異世界を見つけるのも作るのも大変だし、そもそも全部うまくいく世界なんてどこにもないんだよ。別に夢を見るのは悪くないよ。でも、現実はそんなに甘くないんだよ」
「そうかー。でも、そういうの聞いてもやっぱり異世界に行ってみたい願望は消えないなー」
「そっか。じゃあ、色々見に行こっか」
「え? 見に行く? 何を?」
「別に異世界じゃなくてもこの世界にはいろんなものがあるでしょ? だから、一生かけてそれを見て回るんだよ」
「旅に出ろってことか?」
「うん」
「でも、俺そんなに金ないし」
「それは気にしなくていいよ」
「でも、パスポート持ってないし」
「そっか。じゃあ、明日作りに行こう。神様に頼めば無期限のやつ作ってくれるから」
「無期限だと! うーん、でも、この世界にはドラゴンいないしなー」
「神様に頼めば恐竜がいる島を作ってくれるよ」
「何! 恐竜だと!! でも、かわいい女の子とイチャイチャしたいし」
「私、友達たくさんいるから呼べば来てくれるよ」
「本当か! でも、俺そんなにケンカ強くないぞ?」
「ケンカが強い友達がいるからその人に教わるといいよ」
「お、おう。うーん、なんかこの世界でやっていけそうな気がしてきた」
「本当? じゃあ、もう異世界転生しないって約束してくれる?」
「うーん、まあ、それは来世に期待しよう。今はこの世界のことを知らずに死ぬ方がなんか嫌だから。ところで本当に大丈夫なのか? お金とかお前の未来とか」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんがこの世界から出ずに暮らしてくれるんだったら神様たちも喜んで協力してくれるよ」
「そっか。じゃあ、今日は早めに寝るか。あっ、お前家はあるのか?」
「この星が私の家だよ」
「どこでも寝られるってわけか。でも、どうせなら布団で寝たいだろ? うち来いよ」
「いいの?」
「ああ! もちろん!!」
こういうところは変わってないなー。
「どうした? 俺と寝るの嫌か? まあ、そうだよなー、こんなおっさんと寝るよりかわいい女の子と寝たいよなー」
「別に私は気にしないよ。ほら、早く行こう!!」
「お、おう」
それから俺は旅に出た。一生かけてこの世界を見て回った。いやあ、ホント楽しかったなー。
「まあ、あれだな。幸せを感じながら自然死しないと魔王の適性がなくならないってところが厄介だったな」
「へえ、先輩にそんな過去があったんですねー。でも、そのおかげで観光の神になれたんですね」
「まあな」
「あっ、そういえば、そのきっかけを作ってくれた存在って先輩と何か関係があるんじゃないんですか?」
「ん? どういうことだ?」
「ほら、先輩にしか見えないってことは先輩と関係があるかよっぽどのもの好きじゃないですか、だから」
「うーん、そう言われるとそうだな……って、よっぽどのもの好きってなんだよー。俺そこまで変なやつじゃないぞー」
「あはははは! ごめんなさーい!」
うーん、そういえば、昔俺と会うたびに俺の取り合いしてた兄妹とよく遊んでたなー。でも、たしか両親の仕事の都合で引っ越しちゃったんだよなー。あいつら今どこで何してるのかなー。
「……お兄ちゃん、やっと神様になったね」
「そうだな」
「嬉しくないの?」
「嬉しいさ。でも、こうなることはあいつと会った時から分かってたから」
「そっか。でも、お兄ちゃんは私たちのことあんまり覚えてないみたいだよ」
「それでいいんだよ。あいつの部下、つまりあいつの天使になって働くことが俺たちの夢だったんだから」
「うーん、でも、できれば思い出してほしいなー」
「まあ、そのうちひょっこり思い出すかもな。さぁ、仕事の時間だ」
「うん、分かった」
幸せの形はたくさんある。それを目で見るのは難しいけど、少しずつ形にしていけたらいいね。