加護付与!
8人が広場に降りると、少し背の高い老人が迎えた。緑の布地に黄色刺繍が施されマントのような物を羽織っている。
「使者様。お待ちしておりました。
私はこのミノール・ダンオン聖堂の司祭キコルと申します。」
司祭を見て8人は驚いた。
クス聖堂の司祭キケルにそっくりなのだ。
「兄、キケルから大体のことは聞いております。
ここで、立ち話も何ですからどうぞこちらへ」
キコルは白い壁に茅葺き屋根の建物の中へと案内した。
中では、長机に椅子が10脚揃えられていた。
そのうちの1脚には、がたいのいいおじさんが座っていた。
「こちらは村長のトラッドさんです。」
「使者様方よくぞ来てくれた。私がダンオン村の村長トラッド・リストだ。」
「私は、天野恵です。
よろしくお願いします。」
残りの7人も、挨拶を済ませると、キコルが申し訳なさそうに話し始めた。
「兄からオシエル様より、この国の危機を救うために派遣されたと聞きました。
本来ならミノール様から派遣されるはずなのですが、年々ミノール様のお力は弱くなり、ついに私に言伝が来なくなってしまいました。
使者様方、大変かとは思いますが、どうかお力を貸してください。」
キコルは哀しげな表情を浮かべ頭を下げた。
8人は互いに顔を見合わせた。力強く頷くと恵が勢いよく言った。
「私達にどこまで、できるかわかりませんが、全力を尽くします。」
「若いだけあって、勢いが良いね!!頼よりにしてるぜ!」
村長はにこっと笑いなが続ける。
「お嬢さん方の家は村の隅の方にある。
ちょっと不便だけど、土地は広めにとってある。なんせ、若い者は、みんな都会にとられちまって、畑が余ってるからな。
あと、畑仕事に必要そうなのとかは一通り揃えたつもりだが、足りない時には言ってくれ!
おっ!そうだ?
もう、加護は受けてきたのか?」
「いえ、まだです。」
「じゃあ、キコルさんの聖堂で受けていくと良い。」
「あの!魔法の加護とかも受けられるんですか?」
みんなの予想通り、綾乃が食いついた。
キコルは優しく笑って答えた。
「受けられますよ。初めての加護受ける場合は、どこの聖堂でも受けられます。」
「マジで!やったー!!」
「ただし、自身にとって、1番強力な加護になりますので、後悔のないように選んでください。」
「それじゃ、用事も済んだことだし、聖堂で加護を受けて来い!夜は盛大に歓迎会だ!」
村長は立ち上がると、キコルと共に聖堂まで案内した。
ダンオン村の聖堂は、最初に訪れたクスの聖堂と作りが似ていた。唯一の違いと言ったら、ステンドグラスに農作物や花、家畜の姿が描かれているところだった。
聖堂の真ん中に、椅子の並んでない空間があった。
輪になるように10個の石台が並んでいる。石台の上には、それぞれ色鮮やかな石が置いてある。
「まさに、ここって感じだな」
綾乃が紫穂に囁くように言った。
紫穂はうんと小さく返事をした。
キコルこほんと咳をした。
「加護を受けられる方は、こちらの石台の中心にお立ちください。
それぞれ、山の神、海の神、水の神、風の神、大地の神、天気の神、豊穣の神、知恵の神、武術の神、魔術の神の結晶石がございます。
加護を受けられたい神の結晶石の方向を向いて祈りのポーズをしてください。」
キコルは、その場で片膝をつき、手を組んで目を閉じ、祈りのポーズのお手本を見せてくれた。
「皆様ご準備ができましたら、1人ずつ加護をお受けください。」
「はい!はーい!私からいい?」
聖堂に声を響かせたのは、もちろん綾乃である。
「では、こちらへ…。」
キコルが言うと、綾乃は石台の中心にたった。
「魔術の神様は何色ですか?」
「こちらの紫色の結晶石になります。」
綾乃は紫色の結晶石に祈りのポーズをした。
すると、綾乃を中心に紫色の魔法陣が床に現れた。数秒ほど光ると、徐々に消えていった。
綾乃は目を開いて立ち上がった。
キコルが本を開いて綾乃に渡した。
開かれたページには、文字も図も何も描かれていなかった。
綾乃が受け取ると、空白のページに紫の文字が浮かび上がった。
''魔力増強''
「うお…!なんか使えそうじゃん!」
キコルは紙を1枚渡した。
「こちらは魔力増強の加護を受けた者の詳細です。同じスキルを獲得した人物から情報を集めております。」
''魔力増強。回復術効果増強…。''
「すごい使えるじゃん!」
綾乃は満足そうに戻ってきた。
「お次は、どなたが加護を受けられますか?」
「では私が…」
恵が手を上げた。
「どうぞこちらへ。」
キコルが案内すると、恵は石台の中心に向かった。
「豊穣の神様は何色ですか?」
「黄緑色の結晶石です。」
恵は、片ひざをついて、目を閉じた手を組むと、あたりに柔らかい風が吹いた。
『オシエル殿が遣わしてくださった使者ですね?』
美しい声が脳内に響く、しかしその声はどこか弱々しさを感じた。
『あなたには、特別なものを感じます。
よって、この加護を授けましょう。
どうか、無理をせずに勤めてください。』
風が止み、恵は目を開いた。
キコルに本を渡され、受け取ると、空白のページに黄緑色の文字が浮かび上がってきた。
''豊穣繁栄''
「……。ん?」
キコルは、戸惑っているようだった。
「これは?なんでしょうか。
私がこの聖堂に来てから、見たことがない加護です。」
「たしか…豊穣の神様の加護は後からつくんですよね?」
「はい。正確には、最初に加護の名が与えられて、効果が出るのは、経験を積んでからです。」
「申し訳ありませんが、恵様の場合は、どのような効果があるのか、前例がなくわかりません。
よろしければ、その後、豊穣繁栄について調査をさせてください。」
恵はキコルの提案を快諾した。
その後も、実咲は知恵の神に、ももかは天気の神、優衣は大地の神、菜月は水の神、かすみは豊穣の神、紫穂は魔術の神へ祈りをそれぞれ捧げた。
終わった頃には、日が沈みかけていた。
「こっちはちゃんと日が暮れるんだね!安心した。」
優衣が言うとキコルが笑った。
「都市部では魔術が発達しておりますが、ここでは、そのようなもの必要ありません。」
その後、村長の計らいで、村の広場では歓迎会が行われた。
冬の食糧が少ない時期だが、村人は各家庭から料理を一品ずつ大皿で用意していた。
日本では見たことのない果実から、おにぎりなど馴染みのある食べ物もあった。
「さぁさ!今日はめでたい日だ!
みんな!たんと飲め!!」
村の老若男女問わず、全員が8人の使者を歓迎した。使者は期待されていることに嬉しいながらも少しプレッシャーを感じていた。