王様&王子とご対面⭐︎
村長と約束した日になり、早朝から作業着を着た8人は馬車に揺られていた。村長の話では、残念ながら作業着が、使者の公での制服になるらしい。村に着くと、村長が4頭立ての大きな馬車を用意して待っていた。
「おう!みんな来てくれたな!
菜月と実咲もだいぶん様になってきたな!」
村長は、菜月と実咲がスプリングとオータムを手慣れた様子で馬車の荷台から外しているのを見て、言った。
8人と村長は、馬車に乗り首都のクスを目指した。クスへと向かう途中、近くの泉で馬も人も休憩することにした。
「村長さん。突然の呼び出しの内容は、ご存知なんですか?」
恵は、麦茶の入ったコップを、村長に渡しながら尋ねた。
「お!美味しそうだな。ありがとうよ!
内容は、すまんが俺にもわからん。手紙には、近日中に使者様を連れてくるように、としか書いてなかった。」
「何かあったんですかね?」
「さぁな、冬の市町村会議では、目立った話は無かったがな。
少し、嫌な予感がするな…」
村長は呟くように言うと、麦茶を飲み干して続けた。
「この国では、王家と使者様は基本的にお互い干渉し合わない。使者様は神が遣わした人だから、王家がどうにかできる存在じゃねぇんだ。
だから、何か言われても、自分たちの意思に背くものなら、従う事ないぞ。」
2人の会話を聞いていた8人は村長を見ると頷いた。村を出発してから、3時間ほど経つと、クスへと到着した。
鮮やかなテントの貼られた、クスの市場のある通りを抜け、城門の前に着くと、城の門を警備していた兵に、村長が話をしに行った。
「ダンオン村から、使者様方をお連れした。」
「はっ!お疲れ様です。確認してまいります。」
警備兵は、敬礼すると城の中へと走っていった。しばらくすると、中から王室の執事が現れた。しっかりと燕尾服を着こなしている。
「使者様だけ中へどうぞ。」
8人が馬車から降りると、執事は一礼した。
「俺はここから先へは、行けないみたいだ。ここで、待ってる。」
村長はそう言うと、8人に手を振って、見送った。
「王様、王太子様、使者様をお連れしました。」
執事に促され、8人は謁見の間へと入った。
それから、玉座の前に1列に並ぶと、一礼した。顔を上げると、鼻の下に細長い髭をくるくると巻いた王子と、薄くなった頭に不思議なカタチの王冠を乗せた王が座っていた。
「ほう、そなたたちが、今期の使者か…」
「はい。」
恵が平然と答えた。
しかし、頭の中は、それどころでは無かった。
''王様の王冠…なんか巻き糞みたいな形じゃね?''
その場にいた、7人が金のうんこの形をした王冠の笑いに耐えていた。しょうもないとわかっていながら、笑ってはいけない空気だと、逆に笑いが込み上げてくる。
1人遅れて、その事に気がついたももかは、王様の王冠の形に気づくと「わぁ〜」と目を輝かせながら、指を刺し、みんなの方を見た。
''やめろ、ももか…"
みんなが吹き出しそうになっているのを耐えながら、そう思っていると、
「指、刺さないの。」
なんとか恵が、ももかに注意した。
「ふん。この世界に来てすぐに挨拶もなしとは、良いご身分だな。」
「うわぁ…典型的な嫌なヤツだな。」
綾乃は小声で、隣にいた紫穂に言った。
「うん…。鼻毛ロング、うぜぇ…。」
「紫穂、あれ髭じゃね?」
「よく見て…鼻毛。」
綾乃は王子の髭を観察した。鼻から伸びた毛の下にはうっすらと産毛の髭が生えている。
「えっ?!本当だ!鼻毛じゃん。ダサッ!」
先ほどの王冠の件もあり、耐えられなくなった綾乃は1人でクスクスと笑っている。紫穂はそれにつられること無く、無言のまま、前を見ていた。王子はそれに気づいてないのか、嫌味を続けた。
「農作とは、そんなにやることがあるのか?食料など、今や魔法で作れる時代。なぜ、今更農耕を必要とするのかわからない。」
「綾乃、何で笑ってんの?」
隣にいた、優衣が小声で尋ねた。
「いや、あの王子、髭ないからか、鼻毛伸ばして巻いてる。ダセェ。」
「プッ…ちょっと、綾乃、笑わせないでよ。」
近くで、2人のやりとりを聞いていた、菜月と実咲も、巻き添えを食い、クスクスと笑い始めた。
4人はまともに話を聞くどころか、王子と国王の顔を見ることができず、俯いて肩を震わせている。
その様子を見た王子は、怒りで肩を振るわせていると思い、さらに続けた。
「お前達のやってることなんて、無駄!無駄!」
王子は勝ったと言わんばかりに、ニヤニヤと笑っていた。
「おっと…恵。抑えて。」
拳を握り、動き出そうとした恵を、実咲が腕を掴んで止めた。恵は、はぁっと少しイラついた様にため息を漏らした。
「ふん。ここの国民もバカだ。豊穣の神なんて、時代遅れな神を信仰しやがって…ブホォッ!」
突然、パシーンと謁見の間に鋭い音が響いた。
「おい!!マジで、いい加減にしろよ!」
王太子の頬に、赤い手形をつけたのは、かすみだった。
「テメェみたいなヤツは飢えて死ね!!」
王子はあまりに突然のことに、驚きと屈辱で、目はうるうるしている。
「王太子になんたる!…おい、そこの女!無礼だぞ!ひっ捕えよ。」
王がそう言うと、横にいた騎士達は少し戸惑っている。
「あーあ。かすみちゃん。別に、鼻毛ロングの言うことなんて、相手にする事なかったのに〜。」
綾乃は、そう言うと、かすみを宥めながら、玉座からみんなのところまで連れ戻した。
「だって、毎日、泥だらけになりながら、頑張ってるみんなをあんな風に言われたら、手が勝手に動いてたんだもん。」
「まぁ、気持ちはわかる。
でも、死ねは言い過ぎな〜!鼻毛ロングも人だ。傷つくぞ。」
「わかった。
って、んっ?てか、鼻毛ロングって何?」
「アイツのご立派な髭よく見てみろよ。」
かすみは振り向いて王子の顔を見ると呟いた。
「ダサッ…」
「お前たち、何やってる!王の命令だぞ!そいつらをひっ捕えよ!!」
今度は王子が、戸惑う騎士達に命令をした。
「何事ですか?」
笑い混じりの不穏の空気の中、凛とした美しい声が響いた。
「女王陛下!」
1人の騎士がそう言うと、他の騎士も頭を下げた。
立っているのは、使者8人と国王、そして、王子だった。
「なんの騒ぎですか?と聞いているのです。」
迫力のある美しい声は、謁見の間の空気を一瞬にして重くした。
「こ、コイツが僕のことをぶったんだ!」
王子は、そう言って、かすみを指差した。
「して、この方達は?」
女王は国王を見た。目のあった国王は、声を震わせながら答えた。
「この方達は…例の…し、使者様方です。」
「え?……そんなはずがありません。
使者様は今、お忙しいと思い、私が梅雨の時期頃にお呼びするとダンオン村の村長にお伝えしたのですよ?」
国王と王子は、視線を合わせると、無言のまま俯いた。
「まったく、あなた方は…」
女王はキッと2人を睨んだ。
国王と王子は女王の発する鋭い殺気にビクッと肩を揺らした。
どうやら、女王は事の顛末を全て把握しているようだ。
「この事は、後程、じっくりとご説明いただきましょう。」
「でも、ママ…」
「今はあなた達と話したくありません。」
女王はそう言い捨てると、今度は8人を見て深々と頭を下げた。
「春も近く、お忙しいというのに、申し訳ございません。
ここでは何ですから、私のお部屋にご案内いたします。」
8人は慌てて、頭を上げるように言うと、女王は、頭を上げた。齢30歳くらいだろうか、美しさと恐ろしさの中に、威厳を感じた。
「そんなヤツら!わざわざママの部屋に通さなくても!」
「お黙りなさい!!」
王子の事を一喝すると、女王は8人を連れて、謁見の間を出た。




