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果樹!植付け!

「イェーイ!サイコ〜!」


綾乃と優衣は、馬車の荷台に乗っていた。ギルドで購入した苗木を植え付けるために、果樹園の方を目指していた。

植え付けるための道具や資材も多く、困っていると、たまたま馬車の練習をしていた実咲が果樹園まで送ってくれることになったのだ。


果樹園に着くと、前回、綾乃が選定した、柑橘の木の隣にある空き地に、道具を下ろしていく。


「帰りはどうするの?」


実咲は馬車の御者席に座ったまま尋ねた。


「帰りは荷物軽くなるし、一輪車に乗せて帰る。」


優衣が答えると、綾乃が駄々をこねた。


「え〜。帰りも乗せてもらおうよ〜。」


「実咲と菜月も、やらないといけない事があるんだから、わがまま言わないの。」


「ちぇっ!わかったよ!」


綾乃が渋々納得する様子に実咲は「あはは、ごめんね」と苦笑いした。


「じゃあね。実咲ありがとう!」


「いえいえ、こちらこそ、練習になって助かった〜!優衣、ありがとう。」


「気をつけて帰れよ〜」


「はーい!綾乃もありがとうね!」


2人が手を振ると、実咲も手を振り、馬車で帰って行った。馬車の姿が見えなくなると優衣が綾乃に尋ねた。


「さて、ボス。何から始めましょうか?」


「うーん。まずは畝の印をつけていくか…」


綾乃はそう言うと、優衣に紐のついた杭を渡した。この間ハウスを建てる時に使用したものだ。優衣は、綾乃からパイプを受け取ると、それを土に刺した。


「これ、どのくらいの畝を作るの?」


「幅が3.5Mで、奥が20Mかな〜」


「まじかー。」


「それ、今日中に終わる?」


「終わる!終わる!」


杭とロープで、印をつけ終わると、堆肥を積んだ馬車が止まった。


「すみません。ミノリアギルドの依頼を受けて、牛糞堆肥と土をお持ちしました、ヴォーテスと申します。」


ヴォーテスの馬車の後ろには、3台の馬車が止まっていた。それぞれ堆肥と土を積んでいる。


「おー。ナイスタイミングですね!

ここに撒いてもらっていいですか?」


綾乃はそう言うと、ヴォーテスに撒く場所を案内した。


「わかりました。」


綾乃と優衣は角スコップを持つと堆肥の積んである荷台に登った。ヴォーテスがゆっくりと馬を歩かせるとスコップで堆肥を押し、荷台から落としながら堆肥を撒いていく。その後ろからは耕耘機がついてきていた。

1時間ほどかけて、全ての堆肥を巻き終えると、ヴォーテスが尋ねた。


「土はどこに撒きますか?」


「全て、あそこの杭とロープの印がある所にお願いします。」


「わかりました!」


綾乃が言うと、ヴォーテスは土を乗せた馬車へと走っていき、御者席に座っていた仲間にそれを伝えた。

土を乗せた馬車が、畝の印をつけたところまで来ると、綾乃と優衣は荷台に乗り込み、堆肥と同じように、荷台から地面に土を落としていく。


「ありがとうございました!」


全ての堆肥と土を撒き終えると、ヴォーテスは、伝票に綾乃のサインをもらい、馬車を連れて帰っていった。綾乃が隣を見ると、優衣がヘトヘトになっている。


「少し、休憩して、レモン植えるか。」


「うん…。」


10分ほど休憩すると、「そろそろ、やるか。」と言う綾乃の声で立ち上がり、剣スコップを取り出した。

綾乃は、先ほど堆肥を撒いた場所に、数分で直径1m、深さ50cmくらいの穴をを掘ると、優衣に見せた。


「これくらいの穴を、10個作る。」


「了解!」


2人は縦に4mずつ空けて穴を掘っていく。縦に5つ、横に2列の穴を掘り終わると、綾乃は、レモンの苗木と油かすを一輪車に乗せて持ってきた。


「掘った穴に、レモンの苗木を植えていきます。」


「はーい!」


綾乃は、レモンの苗木を取り出すと、根っこの方に巻いてある麻の袋を外した。


「根鉢をほぐして〜。」


優衣は、綾乃の作業を見ながら真似している。


「んで、さっき掘った、穴に一度入れて〜。

これは接木苗だから、接いである所から上に土が行かないように注意して、埋める高さを決める。」


そう言うと、綾乃はレモンの木を1度、地面に置くと、掘った穴を少し埋め戻した。


「うん。これくらいかな〜。

そしたらこの埋め戻した土に油粕を混ぜます。

んで、苗木の根を広げるようにして植えて、これで完成!」


綾乃は、優衣に一通り見せた。優衣は頷くと、同じ要領で1つレモンの木を植えた。


「できた〜。」


「お〜!完璧じゃーん!あとはこれを4Mずつ開けて、植えていくだけ〜!

…じゃあ、あとは優衣ちゃんにお任せ〜。」


「おい!待て。」


優衣は、作業を丸投げしようとした綾乃の作業着を掴んだ。


「まさか、全部させる気じゃないよね?」


「じょ、冗談!冗談!だから、その怖い笑顔やめて。」


「えー。どの辺が怖いのかな〜?」


「いえ、なんでもないです…」


そう言うと、綾乃は剣スコップを持つと、作業に戻った。

全てのレモンの木を植え終わるのにそう時間はかからなかった。


「ねぇ。まだ苗木残ってるじゃん。」


全ての作業が終わったと勘違いしていた優衣が悲しそうに言った。


「うん。みかんはレモンと植え方変えるから。」


「まじか…」


「ここは畝を作る」


「これ、今日中に終わらない気がしてきた。」


「終わる!終わる!この溝掘機あればね!」


そう言うと、綾乃は堆肥と土を撒いた所に、溝掘機を持ってきた。溝掘機の前方には、幅20cmくらいのくの字に曲った桑の刃のようなもが8個、円周状についており、さらに後方には、掘った土を吹き上げるための太い管がついている。


「元々は、溝を掘るための機械なんだけど、こんな時にも使える!」


そう言うと、綾乃は溝掘機を起動させた。宙に浮いた赤い文字で、深さ50cm、長さ20Mと入力すると、溝掘機は地面を掘って、沈んだ。それから音を立てながら、印としてつけたロープの横をどんどん掘り進んでいく。


「よーし!いい感じ!」


1本目の溝を掘り終えると、果樹園にギルドから馬車が来た。荷台では、無数のピヨピヨと鳴く声が聞こえている。


「こんにちは。ご注文の石板をお持ちしました。」


(ピヨピヨピヨピヨ…)


馬車に乗っていたおじさんが、鳴き声に声をかき消されそうになりながら、2人にに話しかけると、綾乃が返事をした。


「おー!来た来た!

ありがとうございます。石板はそこに置いておいてもらえますか?」


「では、荷台ごとおいておきますね!」


そう言うと、業者のおじさんは、馬車を降りて、荷台の連結部を外し始めた。


「あれって、外れるんだね!」


優衣が呟くと、綾乃は頷いた。

荷台をはずし終わると、伝票を持ったおじさんが再び話しかけた。


「石板はそこにおいておきますね。ここにサインをお願いします。」


「ご苦労様です。」


そう言いながら、綾乃はサインを書き終えた。


「空になった荷台は、後日、納品の時にでも回収に来ます!」


「わかりました!」


「では、ありがとうございました。」


「「ありがとうございます。」」


ギルドから来たおじさんは、半分くらいの長さになった、ピヨピヨ鳴く荷台を引いて、今度は、馬小屋の方へ向かった。


「…これ何に使うの?」


優衣が石板を指差して、綾乃が聞いた。


「みかん達をいじめるのに使う!」


綾乃はそう言うと、溝掘機を2本目の場所にセットして起動した。


「いじめるって、どんな感じ?これで叩くとか?まさかね。」


「惜しいな。そのくらいドSな感じ…」


綾乃はそう言いながら、一輪車に石板を10枚乗せると、溝掘機で掘った溝まで来た。


「縦向きにして、溝に入れます!

全て並べ終わったら、掘った土で隙間を埋めて、完成。」


綾乃は優衣の方を見て、ニヤッと笑った。


「これを94枚分やります。」


「…帰っていい?」


「ダメー!」


綾乃はその間にも、黙々と石板を並べていく。


「まじか。」


「まじだ。」


優衣も一輪車に石板を積むと、溝の横まで持ってきて黙々と並べ始めた。


「これ、重くない?」


「重い。

休み休みしないと、後が持たないから、頑張りすぎるなよ〜。」


そう言うと、綾乃は次の10枚の石板を取りに行き、反対側から並べ始めた。

綾乃は時折、溝掘機の様子を見ていた。

20M掘り終えた溝掘機を、今度は深さ50cm、長さ3.5Mに設定し直すと、先ほど掘った溝の間を繋ぐように掘り始めた。


片側の40枚を並べ終わると、2人は剣スコップで、掘り起こした土で、石を固定した。

しっかりと踏み固めると、5cmほど石板がはみ出ていた。


「少し石が出てるけどいいの?」


「いいの、いいの!これも、意味がある事だから。」


「さ、お昼にしようか〜」


「はーい!」


お昼には少し遅くなってしまった。


「今日のお弁当もうんま〜」


綾乃は卵焼きを一口食べると叫んだ。


「今日みたいな日には、お昼ご飯が癒しだね〜」


「それな!

そういえば、明日、国王陛下のところ行くんだろ?」


「うん。呼び出されたらしいね〜」


「なんか、先生の呼び出しみたいだよな。なんかしたっけ?みたいな。」


「わかる。無駄にどきどきするよね。」


「でも、たいていは、なんか雑務押し付けられて終わりだよな。」


「あー。わかる、わかる。」


2人は、お昼休憩を済ませると、作業に戻った。溝掘機は綺麗に、幅3.5Mの溝を2つ掘り終わっていた。


「ねぇ。綾乃、聞いていい?」


「何?」


「これ、本当に必要な作業よね?」


「うん。」


「そろそろ、何のためか教えて欲しい。じゃないと、怒りでこの石板割りそう。」


「おいやめろって、割れたら、それこそあんまり意味なくなっちゃうんだから。」


綾乃は、石板抱えると、溝に下ろしながら続けた。


「これは、日本人がみかんを甘くするために考えた技術…」


綾乃は石板をまた、「ふんっ」と力を入れて、持ち上げた。


「畝を作って、排水性を良くするのは、優衣も知ってるだろ?」


「うん。」


「でも、雨の日とかの水って防げないじゃん。」


「まぁ、そりゃそうでしょうね。」


「だから、日本の農家さんは考えました。

これ、マルチで水防いだら、めっちゃ、おいしいみかんできるんじゃね?と

何なら、横から水入ってこないように、畝の周りもシートとかで覆えば、ますます、おいしいみかんができる!っと、で、これよ!

まー、肝心なシートがなくてさ、アロースちゃんに、聞いて何とか代わりになりそうなのが、板状の石だった。」


「なるほど、なんかざっくりだけど、とりあえず、おいしいみかんを作るために必要なのね。」


「うん。でも、ギルドにあったの、品種がイマイチなのしかなかったし、すっごい嫌な予感するんだよね…」


「何で?」


「いや、なんか昔からあるのしか置いてなくてさ。これ、品種改良進んでないんじゃね?と思って。」


「まじかー。」


「だから、とりあえずこの5本試してみて、品種改良にも手を出そうかなと思ってる。」


「レモンは?」


「いや、レモンは酸っぱいのが売りだから、そのままでもいい。

甘いレモン食べるくらいなら、みかん食ってたがうまい。」


「うん。まぁ、確かに。」


しばらくすると、もう片側の40枚も並べ終わり、降り起こした土で、隙間を埋めて踏み固めると、今度は、1人7枚ずつ、一輪車に石板を乗せた。


「じゃ、私、奥の方の溝行くから、優衣は手前の溝よろしく。」


「はーい!」


2人は慣れた手つきで、石板を下ろし始めた。10分ほどすると、残りの溝も埋め終わり、畝の周りを囲むように石板を並べ終わった。


「ふぅー。お疲れー!」


「お疲れ様〜。」


2人はハイタッチした。


「あとは、畝の形を整えて、レモンと同じようにみかんを植えていくだけ〜」


「よーし!終わりが見えてくると気合が入るね!」


「いいね!じゃあ、私が畝作るから、優衣は印つけた所に、みかんの苗木を植えていって!」


「了〜解!」


2人はそれぞれの作業を終えると、家に帰るための準備を慌てて始めた。

だいぶ、日は沈み、今にも夜になりそうだった。


「ここにきて、魔獣の餌だけにはなりたくないよな。」


「綾乃!不吉なこと言わないで!そんな暇があったら手を動かして!手を!」


「そんなにピリピリするなよ。」


「もうっ!綾乃は怖くないの?」


「怖いけど、ちょっと、魔獣を見てみたい気持ちもある。

意外とクロマルみたいなやつかもよ。」


綾乃は笑いながら言った。優衣は、ため息しか出なかった。


「2人共〜!大丈夫〜?」


遠くから声がして、菜月と実咲が馬車を走らせながらやってきた。


「えっ!?何?実咲ちゃんって、神なの?」


綾乃は馬車から降りて来た実咲に言った。


「あまりにも帰ってこなかったから、迎えにきた。」


「やっぱり神じゃん。」


綾乃が言うと「えへへ」と実咲は照れたように笑った。4人は急いで、馬車の荷台に荷物を積むと、家に帰った。


「イェーイ!サイコー!…痛てて。」


「大丈夫?」


両手を振り上げた綾乃を、実咲が心配した。


「うん。ただの筋肉痛。」


「「えっ!?あの綾乃が?!」」


実咲と優衣が驚いて声を上げた。


「私も筋肉痛くらいなるよ。私のことなんだと思ってる?」


「山で育った野生児。」


「無限体力系女子。」


実咲と優衣がそれぞれ言うと、綾乃は複雑な表情を浮かべた。その様子を聞いていた菜月が思わず、プッと吹き出した。


「あー。菜月まで笑い者にして。お前らが体力無いだけだろ。」


綾乃は「ふんっ」と拗ねると、「ごめん、ごめん。」と実咲と優衣が宥めた。


馬車を倉庫に停めると、実咲と菜月は、急いで、馬だけ馬小屋に連れて帰った。


もう、すでに、一番星が登り始めていた。4人は走って、家に帰ると、いつものかすみの「おかえり〜」と言う声に、心の底から安堵した。

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