剪定!
綾乃は、実咲と菜月が馬の世話に行ったのを見届けると、実咲の部屋のドアと玄関の扉を開けた。
''これで、気持ちよく二度寝ができる。''
窓から入ってくる朝日が眩しくなり始めると、自然と目が覚めた。
''クロマル、どうしたかな?"
少し気になりはしたが、とりあえず、朝ごはんを食べることにした。
かすみのお手製の朝食を食べ終わると、一輪車に必要な道具を乗せ、優衣と果樹園に向かった。
果樹園に到着すると、一輪車を置き、剪定鋸と剪定バサミを取り出した。当初、びっしりと生えていた雑草はこの数日間で、柑橘の木の周りだけを手で抜いたり、鎌で刈り取ったりしていた。今日は、剪定バサミと剪定鋸を使って、木を剪定する予定だ。
「さぁ、始めるか…。」
綾乃は柑橘の木をしばらく眺めると、手慣れた様子で枝を切って行く。
「綾乃。私、どこ切ったらいいかわからない。」
しばらくすると優衣が、頭1つ分高い木を眺めながら言った。
「え〜、授業で少し習ったろ?」
「うん。でも、見るのと実際にやるのじゃ違いすぎてわかんないよ。」
綾乃は、1つ枝を切り終えると、優衣のところに来た。
「じゃあ、私が枝切ってくから、切り口に木工用ボンド塗って、巻けるところはアルミホイルしといて。」
綾乃は、そう言って一輪車に積んでいた木工用ボンドとアルミホイルを渡した。
「了解!」
綾乃は、内側に向かって伸びている枝や枯れ枝、それから、今年実がなっていたような枝を切り落としていく。優衣は綾乃の邪魔にならないようにしながら、木工用ボンドを塗っていた。
「こんなもんだろ。」
30分程経つと、1本剪定を終えた。無駄な枝が混み合っていた柑橘の木は、風通しと日当たりもちょうどよくなり、すっきりとしていた。
「綾乃って、実はすごいんだね。」
すっきりした柑橘の木を見て、優衣は言った。
「えっ!?今まで私のこと、バカにしてた?」
「ソ…ソンナコトナイヨ〜。」
優衣は綾乃から目を逸らしながら言った。
「その感じはしてたな。私はやる気はないけど、実はできる子なの。」
「うんうん。そうだね。すごいすごい。」
「まだ、バカにしてるな〜」
2人は冗談を言いながら、手はしっかりと働かせていた。
残りの2本を切り終えると、みかんの枝の山が一つできていた。
「午後はこれを燃やすか…」
綾乃はそう言って、一輪車からお弁当を2つ持ってきた。おしぼりでしっかりと手を拭くと、地べたに座り、お弁当を広げた。
果樹園から戻ってくるのも大変なので、かすみがお弁当を作っておいてくれたのだ。
「かすみは絶対、良い嫁になるぞ。私が結婚したいくらいだ。」
綾乃は俵形のおにぎりを食べながら言った。
「わかる。料理は最高。容姿も完璧。性格も良し。あれは神に愛されてる。
食い気だけの綾乃に嫁にやるのはもったいない。」
「ひ、ひどいわ…私たち2人の関係を裂こうとするなんて…」
「ププッ…」
綾乃の名演技に優衣は耐えることができなかった。お弁当を食べ終わると、綾乃は地べたに寝転んだ。晴天の空に風の吹く音と、時折、小鳥の鳴く声が耳に心地よかった。
「あやの?…綾乃!」
1時間くらいだろうか、すっかり眠っていた綾乃は優衣の声で起きた。
「うーん。もう少し寝たい。」
「早めに終わらせて、帰ってから寝ればいいじゃん。」
「うー。」
綾乃はだるそうに起き上がると、枝を1つ掴んだ。
「インガーディアム◯ヴィオーサ」
切り終えた枝の山に向かって枝を振るが、何も起こらない。
「遊んでないでやるよ!」
みかんの枝を運びながら、優衣が綾乃に言うと、綾乃は枝をポイっと捨てると、立ち上がった。
それから、みかんの枝の山をつくると、燃やすために、優衣がマッチ箱を持ってきた。
綾乃は、刈り取った後の乾燥した雑草の山を一掴みすると、小さな山を作った。
「ちょっと待って、優衣。」
「何?」
優衣は、火をつけようとマッチ箱を開けていた手を止めた。
「火よ着け。」
辺りは、チチチチチッと小鳥の囀りが響いている。
「おかしいな…魔法使えるはずだよな?」
「火、つけて良い?」
「まだだ。念じる系かもしれん。」
綾乃はそう言って、今度は、枯れ草の小さな山に手を向けた。そして目を瞑ると、フンッと力を入れた。
数秒たてど何も起きない。
「もう、火をつけるよ。」
「待って、あと1回だけ!」
はぁ、とため息をつき、優衣はあと1回だけ待つことにした。
「火の精霊よ。この枯れ草の山に火をつけたまへ」
数秒経って、見かねた優衣がマッチ箱を開けてマッチを1本取り出した時だった。
いきなり、マッチ箱から火が出ると、優衣は驚いて、手を離した。火のついたマッチ箱は、綾乃が作った枯れ草の山の上に落ち、火がついた。
「おい、優衣マッチもタダじゃないんだぞ。」
綾乃はそう言いながら、枯れ草を足して火を大きくしていく。
「いや、マッチ箱ごと火つけれるわけないでしょ。あんたの魔法じゃない?」
「……!!そういうこと!?っていうか詠唱系かよ…」
綾乃は嬉しそうに立ち上がると、一瞬で、落胆した。
「でもこんな感じなら、マッチで火つけた方が、経済的なんじゃない?」
優衣は、葉っぱのついた小枝を焚き火に乗せながら言った。
「……。きっと、まだ、制御できてないだけだ。帰ったら、紫穂に自慢しよ!」
ある程度、火が安定すると、今度は太めの枝を入れ始めた。
「あっ…。水忘れてきた。」
綾乃は突然思い出すと、つぶやくように言った。
「仕方ないな…取りに行ってくる。
バケツ1杯分で良いよね?」
「おっ!ありがとう!よろしく〜」
「はいよ〜!その間に肥料撒いておいてね。」
優衣は一輪車に載っている荷物を下ろしながら言った。
「はーい!」
綾乃は一輪車から、肥料の入った袋を取ると、みかんの木の周りに撒き始めた。
優衣は一輪車を持つと倉庫まで行き、バケツをとった。それから水を汲むと、一輪車の平らなところに乗せて、休み休み運び始めた。
やっとの思いで、果樹園に到着すると、枝の山が3分の1ほど減っていた。
「持ってきたよ〜」
「さんきゅ〜おつかれ〜」
優衣は金属でできたバケツを火のすぐそばに置いた。
日が傾く頃には全ての枝を燃やし終わった。
炭と灰になった場所に、水を少しかけた。
それから、延焼を防ぐために、焚き火の周りにも水をかけると、一輪車に持ってきた道具を乗せ、家を目指した。
道具を片付けて、家に帰ると、実咲が木箱を抱えていた。
「クロマル。大丈夫だった?」
「うん。無事に終わったよ〜!今の所、大丈夫そう!」
「そうか、なら良かった!」
綾乃は、クロマルが逃げずに去勢に立ち向かったことを知ると、自分もとてもやりたくないハウスの設置作業を、明日ちゃんとやることに決めた。




