伴侶動物
実咲と菜月が家の近くまで来ると、遠くから綾乃と優衣が歩いてきていた。
「何その箱?」
綾乃が畜産チームの2人に尋ねた。
「わかんない。」
実咲が答えると、綾乃は「見せて」と箱の中を覗き込んだ。
「確かに、わからん。」
「えぇ!なになに見せて」
綾乃に続き優衣が箱の中を覗き込んだ。
「犬…?じゃなさそうだね。」
「その子は?」
菜月が優衣の足元を指差した。菜月の人差指の先には、草刈りの時に現れた子猫がいた。
「あ〜。ついてきちゃったか…」
頭を抱える綾乃に子猫はミィと小さく鳴いた。
「珍しく綾乃が気に入られてるじゃん。」
実咲は茶化すように言った。綾乃はふんと鼻を鳴らした。
「でも、コイツは連れていけない。」
「どうして?」
「かすみが動物苦手だから。」
「そうなの?!知らなかった。じゃあ、この子もだめかな。」
実咲は抱えた木箱の中を見た。
「たぶん…だめ。」
「じゃあ、食料ってことにしたらいいかな。角があるし、たぶん草食動物だよね。」
謎の動物はビクッとして、耳をピンと立てると、ぷるぷると震え出した。
「ごめん。冗談、冗談。」
謎の動物を見て実咲は笑いながら言った。謎の動物は、ジイッと実咲を見ている。
「この子、足のところ怪我してるの。夜は危ないって言うし、とりあえず、かすみには内緒で私の部屋に上げればセーフかな?」
「う…うん。わかんないけど、大丈夫じゃね?ついでにコイツもよろしく。」
綾乃は足元の子猫を抱き上げると、手ぶらの菜月に渡した。「おおぅ。」と声を漏らした菜月は、いきなりの事に驚きながらも子猫をしっかりと抱いた。
「さぁ!帰ろう。」
「まったく、綾乃は調子いいんだから。」
実咲は呆れて言った。
4人と2匹は玄関を開けると、綾乃が合図したタイミングでささっと中に入った。音を立てないように実咲の部屋に入り、なんとか侵入に成功した。ほっと安堵していると、2回ノックした後、ドアがガチャっと開いた。
「何やってるの…?」
かすみは、数秒の間2匹を見ていた。それが動物だと気づくと叫んだ。その後、恵が勢いよく階段を昇り駆けつけた。
「何?どうしたの?」
恵が、腰を抜かしたかすみの向こうに居た4人と2匹を見ると、はぁとため息をつき、すぐに下に来るように4人に言った。
4人と2匹は下に降りてくると、いつもの椅子に座った。かすみはキッチンに避難している。
「怒られそうじゃん。」実咲は綾乃に小声で言った「ダメだったか…」と綾乃はつぶやいた。
「この動物達は、どうしたの?」
「鶏小屋で怪我してるところを拾ったの。」
恵の問いに実咲は素直に答えた。
「この子は、草刈り中に出会って、畑に置いてきたんだけど、ついてきちゃった。」
綾乃も答える。恵は少し頭を抱えた。
「かすみは動物が苦手なのよ。」
「うん。さっき綾乃から聞いた。」
かすみはキッチンでビクビクしながら、こちらを見つめていた。
「この子、怪我してるの。怪我が治る間だけ、私の部屋に置いたらダメかな?」
「かすみは、それなら大丈夫そう?」
「まぁ、ある程度、距離が取れるなら。」
「で、その子も怪我してるの?」
恵は子猫を見た。
「いいや、してない。やっぱ、飼えないよね。
怪我してないし、外に放してくる。じゃあな、魔獣の美味しい餌になれよ。」
綾乃はそう言って、子猫を抱き抱えた。子猫はミィ〜と悲しそうに鳴いている。
「ちょ、何もそこまで言ってないよ。私だって鬼じゃないし、ちゃんとみんなが納得するように話し合いたかっただけ。」
「じゃあ、飼ってもいいって事?」
「うん。でも、かすみ被害が出ないように話し合わないと。」
綾乃は笑顔で「やったな。」と小声で子猫に言った。子猫も小声でミィと鳴いた。
「なにごと?…おお…」
そろそろ夕食の時間だろうと研究室から出てきた紫穂が、綾乃の抱いている子猫に勢いよく近づいた。
「この子飼うの?」
紫穂が顔を輝かせている。
「紫穂、猫好きなのか?」
綾乃の問いに紫穂は子猫を撫でながら、こくんと頷いた。その瞬間に綾乃はひらめいた。
「紫穂の研究室なら基本、誰も入る事ないし、子猫は紫穂が面倒見ればいいんじゃね?
なぁ!紫穂?」
「…賛成!」
紫穂は力強く頷いた。綾乃が紫穂に渡すと、紫穂は大浴場へと向かった。
「ん…どこに行くんだ?」
綾乃がきくと、実咲が答えた。
「たぶん、子猫を洗いに行ったんじゃない?私もこの子洗ってくる。」
実咲と菜月は、一緒に大浴場に向かった。
大浴場では、手慣れた様子で、紫穂が子猫を洗っていた。
「紫穂、猫飼ってたの?」
紫穂は「うん。」と頷いた。
隣で実咲が謎動物を洗い始めた。シャワーのお湯が謎の動物の毛を伝い茶色い水となって流れ落ちた。しっかりと全身を洗うと、謎動物は体を大きく左右に揺らした。
「「「キャッ!!」」」
水が飛び散り、3人の作業着を見事にビショビショに濡らした。
「その子、白猫だったんだね。」
汚れが綺麗に落ちた子猫を見て、実咲が驚いたように言った。
「本当だ。」
これには菜月も驚いたようだ。
3人は子猫と謎の動物を乾いたタオルで拭き上げると、作業着を洗濯する機械に入れた。
「よく考えたら、女しかいないし、このまま部屋まで行ってもいいよね。」
3人は下着のまま階段を上り、それぞれの部屋に入った。それから着替えると、小さい深めの皿に水を汲んで、部屋の隅に置いた。
「夕ご飯できたよ〜」
かすみの声がして、3人は下に降りてきた。
ご飯を済ませると、紫穂は、冷凍庫からササミを見つけ出して茹でていた。
「おやつ?」
後片付けをしているかすみがきいた。
「うん。チビのご飯。」
「チビってあの子猫?」
「うん…チビは体小さいけど、大人の猫。」
「なんで、わかったの?」
「歯を見たらわかる。」
「紫穂って、猫にも詳しいんだね。」
紫穂は、頷くとササミを手で裂いた。
「かすみ。夜は部屋の鍵掛けといて、チビを放つから…」
「えっ?…わかった。朝は出てこないよね?」
「うん。部屋に戻ってくると思う…たぶん…」
不安そうなかすみに、紫穂はそれだけ言うと、ササミを持って2階に上がっていった。
チビはおとなしく紫穂の部屋で待っていた。
紫穂がササミの入った皿を床に置くと、チビは食べ始めた。ドアの外では、みんなが「おやすみ」と声を掛け合っているのが聞こえた。
チビがササミを食べ終わる頃には、廊下は静まり返っていた。紫穂はみんなが寝静まったのを確認すると、チビが出入りできるようにドアを少しだけ開けた。
紫穂はベットに入ると、目を閉じた。
(………眠れない。)
すると、チビがベットに飛び乗ると、紫穂の隣に寝転んだ。
「チビ、おやすみ」
「ミィ〜」
紫穂は、チビの小さな温もりを感じながら、ゆっくりと眠りについた。
活動日誌5
日付 クッロブール.23(2月23日)
記録 小野 かすみ
今日は、午前中、魔法農具(?)の説明会がありました。その後は、各自草刈りなどの作業に入りました。農業チームはギシギシをたくさん取ってきていたので、新芽を調理し食べました。粘りがあり、味噌と相性も良かったです。最後にギシギシの特徴をおさらいで載せておきます。
ギシギシ
ダテ科・多年草
草丈40 - 130cm
根や実生で増える。春から夏にかけ、茎の先に花穂をつける。初夏に花をつける。秋には発芽して、茎をのばさずに、地面にへばりつくように株の中心から放射状に多くの葉を広げた状態で冬の寒さを越す。




