モンストロ大陸への出航
アトラスからの耳打ちを聞いた瞬間、目を見開き驚愕したヴェルタニスは思わず声を上げる。
ヴェル「それって……!」
アトラス「状況的にだ…"どちらか"もしくはその"両者"がおそらく内通者だ」
そんな言葉が信じられないといった様子でヴェルタニスは困惑する。
アトラス「現時点で有力というだけだがな。そうでないことを祈ろう」
そう言い放つと共に天井に向け身体を伸ばしたアトラスは、軽やかな足取りで部屋を出る。
その姿を見送ったヴェルタニスはアルバスでの出来事を思い浮かべ、アキ、そして両親のことを救う事を改めて決心するように拳を握った。
それより一日後ー。
アルバス公国近郊の浜辺に多くの魔物とヴェルタニスたち、そしてディオル、ヒスイを含めたアルバス公国の人間たちが居る。
ヴェルタニスやアトラスを含めた魔物たちはモンストロ大陸への出航準備、その他の魔物たちは大陸から送られてきたであろうアルバスに常駐する魔物たちの姿だ。
ソロ「ご苦労様。君たちはあそこにいるディオル氏とともにこの国の防衛にあたってくれ」
そんな魔物たちに労いの言葉をかけたソロに対し、魔物たちは小さく頷きディオルの元へと駆け寄る。
ディオル、そして魔物たちは少しの間言葉を交わす。その間には絆や尊敬といったような感情は感じられないものの、種族間のいざこざといったものは無いようにも思える。
ヴェル「あれって大丈夫なんですか……?その、こっちに来た魔物たちの中には人間を恨んでいる人も……」
ソロ「そんな奴らがほとんどだよ、でも今はここで争っている場合じゃない……倒すべきはハーラルだ。本来やるべきことをしっかりと見据えているのさ。人間たちとは違ってね」
勇者として罪のない魔物を討伐して回った過去、そして自身と同じ人間が起こしている悪行。『本来やるべきこと』とはかけ離れたそんな愚行を思いうかべ、図らずも図星を突かれたヴェルタニスは思わず顔を引きつらせる。
ヴェル(本来やるべきこと……か……)
その場にいる多くの人間、魔物たちが言葉を交わしてしばらく、出航の準備が整ったのか一人の魔物が声を上げる。
「いつでも出発できます!!」
ソロ「よし、それじゃあ行こう。ミラはアルバスに、他の皆は僕と一緒にモンストロへ帰還しよう」
アルス、ヴェルタニス、アトラスの三人は小さく頷くと、船上へと歩みを進める。
その後ろ姿に気付いたヒスイはその場で手を振って大きな声を上げた。
ヒスイ「あ、あの!本当に今回はありがとうございました!」
4人はヒスイの方に身体を向けてそれぞれ手を振り替えすと、船内へと進む。
それからしばらく、4人、そして船員の魔物たちを乗せた船は大陸に向けてゆっくりと走り出したのだった。
モンストロ大陸、とある一室ー。
アダマス、そしてメテラエルの二人が奪還作戦を通じて転送された『報告書』に目を通している。
アダマス「ふぅ……"内通者"、大方分かってはいたものの、こちらの情報がこうも筒抜けとは」
メテラエル「でも大丈夫でしょうか?こんなにおおやけにいってしまったら内通者本人もより警戒するのでは……?」
少し疲れた様子で、目頭を抑え小さくため息をついたアダマスは近くにあったテーブルに報告書をまとめた後に続けて言葉を発する。
アダマス「それは問題無いだろう、キングの言う通りこれは警告でもある。作戦によっては内通者をあぶりだすこともできるハズだ」
そんな会話をしている最中、部屋の外からドアを小さくノックをする音が鳴る。二人は扉の奥に居る人物の気配に対し、慣れた様子で声をかける。
アダマス「入れ」
デュラル「いや~ただいまただいま。今回はしてやられたね」
部屋へと入って来たのは、奪還作戦から帰還したデュラルの姿だった。いつものようにひょうきんな様子で振舞っているものの、どこか思い詰めているようにも思える。
デュラル「俺が居ながら仲間を失うことになってしまったね……俺が転送されたのはハーラル南西、数キロ離れた離島だった」
そんなデュラルの姿に二人は今回の事は仕方が無いと言った様子で頷くと、デュラルに休むよう声をかけた。
数分後、部屋を出たデュラルは通信機器を耳に当て、どこかに連絡をし始めた。
通信機器の向こうから聞こえる声とデュラルは親しい様子で話す。
デュラル「ふぅ~……失敗、失敗。なかなか上手くいかないね~。……うん、うんうん。それじゃそっちはそっちでよろしくね」
それからしばらくの間言葉を交わしていたデュラルは通信機器の電源を切ると、大きくあくびをした後身体を伸ばす。
デュラル「さて、本格的に準備しよう"彼ら"の為にも」
力の抜けた体に活を入れる為に身体の中にある空気を外に出すように息を吐くと、デュラルは城内のどこかに移動し始めた。