疑問と真実
ヴェル「アトラスってお前…!」
目の前にいる少女がかつて戦火を交えた魔王の名前を出し、ヴェルタニスは思わず身構える。
アトラス「まあそう構えるなよ、何もお前に復讐しにきた訳じゃない。」
自身のことを魔王だと豪語する少女は笑いながらそう答える。
アトラスとの戦いを鮮明に思い出したヴェルタニスは
己が剣でトドメ刺したハズの彼女の姿を思い出す。
ヴェル「えっと…仮にあなたの言うことを信じるとして、なんか…若返った?」
前と自分の姿と比べ、貧相になったその体を見られたアトラスは慌てて答えた。
アトラス「そ、そんなに見るな!この姿はアレだ…お前に斬られて縮んだんだ!」
あたふたと訳の分からない様子で弁明をするアトラスの姿に苦笑いを浮かべていると
ハルとして生きていた頃から疑問におもっていたことを聞く。
ヴェル「あ…なあ、あんたが本当に魔王だって言うなら、
最期どうして俺の攻撃を避けずに斬られたんだ?」
アトラス「お前急に敬語やめたな…。」
彼女は大きくため息をつくと20年前の戦闘で起きた出来事を話し始める。
アトラス「別に大したことじゃない…あの時は…」
…
ハル「俺は落ちないよ…ユリアスとアキが受けた攻撃の分…しっかりと返してやるよ!!」
大きなドラゴンとなった自分の身体を駆けあがり弱点である角に目掛けて
攻撃を繰り出そうとする勇者の姿を目にしていても、私は冷静だった。
アトラス(やはりいい力を持っている…!しかし!)
身体を強く踏み込み、高く飛び上がる勇者の身体に目掛けて
私が攻撃を仕掛けようとした時だった。
ハル「やば…!」
その瞬間、私の目に映ったのは勇者ではなく自身が放った
火球の攻撃により大地が抉れた森の様子だった。
そこ居たのは火球の攻撃でキズを負い力なく倒れている一匹の鬼人の様子だった。
アトラス「ッ!(何故ここに居る!アリア!)」
自らの手で仲間に重傷を負わせてしまった自責の念からか、
それとも森に他の魔物がいることを危惧したのか、
今となっては正直よくわからんが私は勇者の攻撃を避けることが出来なかった。
アトラス「…バカ者が…なぜ…」
…
アトラス「そうして、勇者の…お前からの攻撃を受けて
力を失った私はこの様、という訳だ。」
一通り話を聞き終えたヴェルタニスは幾つかの疑問について聞く。
ヴェル「でも、あの森は確か魔物が多く生息している…んだよな。
だったら戦いで何人かが死んでしまっても仕方が無いんじゃ…」
アトラス「…お前、私の城に来た時私以外の魔物に出会ったか?」
幼馴染だったアキや仲間たち四人と共に魔王の城を探索した時の
出来事を思い出すヴェルタニスは言った。
ヴェル「城には魔物が居なかった…。」
アトラス「私はお前たちとの戦いに備えて城、そして周辺の魔物たちに
被害が及ばないよう避難しろと伝えていたのだがな…
自らの身を案じず、私を守ろうとでもしたのだろう。
あのバカ共、私のことは心配するなと言ったハズなのに…」
ヴェルタニスは魔物たちにも人間と同様に仲間を心配するという気持ちがあることを知り、
彼らを殺す要因を自分が作ってしまったことを知る。
アトラス「そして昨日、おそらくお前がかつての記憶を取り戻した時だろう。
お前から勇者とまったく同じ魔素を感じ取ってここに来たという訳だ。」
そう言うアトラスの話しの中に聞きなれない言葉があったのをヴェルタニスは聞き逃さなかった。
ヴェル「…魔素を感じ取る…?いや、俺は昔から魔法なんか…」
彼からその言葉を待っていたかのようにアトラスは笑顔で話を遮ると続ける。
アトラス「知りたいか?ならば私と来い!私もお前に用があるからこそここに来たのだ。
共に行くぞ、我らが魔物達の故郷!『モンストロ』へ!」