かつて戦ったお前と
おそらく魔物であろう少女が突然目の前に現れ、目を丸くしていたヴェルタニスは
ハッとした表情を浮かべると急いで村に走り出す。
ヴェル「…そうだ!村はどうなって…」
少女「おい待て!お前どこに!」
走り出すヴェルタニスを追って少女も同様に村に向かった。
そして二人が目にしたのは、昨日までの平和な様子からは
想像ができない程に崩壊した村の様子だった。
少女「…これは…ここまでやるのかハーラル…」
ヴェル「…知っているんですか、その国について。」
少女の口からハルとして生きていた頃の故郷の名前が
出てきたことをヴェルは疑問におもったのか落ち着いた様子で聞いた。
少女「随分と落ち着いた様子だな。もう涙は尽きたのか?」
ヴェル「いえ…只、自分の無力に呆れているだけです。」
少女はヴェルタニスの幼い容姿とその似つかない落ち着きのある
様子気に掛けることもなく話を続ける。
少女「…ハーラル王国は他国の領地内にある村を一晩で幾つも襲撃することで
その国に自分たちの力を証明する。襲われた側からすればそれ程の戦力と
争うことになるか、降伏するかどちらかを強制的に選択させられる訳だ。
…戦力があったとて、たった20年でハーラルがここまで強くなったのは異常だがな。」
ヴェル「そうだったんですね、というかあなたこそ
年齢の割に落ち着いているように見えるんですが…」
二人は崩壊した村の中を探索しながら、20年前から現在に至るまでの
レオ大陸の中で起きている争いについて話している。
するとある一つの家を見たヴェルタニスが駆けだす。
ヴェル「…!!」
少女「というか私は今はこんな見た目だが実際は…っておい!」
二人視線の先には見る影もなくボロボロに崩れている一つの家屋があった。
少女「ここは…お、おいお前!」
ヴェルタニスは少女の声に反応することもなく、その家屋の中に入る。
中は家具や窓が割れ、散々とした様子だった。ヴェルタニスは
変わり果てた家を見て悲しげな表情を浮かべる。
少女「ここは…もしやお前が暮らしていた…?」
ヴェル「はい…昨日までペトラさ…両親たちと住んでいた場所です。」
そう言ったヴェルタニスはかつて両親と共に就寝していた部屋のドアに手をかける。
しかしドアは歪んでいたのか、今の彼の力では開けることは出来なかった。
ヴェル(くっそ…前のような力があればこれくらい…)
するとその様子を見た少女がドアに手をかけ、何かを呟く。
その瞬間ドアは大きな音を上げて崩れ落ちる。
ヴェル「…ッ!あ…りがとうございます。」
少女「構わない、ここにはお前の思い出が詰まっているんだろ。
それを大事にする気持ちに魔物も人間もないよ。」
二人が部屋に入ると同じようにボロボロになったベットや
家具が散らばり、とてももう暮らせるような状態では無かった。
しかし、ヴェルタニスは瓦礫に埋もれた一つの本を見つけ手に取る。
その本の表紙には『ノケモノの叫び声』と表記されている。
ヴェル(そういえば魔王の城にもこの本があったっけな…)
かつて幼馴染や仲間と冒険した記憶を思い出すヴェルタニスは物憂げな表情を浮かべる。
少女「おお!懐かしいな!この本!」
ヴェル「知っているんですか?」
…
残された魔物たちを不憫に思った王様は人間たちと話し合い、
レオ大陸とは別に二つある大陸の一つを魔物たちに明け渡します。
その後魔導士が生み出した鬼人、竜人を筆頭に魔物たちの文明は繁栄して行ったそうです。
後に『モンストロ』と名付けられるその大陸に住み着いた魔物たちは人間の国と手を取り合っていきました。
しかしそれを良く思わなかったのが魔物を生み出した魔導士でした。
自分の研究を認めなかった国と自分の魔物が手を取り合い協力する姿を見た魔導士は
牢を抜け出し、魔法をより高めると国に復讐を誓います。
「私の研究を侮辱したのにも関わらず、その成果と手を取り合うとは何事か!」
そう言った魔導士は国に戦争を仕掛けます。
「お前は神などではない!勝手に生み出された彼らのことを真に考えたことがお前にはあるか!」
王様はそう言うと自らも剣をとり、国の兵士とともに魔導士に立ち向かいます。
国は魔導士と何日にも渡る争いの末、勝利を収めることが出来ました。
魔導士は国を追放され、裏切った事で『除け者』として処刑されてしまいます。
しかし、処刑台の上で魔導士は笑います。
「私がこれで終わりだと思うな!国王…私はいずれ蘇り、この世界の神になってやろう!」
その叫び声は魔導士が亡くなってからも何時間にも渡り、国中に響いたと言います。
…
ヴェル「…今考えるとこれ、本当に子どもに読み聞かせる本なのか…?」
『ノケモノの叫び声』を読み終えたヴェルタニスは苦笑しながら本を閉じる。
彼が外を見ると、あたりはもう日が落ちて暗くなっている。
少女「お前…行くところはあるのか?」
ヴェルタニスは静かに首を振る。
少女「ならば私と共に来るか?同胞に裏切られたのだろう…勇者ハル。」
勇者として冒険をした時代の名前を呼ばれたヴェルタニスは目を丸くする。
少女「私の名はアトラス・ドラコーン…かつて魔王と呼ばれ恐れられた者だ。」
うーんヴェルの村での生活描写が短かった分どうしても陳腐に感じてしまうなぁと。
自分の実力不足をひしひしと感じます。