転生
『ノケモノの叫び声』
ー今よりもずっと昔の時代、とある国に一人の魔導士がおりました。
魔導士は様々な魔法を編み出し、国のためにその力を使っていました。
人々はその魔導士を称え、信仰していました。
しかし魔導士は自分の探求心を抑えることが出来ず、
国の王様から禁止されていたハズの生物を生み出す研究を始めてしまいます。
その研究の途中に生み出された生物を『魔物』と魔導士は名付けました。
自らの手で生物を生み出せた魔導士は歓喜しました。
「やったぞ!私の研究がついに実った!」
その後も魔導士は『鬼人』や『竜人』など
人間の力を遥かに凌駕する魔物を生み出します。
ところがある日。
魔導士の研究の研究に気付いた王様は魔導士を牢に入れると、
研究のためにつかっていた部屋を燃やしてしまいます。
残された魔物たちを不憫に思った王様は人間たちと話し合い、
レオ大陸とは別に二つある大陸の一つを魔物たちに明け渡します。
その後魔導士が生み出した鬼人、竜人を筆頭に魔物たちの文明は繁栄して行ったそうです。
…
「今日はここまで、続きは明日ね。お休みなさいヴェルタニス」
そう言って本を閉じた女性はベットの上で眠っている
生まれてから間もないであろう少年の頭を撫でる。
気持ちよさそうに眠る少年を見送った女性は部屋を出る。
そこに一人の男が玄関を開けて入ってくると女性は男を笑顔で迎えた。
「お帰りなさい。グレイさん。」
グレイ「ただいまペトラ。ヴェルはどう?」
ペトラ「もうぐっすり寝てしまってますよ」
仲睦まじい様子の二人はテーブルに腰かけるとペトラと呼ばれる女性が
用意していた料理を食べ始める。
ペトラ「お仕事の方はどうですか?」
グレイ「ああ、順調だよ。最近鳴りを潜めていた魔物がまた暴れ出し始めたせいで
装備や武器につかう鉱石が沢山必要になったからな、大忙しだよ。」
シエル大国。レオ大陸東に位置するこの国は大陸内でも
特に鉱石や食料が豊富に採取できることで有名で、
その領地内の村に住むグレイは鉱石を採取するために洞窟を探検する冒険者の一人だった。
グレイ「でもやっぱり、みんなハーラルのことを恐れているみたいだよ。」
ペトラ「…」
勇者ハルが処刑されて十五年。前ハーラル国王が死去して以降、
彼の孫が新たな国王として君臨し、ハーラル王国は他国を制圧、侵略することで
大帝国と呼ばれるまでにその勢力を拡げていった。
しかし、ハーラルの国内は国王の独裁政治により、
多くの国民が苦しみに喘いでいる。
ペトラ「やっぱり、そうよね…いずれは私たちの国にも来てしまうのかしら…」
グレイ「きっと大丈夫だよ、二人でヴェルを守っていこう。」
二人は料理を食べ終えると、器を片付け少年が眠っている部屋にあるベットに寝転がる。
グレイ「お休み。愛しているよペトラ」
ペトラ「ええ、私も愛しています。」
それから五年後。
成長したヴェルタニスが部屋の中で本を読んでいる。
ペトラ「ヴェル~?そろそろご飯よ~!」
そう話しながら部屋に入るペトラは彼の持つ本を見ると、
微笑みながら彼に歩み寄る。
ペトラ「また読んでいるの?その本」
ヴェル「あ、母さん!うん…なんだかこの本、何回も読みたくなっちゃうんだよね。」
ヴェルタニスは物心ついた頃からずっと何かを考えていた。
彼の心の中には黒いモヤがかかったような、
何かを忘れているような感覚が彼の心の中に付きまとっている。
ペトラ「また後で読み聞かせてあげようか?」
ヴェル「うん…」
ヴェルタニスはそんな心の中にある感覚を快くは思わなかったが、
ペトラに手を引かれて食卓についた。
すると玄関から仕事を終えた様子のグレイが帰ってきた。
グレイ「ただいま。ヴェル!いい子にしてたか!」
ヴェル「お帰り父さん…うん、いい子にしてた。」
(でも…この幸せな日々をもう手放したくないな…
仲間のことも忘れて、このまま父さんと母さんと一緒に、
なぁ…このままでいいのかな、)
なぜか心の中にそう呟いたヴェルタニスは
意図せず自分の記憶にないハズの人物の名前を口に出していた。
ヴェル「アキ…?」
その名前はまったく身に覚えのないものだったが、
ヴェルタニスの心の中に深く刻まれる。
グレイ「ペトラ!実は城下町でこんなものを見つけたんだ!似合うと思って!」
そう言うとグレイは袋の中から緑色に輝く鉱石が加工された首飾りを取り出した。
ペトラ「すごい!綺麗な首飾り!…似合ってますか…?」
首飾りをつけたペトラはその場で小躍りしている。
自身が呟いた名前について考えていたヴェルタニスは
その様子を見るとハッとした表情で聞いた。
ヴェル「ねえ!その首飾りって…」
その時だった。
カン!カン!カン!カン!
村に警報の鐘が鳴る。
「ハーラルの兵士だ!」
なんとハーラル王国の侵略がシエル大国に侵略を始めたのだった。
ペトラ「…!グレイさん!」
グレイ「ああ!行こう!ヴェル!」
三人は兵士の魔の手から逃れるために急いで家を出る。
首飾りを見て何かを思い出せそうになっていたヴェルタニスは
もどかしい気持ちで準備を終えるとペトラに手を引かれ村の外に走り出す。
すると兵士達はそれに気が付いたのか武器を構え、三人を追う。
「いたぞ!誰一人逃がすな!」
グレイ「くっそ…!どうしてこんなにいきなり!俺が兵士を引き付ける!
二人は城下町にある父さんの職場に行け!まだそこまでは攻めてこないハズ!」
この提案を聞いたペトラは一瞬グレイと二人が離れることに躊躇したものの
手を握っているヴェルタニスの顔を見つめ、涙を堪えて頷いた。
グレイ「ヴェル、父さんなら大丈夫。また後でな!」
そう笑顔で告げたグレイは二人が向かう先とは別方向に走り出す。
ペトラ「私たちも行くよ!」
二人は城下町へと走り出す。ヴェルタニスはペトラを見ると、
彼女の顔からは大粒の涙が流れていた。
その姿を見たヴェルタニスは自身からも流れそうになる涙を堪え、走っていた。
その時、上空から大きな稲妻が二人を襲った。
ペトラは咄嗟にヴェルタニスを持ち上げ、自身の身体で彼を守る。
ペトラ「まさか…魔導士!?」
彼女が振り返るとそこには杖を持った一人の人間が居た。
魔導士「あれ…外したかな…まあいっか。
ほらほら!降参して身を差し出した方がいいんじゃないお嬢さん!」
魔導士は構わず攻撃を続ける。
ペトラは周囲を見渡すと近くにあった森の中に走り出す。
ペトラ(お願い…間に合って!)
間一髪で森の中に入ったペトラの脚は魔導士からの攻撃によって
キズを負っていた。そしてもう逃げることができないと察したのか
羽織っていたローブと首飾りをヴェルタニスに渡し
大きな木の下に身を隠すとこう告げる。
ペトラ「きっと誰かが助けてくれる…こんな状況でも!
どこかで再開できたその時は…またお母さんと呼んで…!今は…しっかりと生きて!」
大きな涙を流すヴェルタニスを安心させるためか続けてペトラは笑顔で言った。
ペトラ「ねぇ…ヴェル?あなたと家族になれて本当にうれしかった。愛してる。」
そう告げると彼女はボロボロの脚を引きずりながら魔導士の元へ歩き始める。
その瞬間ー。
??「あなたと旅を続けられて楽しかったー」
自分の母親、そして…誰だろうか、知らない人物の言葉が重なる。
??「えーっと…ハルについていっちゃダメかな?」
そうだ…大事な人だった。
ヴェルタニスの中に存在しないハズの記憶が蘇る。
??「よし、行くぞ…!皆!!」
ああ…なぜだろう…。
なぜ忘れてしまっていたんだろう…。
アキ…ユリアス…ごめん
父さん…母さん守れなくて…
…
ヴェル「…ごめん」
いつから眠ってしまっていたのだろうか、
そう言ってヴェルタニスは目を覚ます。
その目からは涙が溢れていた。
木の隙間から差す木漏れ日は彼を照らしている。
ヴェル「今までなぜ忘れていたんだろう…」
ヴェルタニスは母から貰った首飾りを見つめる。
アキがつけていたものと瓜二つのそれはかつての冒険をより鮮明に思い出させていた。
自分がハルと呼ばれていた時代と自身の無力を重ねヴェルタニスは
涙を流すしかできなかった。
その時、
「おい!」
後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。
兵士だろうか、しかしその声は高く澄んだ声をしている。
「お前…こんなところで何をしている?」
ヴェルタニスは後ろを振り向くとそこには
頭から二つの角を生やし、腰のあたりからはドラゴンのような尻尾を伸ばしている少女の姿があった。
「お前なんだか勇者に似ているな!」
そう言う少女は涙で目を腫らしているヴェルタニスの顔を覗き込んだ。
ようやくここまで来た!!
ここから本編が始まります!!