第二の物語
城内から警報の鐘が鳴り、まるで事前に用意していたかのように
三人の似顔絵が描かれている手配書がばら撒かれ、
ハーラル王国の出口はすべて閉門される。
路地に隠れて外の様子を伺っていた三人はこの状況に焦っていた。
ユリアス「ッ…!こっちもダメか…」
アキ「一体どうゆうことなのユリアス!それにまずはそのキズの手当てを…」
キズは大した問題じゃないとアキの心配を一蹴すると、ユリアスは出口を探すために歩き出そうとする。
するとハルがユリアスの焦った様子を見て口を開く。
ハル「…何か知ってるのか?この状況について。」
この状態を想定していたかのように二人を助け、手を貸すユリアスに
疑いの目を向けていたハルはその疑問をぶつける。
するとしばらくの間険しい顔をしていたユリアスは沈黙の後その重い口を開いた。
ユリアス「…実は俺とバーバラの目的は強大な力を持つ「勇者」の監視だった。」
ユリアスは自分達の本来の目的がハルの監視であること。
魔王と勇者の戦いを見届け相打ちならば勇者の死体を国に届けること、
魔王が勝利すれば近辺に待機している兵士に連絡をして弱った魔王にとどめを刺すこと。
勇者が勝利すれば同様に弱った勇者にとどめを刺すよう指示を受けていたこと。
ハーラル王国に帰還した後、勇者を殺し損ねたと報告したことを涙ながらに語る。
ユリアス「俺たちはハーラル国王からそう指示を受けたんだ…本当にすまなかった。」
ハルとアキは黙ってユリアスの話を聞いていたが、
彼が頭を下げるとその口を開いた。
ハル「…魔王との戦いの後、いくらでも俺たちを殺せるチャンスはあっただろ?なぜ何もしなかった。」
頭を上げたユリアスはハルの疑問に答える。
ユリアス「…お前たちと冒険をしていく内に本当にお前たちが人類の敵になるのか、そう考えていくようになった。そしていつも笑顔でいるお前たちのことが大好きになったんだ…本当にすまない。俺たちがやろうとしたことは許されないのは分かっている。だからこの事態が収拾したら俺のことはどうしたって構わない。でも、この騒動が終わるまではお前たちの仲間で居させてくれ。」
自分の気持ちを吐露したユリアスはその場に膝をついて涙を流す。
その話を聞いたハルはゆっくりとユリアスに近づくと肩に手を置いて目線を合わせ、笑顔で言った。
ハル「…あの時、お前は魔王の攻撃から庇ってくれた…これまで一緒に冒険してきたんだ。そんな良いやつのことを仲間じゃないだなんて思わねえよ。」
二人のやり取りを心配そうに伺っていたアキもハルの言葉を聞くと、安心したのかホッと胸を撫でおろした。
アキ「ハルの言う通りよ!…でも、国王様はどうしてこんなことを…?」
ハーラル国王がなぜ人類のために戦った四人を敵対しているのかを考える三人だったが
その理由も検討がつかずその場を後にしようとする。
ハル「…とりあえず、ここを離れて別の出口をー」
居たぞ!!
長い時間路地にいたためか、三人は国の兵士に見つかってしまう。
ユリアス「ッ!二人は早く逃げろ!」
兵士の声を聞いた瞬間にユリアスは斧を手に持ち、
身を挺して二人を逃すため足止めをする。
アキ「ユリアス!」
その姿を見たアキは焦った表情で兵士に攻撃を繰り出すユリアスの元に駆け寄ろうとする。
しかし、その瞬間ハルがアキの手を掴み反対の方角へと走り出した。
アキ「ちょっと!何をー」
ハル「死ぬなよ…!ユリアス!」
そう呟いたハルの表情は唇を噛みしめ、悔しさに満ち溢れていた。
国の外に出るための出口を探し走り続けるハルとアキは
兵士や冒険者だけでなく武装をした国民たちにも追われ、疲弊していた。
ハル「ハァ…ハァ…くっそ、どの門も閉まってる…」
そこだ!捕まえろ!
その間にも兵士たちは二人を追い、走ってくる。
アキ「ご、ごめんハル…私もう走れないかも…先に行って…!」
ハル「何言ってんだ!おぶってやるから行くぞ!」
息を切らしながらそう言ったアキを見捨てることなどできずハルは手を差し出す。
その間にも兵士たちは武器を構え二人の元に迫ってきていた。
もう時間がないと焦ったのか、アキは差し出された手を振り払い先を急ぐよう叫ぶ。
アキ「いいから行って!お父さんとお母さんに会うんでしょ!」
アキの顔と迫る兵士たちを見たハルは苦渋の表情でその場から走り出す。
その様子を見て逃がすまいと焦ったのか兵士は持っていた武器をハルに振るった。
ハル「ッ!!」
反応が遅れたハルは攻撃を躱しきることができず、右腕に深いキズを負ってしまった。
ハル「ハァ…ハァ…」
右腕にキズを負ったハルは薄暗い路地に身を隠している。
「さがせ!あのキズだ…まだこの辺りにいるはず!」
大勢の兵士たちが血眼になりハルのことを探している。
その声はどこか焦っている様子で、彼が見つからないことに苛立ち、怒りを感じているようだった。
ハル「どうしてこんなことに…!」
ハルは安全な場所を求め、走り始めた。
するとどこからか女性の叫び声が聞こえてくる。
「ちょっと!何ですかあなた達!」
声のする方を見ると、数名の兵士に拘束されているバーバラの姿があった。
ハル「バーバラ!!」
その姿を見たハルは思わず彼女を助け出すために走りだす。
ドンッ!!
ハル(あれ…何が…)
するとそれを待っていたかのように路地を出た瞬間に
兵士に頭部を鈍器で殴られ、ハルは意識を失ってしまった。
それからどれくらい経ったのか、兵士にその身を押さえつけられながらハルは玉座で目を覚ます。
ハル(あれ…なんか頭が痛…)
ゆっくりと目を開けるとそこには玉座に座る国王と
体の節々から血を流したユリアスが倒れていた。
ハル「…!ユリアス!!」
ハルが目を覚ましたことに気付いた国王は普段の温厚な姿からは
想像ができない程に高圧的な態度で口を開けた。
ハーラル国王「ようやく目を覚ましたか…はやくその女も起こせ。」
国王がそう言った瞬間ハルの隣で兵士が叫ぶ。
おい!早く目を覚ますんだ!
隣に目をやったハルが見たのは手を拘束され身動きが取れない
状態で気を失っているアキの姿だった。
ハル「アキ!おいアキ!」
ハルの叫び声に小さくうめき声をあげながらアキは目を覚ました。
アキ「ん…え!ハル?あんた捕まっちゃったの!?」
先ほどまでの出来事をぼんやりと思い出し始めたハルは玉座の中を見渡す。
ハル「…!そうだ!バーバラ!バーバラは!!」
玉座の中にバーバラの姿が無いことを確認したハルは少し安心したのか、
ホッとため息をついた。
ハル(よかった…バーバラは無事なのか…)
そう思った瞬間、玉座の奥からコツコツと誰かが歩いてくる。
その姿がハッキリと見えるようになった瞬間、ハルは目を丸くする。
ハル「…バーバラ…?」
なんとその人物はバーバラだった。バーバラはゆっくりと歩くと国王の隣に立つ。
バーバラ「…申し訳ありませんハルさん。」
状況が呑み込めないハルはバーバラの顔を見つめ続ける。
その様子を見ていたユリアスは涙を流しながら小さな声で答えた。
ユリアス「すまない…すまない…俺はお前たちを裏切ることはできないと
バーバラのことも説得したんだ…でも…」
力を振り絞って話すユリアスの言葉を遮ってバーバラは淡々とした様子で答えた。
バーバラ「私は国王様に忠誠を誓っています。人類の敵になりうる貴方も、それに降ったユリアス様もアキ様も
仲間などと思ったことは一度たりともありません。あなたは私の罠にまんまと引っかかったんですよ。
あ、それとハル様…あなたの言っていたー」
その瞬間、彼女が何を言おうとしたのかを察したユリアスはその体を持ちあげて叫ぶ。
ユリアス「やめろぉ!!」
その叫び声を聞いた国王は険しい顔をして兵士を睨む。
その瞬間焦った表情で兵士はユリアスの体を押さえつけその口を閉ざした。
バーバラ「あなたの両親は、すでに処刑されていますよ」
その言葉を聞いたハルはただ静かに涙を流した。
その様子にためらう様子もなくバーバラは続ける。
バーバラ「あなたの両親はその仕事仲間と国家に反旗を翻そうと画策をしていたのですよ…」
その一部始終を聞いていたアキは歯を食いしばりバーバラを睨んでいる。
アキ(お父さん達がハルの家で話していたのって…!)
バーバラ「しかしそれも所詮は一国民の策…国王様は寛大にもその一派の
代表が死ぬことでその他の人間は見逃してやると仰いました。」
ハルの両親が失踪した理由は秘密裏に国に処刑されてためだった。
ハーラル国王「確かに私はこれからの国のために様々なことに手を出していたが…
それも国民のためだとなぜわからないのか…」
顔を手で覆いながらそう話す国王の表情はなぜか笑っているようにハルの目には映った。
ユリアス「何が国のためだぁ!貴様のせいでどれだけ俺の家族が…!」
そうユリアスが叫んだ瞬間だった。
彼を取り押さえていた兵士が剣を振るい、その首を斬り裂いた。
ユリアスの胴と首が離れると、ユリアスは目を開けたまま絶命した。
アキ「きゃぁぁぁあ!!」
歯を食いしばり国王を睨みつけるハルの口からは血が流れていた。
ハル「なぜ…こんなことを…」
ハーラル国王「…もうその友情ごっこを見るのも飽きた。「それ」もも要らん。早く片付けろ。」
国王がそう告げるとハルとアキを押さえつけていた兵士達は剣を振り上げる。
アキ「ねぇ…ハル?」
自分達の命がもう助からないことを悟ったアキは兵士の剣が自分に振られるその刹那、l
ハルに最後の言葉を告げた。
アキ「あなたと旅を続けられて楽しかった。大好ー」
最期まで言葉を言えずに、アキは血飛沫を上げて死んでしまった。
しかし、その想いはしっかりとハルの元へと届いていた。
ハル(ありがとうアキ…守ってやれなくて、ごめん…でも俺ももう…)
これまで冒険を共にしていたアキ、ユリアスを目の前で失った絶望から、
兵士に抵抗する様子もなく不敵に笑う国王の顔を目に写してその首を切り落とされた。
……
…
(すまないアキ…)
(もう体が動かない)
暖かい空気が自分の体を包む。
(あれ、俺は何を…?)
(アキって…誰だっけ…?)
(何か大事なことを忘れているような…)
瞼の上に眩い光を感じる。
(俺は一体?)
…
「生まれたー!!!」
歓喜に包まれた男の声がする。
「もう!赤ちゃんがびっくりしますよ!」
それをなだめるように声がする…女の人、だろうか。
なんだろうこの感じ、少し懐かしいような…
「あ、目が開いた!」
目を開けると優しい表情の男女が覗き込んでいる。
「私たちの元に生まれてきてくれてありがとう…ヴェルタニス。」
勇者ハルが処刑されてから十五年。
レオ大陸のとある国…とある村にヴェルタニスという少年が生まれる。
ようやっと第一部終了…といったところでしょうか…
めちゃめちゃ駆け足になってしまいました。
誰か私に名付けのセンスを分けておくれよ!!