騎士が見た世界の瞬き
向日葵の種をポケットにしまって、
少し火照った顔を隠しながら、彼にサヨナラと手を振った。
「顔真っ赤だよっ」
「見ないで」
クマがニヤニヤしながら言うものだから余計に恥ずかしくなって、
ボクは少し速く歩いた。
「でもさ、綺麗って言って貰えて良かったねっ」
「うん、本当は喜んで良いのか迷ってしまうけど」
「どうして?」
「皆と違うし。気味悪いものなんだと思っていたから」
「ふ~ん。いいんじゃない?喜んで」
「そっか、頑張るよ」
「えっ、頑張る事なのソレ」
「ボクにとってはね」
景色を幾つも変えながら『引っ掛かり』を探し歩いた。
幾筋もの汗が流れたが、体を抜ける清らかな風のおかげで不快な気分はしなかった。
「あら?あらあらー!」
もの凄い勢いで若い女性が話し掛けてきた。
「あ、ごめんなさいね、いきなり。
こんな小さな子とクマちゃんが島の端っこに来るなんて珍しくて。
でも危ないのよ?」
会話をしながら歩いていたため気付かなかったが、
数メートル先は島の終端だった。
危険を伝えるかのように突然、強い向かい風が吹いた。
「ねえ、お名前は。何ていうの?」
「ボクは××です」
「クマだよっ」
「そう。とっても素敵な名前」
女性は、よいしょっと言いながらボクと同じ視線の高さまで屈んだ。
金色の髪がフワっと広がって、天から舞い降りた天使の様だった。
「あなたを見てると弟を思い出すわ。
ずいぶん前に落ちてしまったのだけど」
「落ちた?この島からですか?」
「そう・・少しお話ししても良いかしら?」
透き通っているかのような色白の、か細い手でボク達の頭を撫でながら、
女性はゆっくりと弟の話をはじめた。
弟はいつもお友達の家に遊びに行っていたの。
落ちてしまったその日も。
*
*
「は~今日もいっぱい遊んだねっアオちゃん」
「うん、とっても楽しかった」
「オイラ、アオちゃんといるのすっごく楽しいっ」
「私も楽しい!」
オイラは毎日アオちゃんとかけっこしたり御まま事をして遊んだ。
アオちゃんは大っきな家に1人で暮らしていて、
どの部屋もピッカピカに片付いていた。
「そうだ、これあげる!」
「えっこれ、ネックレス?貰っていいのっ?」
「うん、ロイヤルブルーサファイヤって言うんだよ」
「へー、アオちゃんの目みたいでとっても綺麗だっ!」
「パパもママもそう言ってた!あのね、これを売ればね、お金になると思うの」
「オイラの家貧乏だから、いつも有難う。アオちゃん」
「いいの!私のパパもママも死んじゃって毎日寂しくて。
だからね、また遊んでくれたら嬉しい!」
「もちろんっ!じゃっ、また明日!」
アオちゃんと別れてから、家に着くまでネックレスの事を考えていた。
「ネックレス。大事なものなんじゃないのかなぁ。
売って良いのかなぁ・・ん~どうしようっ!!」
頭が痒くなってきてぐしゃぐしゃ掻いた。じんじんして血が出てきた。
「はぁ、ねーちゃんに聞いてみよっ」
オイラは急いで走った。その途中、島の端っこに、ねーちゃんが居た。
「ねーちゃんっ!!」
「あ、丁度よかった!あんた今日要らないモノ落とした?」
「あっ」
「どうしようね。今日で1年経っちゃった」
「要らないモノなんて、もう何も無いよ」
貧乏なオイラ達は殆どのモノを落としてきた。
お皿やスプーン。帽子に絵の具、ぬいぐるみ。
全部要るモノだったけど仕方なかった。
「あんた、何持ってるの?」
「これはっ」
「アオちゃんから頂いたの?じゃあ早速お金に代えさせて貰って、
何か買って落とそうか」
ねーちゃんはオイラの手からアオちゃんの目の色をしたネックレスを取り上げようとした。
いつもそうしてたのに、何故か嫌で
「ダメだよっ!」
オイラは手を引いた勢いで後ろによろついた。
「あ!――――――――」
足元が静かに崩れ始め――ねーちゃんとオイラを繫ぐネックレスがピンッとなる。
このままじゃ、ネックレスも一緒に落ちてしまう――オイラは手を放した。
泣きじゃくるねーちゃんが小さくなるのを眺めていたら、島の裏側に懐かしいモノを見つけた。
「あ・・こんな所にいたんだね。捨ててしまって、ごめんよっ。でも、もし、もしもオマエが助かったらオイラの代わりに・・・」
懐かしく大切だったモノを見つけた喜びと共に
オイラは落ちてった。
*
*
「・・・」
「弟は、大人になったらアオちゃんのナイトになって
恩返しするって言ってたわ」
弟の話をした”お姉さん”は、クマに小さな声で何か言った。
そして少し微笑んで、ボクの方を見た。
「私のせいで、私の――
いえ、あなたの大切なモノを失わせてしまった。
本当にごめんなさい、アオちゃん。恩返しは出来ないけれど、せめてこれだけは返さなければとずっとここで待っていたの」
そして”お姉さん”は、サファイヤのネックレスを残して、すっと消えた。