第一話 二人の少女
お姉ちゃんは、私の親みたいな存在だ。
私の家は母子家庭だった。
お母さんは仕事好きで仕事がよくできる人だから、いつも仕事を入れていた。
それはもう手帳が真っ黒になるくらい予定をびっしり入れていた。
私もお姉ちゃんも、お母さんを嫌いになったことはなかったが、寂しくなることは多々あった。
いつもいつも、お仕事ばっかりで、授業参観や運動会に来てくれたことなんて数えられるほどしかなかった。
お姉ちゃんは、おばあちゃんに育てられたらしいが、おばあちゃんはもう亡くなってしまったらしい。私が生まれる前に。
そんな家庭に生まれてきた私は、お姉ちゃんに育てられてきた。
お姉ちゃんが、ご飯を作り、洗濯物をする。
私が小さい頃は、お姉ちゃんは遊ぶことなくお手伝いをしてきた。
それでもお姉ちゃんは、文句も言わずに淡々とこなしてきていた。
そんなお姉ちゃんが私は好きだ。そして、憧れでもある。
最近は私もお手伝いができるような歳になったため、お手伝いをするようになった。
とはいっても、私はお姉ちゃんのお荷物にしかなっていない。
物干し竿は高いところにあるため手が届かないし、ご飯を作ろうとすると必ずなにかしら焦がしてしまう。
それでもお姉ちゃんは笑って許してくれる。
練習すれば上手になるよって。
そんなこんなあるけど私とお姉ちゃんで協力して、今日も生きている。
「ただいま!」
と言って私は思いっきり玄関を開ける。
私の家は2階建ての少し大きめな家である。
「おかえり」
家の奥から出てきたのは私の姉である、リオンだ。優しくて面倒見が良いお姉ちゃんである。
お姉ちゃんと一緒に出迎えてくれたのは、親子丼のいい匂いだった。
「お姉ちゃん、今日は親子丼?」
「正解」
お姉ちゃんはいつもと同じ優しい笑顔を私に向けてくれた。
この笑顔に私は何回救われたことか。
するとお姉ちゃんは、奥でなにか書いて私に渡してきた。
「これ買ってきてくれない? 家になかったんだよね」
「了解!」
そうして、私はお金とバッグを持ってドアを勢いよく開けた。
お姉ちゃんの親子丼早く食べたいな、なんて考えながら。
ショッピングモールに着いた私は、お姉ちゃんにお願いされたものを探していた。
「えーと人参とじゃがいもと・・・・・・」
どれがいいかな、なんて考えていると隣から声が聞こえてきた。
「ママー。これ買ってー」
「昨日もお菓子買ったでしょ。今日は我慢しなさい」
私はその光景が、少し羨ましかった。親と買い物に来たことなんてあんまりなかったし、そんな話もしたことなかった。胸のおくがチクチクするのを無視して私はあるき出す。
もし、私に両親が居たら、とたまに考えてしまう。
休日は家族皆で楽しくお出かけ出来た?
笑って、一緒にご飯を食べれた?
テストでいい点を取ったら褒めてもらえた?
皆幸せにすごせた?
お姉ちゃんは友達と遊ぶことが出来た?
はあ、とため息をついてくだらない考えを頭から消す。
(そんな事ありえないのに、真面目に考えちゃってバカみたい)
それに私にはお姉ちゃんがいる。それだけで充分なのだ。
そして、早足で歩いて会計をさっさと済ませた。
「そういえば、今日赤ペンのインク切れたんだっけな。あと、ノートもなかった気がするな」
せっかく、ショッピングモールに来たので必要なものを買って帰ろうと思い、お姉ちゃんに連絡した。
色んなものを買っていたら、三十分近く経っていた。
「早く帰らないとな」
そう言って私は、帰り道へとあるき出した。
さっきからサイレンの音がたくさん聞こえてくる。しかもその音はだんだんと高く大きくなっている。
嫌な予感がして私は走り出す。理由もわからない震えが私を襲う。
全力で走ったため呼吸が荒くなっていた。
私は一度立ち止まり、深呼吸する。
大丈夫、きっと大丈夫。
この角を曲がればすぐ私の家。お姉ちゃんはきっといつものように優しく笑って私を迎えてくれる。
そして、私は角を曲がった。
すると、私の家は赤い炎に包まれていた。
煙がたっていたから、火事なのは予想できた。けど、まさか自分の家で起きたなんて誰も思わないじゃん。
「お姉ちゃん! どこ!」
私の家の周りには人だかりが出来ていたが、私は人と人の間をうまく見つけて、一番前の列まで来ていた。
そこから、私はお姉ちゃんを探しに行こうと燃えている家のなかに行こうとした。
「君危ないよ!」
誰かに手首を掴まれたが、私は一生懸命抵抗する。
「離して! 嫌! 離して!」
涙が私の頬を伝って服へと落ちていく。
掴まれた手をもう片方の手で振り払い、私は一目散に燃えている家の中に飛び込む。
すると、キッチンでお姉ちゃんが倒れていた。
「お姉ちゃん、目を覚まして! お姉ちゃん!」
私の涙は火の中に溶けていった。
私は、酸素が足りなくなり、お姉ちゃんの隣で倒れた。
この世界で、18歳と12歳の二人の少女が目を覚ますことはもうなかったのだ。