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ネットワークビジネスに誘われたので逃走した話。

作者: 神無桂花

人間関係って脆いね。

 「もうすぐ誕生日でしょ、ご飯いこー」


 要約するとこういう内容の会話となる電話がかかってきたのが全ての始まり。半年ぶりに会う友人に食事に誘われた。わりとうっきうきでコ●スへ車を走らせ。友人と合流した。


「話があるから、軽めので良い?」


 その子はそう言った。正直初めてくるからハンバーグが食べてみたかったが、まぁ致し方なし。話と言ってもすぐ終わるだろうしと、カリカリポテトとドリンクバーを注文した。シャインマスカットのデザートも美味しそうだ。


「実はお世話になってる先輩がもうすぐ来るんだけど」


 名前を聞いたが知らない人で、僕の六つ上の人らしい。なぜわざわざ。


「今さ、小さい会社の宣伝のお手伝いしてて」


 唐突に何を言い出すんだ、この子は。


「それを君にも一緒にやって欲しくて」


 勘弁してくれ。何の話をしてるんだ君は。


「あと三十分くらいで来るみたいなんだけど」


 僕はどうやら、「誕生日もうすぐだからご飯一緒に行こう。」という釣り餌に見事に引っ掛かったらしい。

 その時の僕は話だけでも聞いてみようと。友人に義理立てしてしまったのである。

 それから少し。ドリンクバー二杯目を飲んでる途中に、その人は来た。

 コーヒーや化粧品、サプリを扱っている会社。宣伝の手伝いをするというもの。美味しいラーメン屋が広まっていく法則、ホイラーの法則とか、ランク制度とか、活動のために買わなきゃいけないセット(一万四千円)とか、なんか色々話された。というか、なげー。気がつけば九時を過ぎている。妹のバイトの迎えがある旨を伝えた。十時終わり。九時半には店を出たかったし、その旨を伝えたのだが。


「じゃあ、これが最後になるんですけど」


 と、切り出され、延々とまた話が続く。気がつけば九時五十分。スピード違反ギリギリで走っても間に合うかどうか。LINEを交換し、後日続きを聞く約束をさせられて、資料だけもらってその日は解放された。妹の方でトラブルがあったようで、結果的には間に合った。




 さて、今日。(投稿する頃には昨日だ)その日は僕をこのネットワークビジネス(これ自体はルールに則れば一応違法ではないらしい)に引き合わせた友人抜きに、その先輩とやらと会うことになった。約束は約束だ。聞くだけ聞こう。それに、その手の人たちがどんなやり口で僕を落とそうとしてくるか、興味がある。そう思いながらガ●トに入った。十四時だ。 

 その先輩とやらとなんかまた知らない人がいた。その人はお金を貯めて叶えたい夢があるという、友人より先に初めて、友人のお目付け役的なことをしている人らしい。

「夢のためならお金が必要。これしかないと」とか、言っていた。直感した。これはヤバいと。

「あっ、一応LINE交換しましょう」と言われた。なんか僕が登録する前提に既になっているらしく。はっきりと「今回の話を聞いて決めます」と伝えて、連絡先の交換は一旦待ったになり、その人は帰った。一対一なら何とかなるかなと思っていたが、認識が甘かった。


 前回のおさらい的なことをして、今回は具体的な活動について説明してくれるという。そのおさらいが終わる頃、なんかその先輩さんの上司が近くに来ているらしく、ここにも来ると言う。

 やべーなと一瞬考える。だがまぁ、一応対策はしてきた。LINEが来た振りをして、事前に入れておいたダミー着信アプリを起動。十分後の十五時に設定。表示する名前は「店長」。


「すいません。トラブルがあったみたいで、一時間後には職場に行かなきゃいけなくなりまして。三時半に

はここを出たいのですけど」


 そう伝えると、上司の話だけでもと引き止められる。そんなやり取りの直後に件の上司登場。一応、時間が無い旨を伝えた。質問を促されたので、法律関係のツッコミを入れてみる。

 するとまぁ、長いのなんの。国の方でもネットワークビジネス推進委員会があるとか。ちらりと時計を見る。十五時ニ十分。良識ある社会人なら、話をまとめて、早めに解放してくれるところだ。


「友人知人を誘って、別に断られたからって唾を吐く必要はないんだよ」とか聞こえる。


 それからも二人して、将来のことと、友人のことをダシに、僕を頷かせようと畳み掛けてくる。

 十五時四十分。僕は荷物をまとめる。法律的にどうなのか。組織の体質がどうなのか。内側の実情はわからない。具体的な活動内容はつまり、知り合いを辿って登録者を増やして行けってことか。チラシ配りとかSNSとか色々言っていたけど、そっち方面について聞けなかったな。いや、さっきメインは知り合いを勧誘する方で、SNSやWEBサイトはサブの活動とか言ってたな。まぁそこら辺の詳しい実態も結局わからなかったな。具体的な活動例とか話してくれると思ったんだけど、結局大まかな説明しかしてくれなかったな。

 まぁ良いや。もう良いや。僕の中で一つの確信と、この一時間と四十分、ずっと抱き続けたツッコミを入れようという決意と共に立ち上がる。


「今回のお話は残念ですが、お見送りとさせていただきます。ファミレスに来て、何も注文しないのは、塚と思います」


 それだけ言って僕は店の外に向かいました。入り口に手をかけた所で後ろから足音。


「ちょっと、じゃあ、あなたも注文しなさいよ。四時まで大丈夫だと聞いてたんだけど。○○さんの誘いなんだよ。ちょっと、待ちなさいよ」


 と聞こえる。おいおい「断られたからって唾を吐く必要無い」じゃなかったのかよ。

 さっさと車に乗り込み速攻で鍵をロック。追いかけてきたのは先輩さんだった。窓ガラスを二回叩き、車の前に立った。通せんぼする気だったようで、パーキングブレーキ入れたまんま、エンジンを吹かす。反射的に避けた瞬間発進。一気に駐車場を出て逃走した。

 鳴り響く電話。信号待ちの間にさっさとブロックリストにぽいーっとした。

 


 しかしながら、あの手の人達は「先見性」という言葉が大好きなのだろうか、あと「天才」の真似をすれば、……真似するだけで、自分たちもその「天才」と同じ結果が得られると、本気で思っているのだろうか。んなわけあるか。なめんな。と話を聞いていて思った。

 あと、芸能界にいたとか、ショップの店長で、色々な事業を見てきて、成功に導いてきたとか。逆に、○○でドライバーやってて、忙しい合間にこのビジネスをやって、半年で百万円稼げるようになって退職したとか。最高ランクにいる人は社長をやっていたことがあって、億単位のお金を動かしていたことがるとか。随分豪華なメンツがあるわりに、会社のホームページ、検索かけても全然出てこないし。通販サイトにちゃんと商品があると言っていたけど、いやいや、見つからんぞ。

 「登録料には最初は私も不安があった」とか「○○ランクまで全引き上げる」とか「ちゃんとマニュアル通りやれば半年で百万円」とか。あとは「○○さんの紹介だから」とか。「自分も最初は疑っていた」とか。その辺りが頻出ワード。

 「別にここで登録させようというつもりで話しているわけじゃない」と言った直後に「とりあえず実際にやってみませんか」と言われた時は、流石に言葉を扱う人間としてどうなんだろうかと思った。いや、勢いで誤魔化せるもんなのか、案外。後半は「とりあえず実際に飛び込んでみよう」「とりあえずやっていよう」が頻出ワード。

 ただまぁ、恐ろしいことに、途中何回か、登録してみても良いんじゃないかと頭の中に囁く声が生まれたのは否めない。不安を煽った後に、成功を期待させる要素を欠かさずぶち込んでくる。基本的なテクニックながら、効果的だ。別の全く関係の無いこと考えて打ち消していたが。

 この人達が「こちらの時間をちゃんと尊重して」「ファミレスでもちゃんと注文して、何なら奢ってくれて」「僕が、真剣に検討するために話を聞いていたら」登録してしまっていたと思う。







 コ●スのハンバーグ食べてみたかったな。ガ●トさんには何も頼まなくてごめんなさい。今度デミグラスソースのオムライス食べに行きます(結構好き)。あと、葡萄のデザートおいしそうだったのでそれも食べたいです。





一応、誘ってきた友人と、険悪には……なって無いと思う。今後会うことはあるのだろうか。いや、僕はきっとこれから、あの子の誘いは疑ってかかってしまうのだろう。裏を覗こうとするのだろう。

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