始まりは
「恋人ごっこをしよう」
私は溢れる涙を拭いながら、彼に伝えた。部屋には暖かい夕日が差し込んでいる。
「いいよ」
彼は、目にかすかな涙を浮かべながら答えた。これから、2ヶ月間だけの、恋人ごっこが始まった。
彼と出会ったのは昨年12月24日。クリスマスイブだ。雪はいつもと違って積もっていないが、吹いてくる風はかなり冷たくて体にしみる。この冷たさと同時に、私の心もかなり冷え切っていた。
元彼は束縛やDVをするような人だった。それからというもの、私は男の人との接点もなく、男の人への信用も失っていた。
「もっといい男がいるから!だからとりあえず男の人と話すのに慣れるように頑張ろう?」
「周りには男がおらんし……アプリ入れてみるとかはどうかな!」
友達からのアドバイスを受け流すように、そうしようかなぁと曖昧に答える。私は看護学生で、周りにいる男子は恋愛対象ではない。しかも、今は最終学年で国試を2ヶ月後に控えている。こんな状況で遊んでいられるほど暇ではない。
……と思っていたのだが、クリスマス直前の23日。周りの友達は実家に帰省してしまい近くにおらず、私だけ帰省できない状況となった。
「クリスマス…初めてぼっちかぁ」
一人でこたつにもぐりながら呟く。こたつの中は暖かいが、やはり部屋の中は少し肌寒い。ぼっちだと考えると急に寂しさが込み上げてきてしまう。誰か話し相手はいないだろうか。数分間、SNSを眺めるが、誰と話せるのかわからない。みんな実家に帰って家族との時間を楽しんでいるはず。そんな中で話そうなんて言えたものじゃない。
……アプリを入れてみよう。
入れて話し始めてみれば、意外と楽しいものだった。いろんな価値観のある人と少しの間でも話すことができる。
その中の1人に、彼がいた。
「彼くんはクリスマスなにするの?」
『特に何も予定はないよ』
「じゃあお互いぼっちだね」
『寂しいもんだよね』
「一緒にケーキでも食べる?笑」
冗談にしては、会いたいと誘っているような言葉をうっかり送ってしまった。送信の取り消しはできない。これで、一緒に食べようとなったらどうしよう、やっぱり冗談だよというべきだ。初めて今日話した人と、明日、しかもクリスマスイブに会うなんてありえない。私は1人であたふたしながら、返事を待った。
『いいアイデアだね、一緒に食べよう』






