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暗い穴

「......リョウ、想像以上に強い」


 俺の肩に乗るシェリーが唐突にそう呟いた。

 俺は一先ず目の前の石槍で拘束している蜘蛛と人間の混合生物にとどめをさす。


「そうか?」


 時間操作と鉱物操作による確殺コンボは俺以外の誰にも見ることはできない。

 シェリーが見えるはずないよな?


「......瞬間移動スキルに、土法(どほう)、そしてそれを外さない眼。勇者としてこの世界に来て数日とは思えない」


 瞬間移動、か。そういう風に見えるんだな周りからは。

 んで鉱物操作は土法に見えるっと。

 つまり、操聖っていう天職はいくらでも誤魔化すことができるってことじゃないか?


 俺の中に、不信感が湧いた。


 何故あの鎧の男は俺を追い出すことにこだわったんだ?


「なあシェリー。魔族ってみんな紅い瞳なのか?」


「......ほとんどそう」


 俺は歩く速度を速めた。


「......何かあった?」

「シェリー、出口と出方を教えてくれ。早く帰る必要が出てきた」


 脳裏に浮かぶのは兜の隙間から見えた紅い双眸。チート級の力を持った俺をさっさと排除しようとした一人の男。


 あいつは、魔族だ。人族の領地に入って、勇者を一人一人殺していくつもりだ!


「......まあ、いいよ。そこを左、そして直進。そしたら行き止まりがあるけどそこは臆せず突っ込んで」


 小さな手が俺の視界にうっすらと入ったのを確認して、俺は駆け出した。


 左、真っ直ぐ、突っ込む......ってマジもんの壁じゃん!? これ突っ込んでいいの?

 死なない? 骨折したりもしない!?


 目の前の突き当りにある堅牢そうな壁を見て、俺はここであってるのか問いただしたくなるが、こっそり筋力操作で普段の三倍近い速度を出している俺には止まる判断ができなかった。

 ゴンッという鈍い音をたて、俺は壁と衝突する。


「いつっ! ってあ、あれー?」


 多少の痛みはあったものの、無事に壁は音をたてて崩壊していく。

 そうしてその先に、どこまで続いているのかわからない穴がぽっかりと開いていた。


「シェリー? ここで合ってるのか?」


 俺は目の前の暗闇を見てそう問いかけた。

 シェリーは小さくうなずき、早く降りてというように背中を押す。


「ま、マジかぁ」


 人の姿からかけ離れた異形の生物を見るのに耐性はついてきてたけどやっぱり純粋に死ぬかもしれないって恐怖は消えないか。


「ちなみにだけどこれどれくらい深いの?」

「......そこまで深くない。10秒あれば着くと思う」


 ふむ......10秒か。ん? てことは自由落下だとして、地球と重力加速度同じだとしたら......この穴の深さは500m位。500、m......。


「東京スカイツリーから飛び降りるようなもんじゃねえか!?」

「......リョウ、怖がってる暇なんてないでしょ。降りるよ」


 いつの間にか俺の目の前にはシェリーが立っていて、俺の服の袖を少し強く握っていた。


 こいつも、怖いんだ。口では何ともなさそうに言ってるけど、内心では――


 直後、俺の体はシェリーに引かれ、暗い穴の中に落ちていた。


「え? ......ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ――そんなことなかったああああ!


「......リョウ、叫んでないでスピード緩めて。このままじゃ私諸共ただの肉塊に一直線」

「お前そんな無策に飛び込んだの!? 俺がそんなスピード緩める術を持ってる訳ないだろ!?」


 キョトンと一瞬目を見開き、え? と言いそうな位に間抜けな顔をシェリーは見せた。

 その下には碧く輝く床が見えている。


「......ないの?」

「なんであると思ったんだよ......」


 でも、本当にどうする。あと2,3秒で地面と衝突だ。


 そう思った瞬間、俺の体感時間が一気に長くなる。

 落ちているときに感じていた風圧も、穴の中に反響する声も、小さくなった。


「......土法が使えるなら大丈夫だと思ってた」


 スローで流しているかのようにシェリーの声が間延びして聞こえる。


 土法? 鉱物操作じゃどちらにせよなんもできない。せいぜい高さを変える程度。それを使うなら判断が遅すぎた。俺の時間操作は俺の動きを止められない。どうすれば......。


「あと一秒もないのに、なんで俺の頭は一つの解決策すら浮かばない!」


 がむしゃらに腕を壁に突き刺すか? 筋力操作で頑丈にすれば壁には突き刺さるはずだ。


 俺は筋力操作で左手を鋼鉄よりもさらに硬くしていく。


 いや、待て。操作? 力に向きを与える術......力、重力......。


「......リョウ、私の失敗。巻き添えにしてごめんなさい」


 申し訳なさそうに瞳を伏せ、シェリーが頭を下げた。

 もう地面はシェリーの頭のすぐ後ろにまできていた。


「ここで謝るより、生きてここを出た後にお疲れ様って言ってくれ」


 俺はシェリーを胸に抱き、地面スレスレの場所まで一気に落下する。


「諦めなければ、奇跡は起こるし、命を守ることもできるんだからな。『ベクトル操作』!」


 俺をこの場に固定しろ!

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