襲撃
「あの、黒いのがゴブリン?」
小屋の外には俺の知るゴブリンの姿とかけ離れたゴブリンの姿があった。身長はゆうに150cmを
超え、スラッとしつつもどこか筋肉質な体。
武器も多種多様に持ち、中には俺の知らない武器さえもある。
「え、ゴブリンって緑色の体色で小柄な体躯、醜悪な顔のモンスターじゃないの?」
「......? あ、それはたぶん、魔族のなりそこない。彼らは弱いけど、人族への嫌悪感は人一倍あるから面倒くさい」
俺は今まで知らなかった常識に頭を痛める。それと同時に、ふつふつと疑問が湧き始める。
「今の話だと、魔族は人族を嫌ってるみたいな解釈になるんだけど......」
「......うん。魔族と人族は互いを嫌い合ってる。人族は魔族の優秀さに嫉妬し、魔族は人族の傲慢な態度に憤慨してる」
ん? 嫌ってる?
俺はシェリーの頭を撫でた。抵抗もなく触れられる白く柔らかい髪、猫をほうふつとさせるような態度でシェリーは目を閉じている。
これは、嫌ってるのか?
「そういや、シェリーはなんで魔族の国の方に行かなかったんだ?」
俺がそう言った瞬間、シェリーの目が見開かれ、ジト目でこちらを見つめてきた。
「......魔族は、人族の匂いが少しでもあれば牢に入れ、尋問する。その後、剣闘士にして見世物にするのか、そのまま処刑なのか、釈放なのか、それはわからない」
ここまで言ったらわかるでしょ、という視線をシェリーは送ってくる。
人族の匂いがすこしでもあったら......。俺と一緒にいたから帰れないってことか?
「俺の所為?」
「......うん。リョウがことあるごとに私の頭を撫でてきたから」
俺は今までの俺のシェリーへの行動を振り返る。
手をつないだり、おんぶにだっこに、頭なでなで。
なるほど、確かに俺のせいかもしれない。
「......リョウの御陰で私は故郷に帰れなくなった」
シェリーは俺の胸倉をつかみ、顔を寄せてくる。
かすかにうるんだ瞳、上気した頬、それでも全体的に見れば無表情。普段とのギャップに俺の心は動揺する。
「......責任、とってね」
耳元でささやき、シェリーはすぐさま窓の下に隠れ、外の様子を再度うかがい始めた。
何緊張してんだ俺! 相手は子供! 犯罪だぞ!
頬を二・三度叩き、俺はシェリーの横に屈みこむ。
外を見れば、ゴブリンに大きな動きはなく、何度も何度も、一階の窓に石を当てていた。
「あいつら、何やってるんだ?」
「......わからない。窓を壊そうとしてるようにも見えるけど投げてる石は全部小さい」
しばらくゴブリンが石を投げ続ける光景を見ていたが、やがてゴブリンたちに動きが出てくる。あるものは叫び、あるものは武器を手に取り、あるものは地を叩いた。
黒い体色に包まれた黄色の瞳が光り、ゴブリン全員が小屋に向けて突撃してくる。
「......リョウ、階段にバリケードつくって」
「了解」
俺は近くにあったタンスを階段の上に倒す。ほこりがブワッと舞い上がるが、それを無視して本棚、テーブル、あるものすべて乗せていく。
「シェリー、つくったぞ」
「......リョウはそこでゴブリンが来ないように踏ん張って『フレアウォール』」
外が一際明るく照らされ、炎の壁が小屋を囲うように出現する。
「......ゴブリンは仲間を呼ぶ。多少なりあの炎で分断できればいいけど」
「シェリー、階段で迎え撃とう。狭くて武器を振るうスペースもないし得意の集団戦もできないはずだ」
直後、階段の上に築いたバリケードが跳ねあがる。俺は上から全体重をかけてどかそうとする力に抵抗する。
その間にシェリーは風法を展開し、風の刃をいつでも放てるように待機していた。
「同胞よ、そこにいるのか! 我々だ! 狩りから戻ったぞ!」
バリケードの下から声が聞こえた。あまりにも流暢な言葉に俺は目を見開いた。
その流暢な言葉に俺の思考が驚き、全体にかけている力がほんの一瞬、わずかに緩む。
「......リョウ、緩めちゃダメ!」
刹那、バリケードの一部が隆起し、轟音を奏でて破裂する。
俺はその衝撃に吹き飛ばされ、壁に背中を打ち付ける。
「かかったな、賊ども!」
開いた階段口からぞろぞろとゴブリンが侵入し、俺とシェリーに各々の武器を向けた。
うそ、だろ......? 動揺を誘ったのか?
「我々ゴブリンをただの魔物だと思ったのが運の尽きだったな」
黒いゴブリンが刀を持って隙も見せないまま語る。
シェリーの風法はさっきの爆発で解けたのか今のシェリーは両手を前に突き出し、距離を置こうとしていた。
俺の目の前でレイピアのように細い武器を持つゴブリンは騎士のように剣を胸の前でたてている。
「同胞の恨み、ここで晴らさせてもらう」
暗がりの中、剣閃が閃き始めた。
ゴブリンって、強いんですよ?(この世界では)




