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あっという間の追放劇

「MPってのはスキルや術法を使うときに使用するものだ。

 その下に続いているであろう○○術とか○○技なんてのはスキル。○○法、なんてのは術法の類だな

 一番下に称号と天職ってのがあると思うがそれは大雑把にこの系統のものに適性があるぞってものだ」


 MP300だの操術だのなんだのと書いてある。これか、と思いながら俺はまた視線を上げる。


「ちなみに俺は聖騎士、という天職を授かっている。後でお前らの天職も聞いて戦闘職、裏方職とでわけるからな、今のうちに確認しとけ」


 途端に周囲がざわついた。

 耳にガンガンと響く男子の叫び声に、女子の甲高い叫び声。

 あたりを見渡せば大山高校の制服を着た男女が二十人ほど。全員青い液晶パネルを目の前に、興奮していた。


「ここまでマジな演技、高校生全員ができるはずないよな」


 自然とため息が出てしまう。

 せめて俺がそういった世界に興味があった時に起きてほしかった一瞬思うが、それきりだ。それ以外は何も思わなかった。


「疑いようもなく、異世界転移、ってやつだよな。これ」


 ぼんやりと浮かぶ中二病だったころの記憶。

 その熱は既に冷め、今、このような状況に置かれていたとしても何も思わない。


「よし、一人ずつ天職を聞いていくから。答えてくれ」


 鎧の大男がこの場を仕切ってるのか。

 見た感じ、というかさっきも言ってたな天職は聖騎士だって。


 要するにこの世界の人間だってことだろ? どういう意図があって呼び出したんだ?

 定番で行くと魔王出現、とかかな?


「リョウ、お前の天職は?」


 そんなことを考えていると目の前に鎧の大男が立っていた。


 身長は2m近くか? 相当な筋肉がありそうだな。


 そんなことを思いながら観察していると、俺の視界から液晶画面が消えた。


「あれ?」

「ふむ......?操聖とな」


 鎧の大男を見上げれば俺の液晶画面、いやステータス画面といった方がいいな。それが持ち上げられていた。

 鎧の男は眉を一瞬寄せるもすぐに別の人の所へ歩いていく。


 俺はその様子を横目に見ながら自分のステータス画面を見た。

 


 リョウ ミライ

 MP 300/300


 スキル 操術? 想像1


 天職 操聖  


 ММОみたいにパワー、スピードとかステータスとかを割り振るとかっていうシステムはないのか。

 ゲームなんかよりもよっぽど現実味があるな。

 てかなんだ操術? って使えるのかすら怪しいのかよ。


「よし、勇者諸君。いまから君たちを統率する真の勇者を紹介しよう。ユウキ、前に出てきてくれ」


 俺がステータスを見ている間に話が進んでいた。

 ユウキが勇者らしい。俺にとってはだからなんだ、という程度のものだがな。


 まあ、剣道部のエースで成績優秀、交友関係も広いとかいう福沢諭吉さんの言葉をガン無視している人間だ。適正なんじゃないか?


「人間たちは、この世界では弱いみたいだ。魔族に侵攻され、獣人族に獲物や狩猟場を奪われ、それでも何もできない。僕らはそんな彼らをこの世界で対等に生きていけるように戦うんだ。

 いや、人間の敵をいなくなるようにするんだ。そうすればこの世界の人達もみんな安心して暮らせるはずだ」


 凄いな。この場でいきなり人間に敵対するものは皆殺し宣言とは。

 いや、勇者の役目は、そうなのかもな。どうせお決まりパターンで元の世界に変えるには目標を達成する必要が~とかあるんだろうし、こいつらと協力して可能な限り早くに元の世界に帰ろう。


「さて、明日から勇者である君たちには魔王軍、魔族、獣人族、などといった亜人族などと戦うための技術を養ってもらう」


「当面の間はこの王城で暮らし、座学、体術等々を学んでもらうが、時が来れば冒険者として一度度に出てもらう。その目でこの世界の現状を知ってもらうためにな」


 ん?今魔王という単語が聞こえた気がするが......。


「――よし、今日はみんな部屋に戻って大丈夫だ。明日の訓練に備えて寝てくれ」


 ザザッと約20人の男女が立ち上がり、周囲に控えていた騎士に連れられ部屋へと送られていく。

 俺もその波に乗ろうと立ち上がろうとしたとき、右肩に手をのせられた。大した力も入っていないであろうその手に、俺は簡単に動きを封じられてしまう。


 手の主を見れば、さっきの鎧の男。笑顔でほかのやつらを見送ってはいるものの、俺にはその笑顔が作り物の笑顔にしか見えない。

 背筋に冷たい汗が流れるのを感じながら、俺は声を上げた。


「俺も、部屋に戻りたいんですけど......」


 愛想笑いをしながら放った言葉の返答は、右肩関節の脱臼だった。神経を傷つけないようにきれいに外された右肩。俺は何をするつもりなのかが一切見当もつかなくなる。


「何を......!」

「君の天職は操聖だったな」


 唐突な質問に疑問符が何個も脳内に浮かび上がるが、俺はとりあえず頷いた。

 何も返答しないと脱臼で済まされない何かをされるような気配がしたからだ。


「すまないな。操聖はこの国では採用できないんだ」


 申し訳なさそうに? いや、嬉々として、この鎧の男は俺にそう告げた。


 こいつ、人間か?


「過去に、操聖の天職を受け取った勇者が問題を起こしてな」


 左肩の関節も外される。両腕が操作不能に陥り、俺には足と頭しか使えなくなった。

 逃げる。真っ先にその考えが浮かぶが、俺の脳がそれは不可能だと無意識化で判断する。


「そんなの、お前の戯言かもしれない。王様に確認してくれ」


 もはや出会った記憶のない王様に俺はすがる。

 異世界系ではもはや定番となった追放。それが自分に降りかかるような気がしてならなかった。

 

「残念だったな。アルフレッド王は勇者たちのことは私にすべて任せると言われている。つまり、私の決定がすべてとなる」


 勝ち誇ったような表情を鎧の兜の隙間から見せる男に対し、俺は無力だった。

 戦わなくてもわかる圧倒的な力量の差。対抗できる策もなく、俺を助けてくれる味方もいない。


 間違いないな。俺は追い出される。なら――


「わかった。俺はこの国を出よう」


 ――俺が自分から国を出る。下手に抗って高難易度の迷宮みたいなところに送り込まれるのは御免だ。


 これが俺が被害を被らず、可能な限りあちらの提出する条件に沿ったこの状況下で出せる最善。


「わかってくれればいいんだ」


 そう言って男は自身の背後に禍々しく光るゲートのような輪を生み出した。


 聖騎士と呼ばれる天職を得た者の使えるような技じゃないだろ、それ。

 まあ、珍しい物が最後に見れたってことでいいか。


「じゃあな」


 俺は、決して相手の言いなりになって出ていくんじゃない。自分から進んで出ていくんだ。


 俺は男に挨拶用の手を上げ、悠々と夜の街へと足を踏みだす――ことはできなかった。

 男が俺の首根っこを掴み、まるで猫を持ち上げるように俺の両足を地面から離したからだ。


「勘違いしてもらっては困る。今の君は仮にも勇者。おいそれと外に出すわけにはいかないんだ」

「は!? じゃあどうするんだよ。牢屋にでも入れるのか?」


 出て行けって言ったり外出はできないって言ったり、なんだこいつは?

 頭の中に人格二つもってんのか?


 そんなことを心の中で思いながら鎧の奥に見える瞳を俺は覗いた。紅い瞳に黒い模様。いつかの中二病のときを思い出し、俺はそっと目を背ける。

 直後、俺の体はふわりと宙を舞い、大理石でできていそうな硬く白い床に背中から落ちた。


「ゴホッ、ゴホッ、い、いきなり何すんだ」


 こいつ。絶対におかしい。倫理的にどうとか、それ以前に人としてどうかしてる。


「『ダークホール』」


 見上げた視線の先で、男は右手を前に突き出していた。

 背後に不穏な気配を感じ、振り返る。

 さきほど生成されていた闇を閉じ込めたような輪が静かに反時計回りを開始していた。

 その速度は徐々に徐々に速まり、次第に引力を発生させ始める。


 なんだ、これ。小型のブラックホールみたいなのか?


「操聖と呼ばれる人間は、成長の仕方によって如何様にも変わる。それこそ、成長の仕方を操作でもしているかのようにな。だからこそ、牢獄に閉じ込めるなんてことはしないし、どこかの国に預けるなんてこともしない」


 カツカツと男は靴音を鳴らしながら近づいてくる。


 成長の仕方を、操作する? それは人間なら当たり前のことだろう。......いや、ここでの成長ってのは人間的成長じゃなく、スキルなどの面での成長、か?


「だから、操聖となった勇者は確実な死刑、もしくは神代の寝殿と呼ばれる異界に送り込むことになっている」


 肩の関節を外された両腕が後ろに引かれた。背後にある疑似ブラックホールの引力が強まったらしい。


 死か、追放だと? しかも神代の寝殿とか高難易度ですって雰囲気がプンプンする。


「俺は、お前たちの都合のいい道具じゃないぞ」


 あの男が言った通り、俺は神代の寝殿だかに飛ばされるんだろう。だが、身勝手に呼び出し、不要だからと切り捨てる、なんてことは許されていいのか? いや、許されていいはずないだろ。


「俺は人間で、お前らがいう勇者で、こんなことには無関係な人間だった。人の人生を狂わせ、終いには人生の最後までつくる。そんなのおかしいだろ。

 もう一度言うぞ。俺はお前らの都合のいい道具じゃない。お前がしていることは非人道的な行為だとわかっているのか?」


 次第に後ろに引かれていく体を地面との摩擦で強引に止め、俺は鎧の奥に光る男の瞳を見る。


 気持ちの一切が揺れないなら、人としてどうかしているのか。それ以上に国民などを危険にさらしたくないという思いが強いかのどっちかだろう。


 じっくりと見つめた男の瞳は、驚くほど冷たく俺を見下ろしていた。

 何の同情もない凍てついた眼差し。


「非人道的、か。......言いたいことはあるが、消えゆく命に何を言っても無駄だろう。

 もし、お前が俺と再び出会うことがあったのなら思い出話として話でもしようじゃないか」


 貼り付けたような笑みを鎧の中で浮かべ、男は双眸を紅く光らせる。


「次に俺と会った時、その日がお前の最後の日だと思っとけ」


 俺は突き刺すような視線を向け、生きてここに戻ってくる決意を込めた死刑宣告を言い渡す。

 その俺の言葉に大した反応も見せず、男は右手の指を動かした。


「『ウィンド』」


 その動作に合わせて突風が吹き荒れ、俺の体をダークホールの中へと押し遣る。

 突然の浮遊感と空間を飛び越える超常の力に俺の体はもまれ、次第に意識を手放していった。


 生きてやる。

 人生滅茶苦茶にされて黙っていられる程、俺は人間が出来てないからな。

 次に会った時、覚えてやがれ。


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