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白い腕と黒い視界

「......調停?」

「そう難しくとらえないでください。僕はいわゆる神様、というやつです」


 俺はいつの間にかジルの肩をつかんでいた。


「目的は?」


 神と出会える奇跡なんてもうないかもしれない。でも、俺はすぐにあの国へと帰らなければならない。何も知らない勇者20人の命を守るために。異世界の人間を殺されないように。


「おっと、元の世界にいた時とは性格が一変してるね。これは、手短に話を済ませた方がよさそうだ」


 ジルは俺の腕を易々と外し、俺の目の前に三本の指を突き出した。


「さてさてさて。本題に入る前に君の疑問に三つ答えてあげよう。あ、答えることは僕が選ぶよ。神以外が知ってはいけないこととかもあるからさー」


 ジルは俺の瞳をまじまじと見つめた。琥珀色の瞳の奥がきらりと光り、俺の注意を惹く。


「よし、一つ目。神代の寝殿について。二つ目、君の仲間の現状について。そして三つ目、君の天職、『操聖』について」


 心臓の動悸が早まる。

 その俺の目の前で、ジルは指を一本たてた。


「まず、神代の寝殿。これは太古、神代と呼ばれた時代までさかのぼる。その時代、人族は栄華を極め、生態系の頂点に君臨していた。その時代では高度過ぎる技術を持つものが数多存在し、一万年以上経った今でさえその技術を再現するのは不可能だった。だが、栄枯盛衰という言葉があるように、その栄光も失墜し、神代の時代は急激に終わりを迎えた。

 神代の寝殿というのは神代の時代に生きた人族の、一種の遊戯だったんだ。

 持つもの、持たざる者が存在する社会で、あぶれたものの、暇つぶし。良君にわかりやすく言うならゲームだよ。彼らは自身の強さを誇示するために、難易度を創り、それを何分でクリアできるかを競い始めた。この寝殿は、壊れたおもちゃのなれの果てだよ」


 ゲーム、だと? これが、暇つぶしのために作られたおもちゃだと?

 いや、その話がもし本当なら、古代の人族は日本語を使ってたことになる。


「その太古の人族は――」

「あ、君からの質問は答えることができないんだ」


 なんだその勝手すぎるルール!?

 

「はい次、君以外の勇者について。彼らはまだアルフレッド王国にいる。良君が危惧している事態もまだ起こっていない」


  あくまで、『まだ』か。だがまだ危害が加えられてないなら――

「――とりあえず安心かな」


 ジルは俺の言葉に意外そうな顔をした。だが、彼はすぐにその表情を消し、自然体な笑顔をつくりだす。


「最後、君の天職について。『操聖』というのは本当に何でも操れる天職なんだ。君が時を止めたり、空腹感を強引に消したりしてたのと同じようにね」


 こいつ、どこまで俺のことを知ってるんだ。外に出していないはずの心のうちまでこいつは知っている。


「さて、ここからが僕がここに来た理由につながるところなんだけどね。良君、君は多くの国が存在する世界で、一つのある国が強大な力を持ったとき、世界はどうなると思う?」


 唐突な質問に俺は即座に返答ができなかった。いや、よく聞いていたとしても答えはすぐに出てこなかっただろう。


「各国の均衡が崩れ、世界の平和が瓦解し、血で血を洗う醜悪で無駄な戦争の時代が幕を開けるんだ。

 その国の傘下に入ろうとする国、対抗しようとする国。混乱に乗じて他国に攻め込む野蛮国。いろんな国の思惑がいっきに放出されるんだ」


 どういうことかわかるか? という視線をジルは投げてくる。


 第二次、世界大戦みたいなものか......? 


「その話、俺にとって必要な話か?」襲う。

「んー違うかな。でも、これ言わないと駄目な規則になってるからさ」


 ジルはかわいらしくウィンクし、大きく背伸びをした。


「良君、察しのいい君は既に気づいているかと思うけど」


 え、何をだ? 今の話に何か大事なワードが入っていたのか?


 ジルの目が細められ、圧が増す。


「今の話における強大な力というのは、君のことだ」


 ジルから放たれる圧が急激に変化し、体を突き刺すような威圧感が俺の体を襲う。


 世界の均衡を保つ『調停』。俺が均衡を崩す強大な力。

 マズい。


「シェリー、俺から離れろ!」


 全力で後方へ飛ぶ。ジルが拳を構えて飛び込んでくる。


 相手は神だ。勝とうなんて思うな。逃げ切れれば勝ちだ。


「頭は多少回るんですね。でも、良君が人族として存在しているということが、世界に及ぼす影響を君は理解できていない」


 腰だめに構えられている拳が放たれ、俺の胸一直線に飛んでくる。

 風の流れを操作し、体の動きを不規則に変え、その一撃を躱す。


「『空間圧縮』」


 ジルの周囲の空気を圧縮、爆散させ、遠くへと吹き飛ばす。

 俺はその衝撃でシェリーのもとへと無事帰還する。


「......逃げる?」

「ああ」


 俺はシェリーを肩に担ぎ、転移したあの場所を思い浮かべる。


「『空間そう』――ざ、がはっ」


 血の、味がする。鉄の臭いがする。


「......――ョウ」


 心なしか、耳も、遠い気がする。


「――やす――――君」


 視界が、霞む......。


 ぼやけた視界の中、俺は俺の胸から突き出す白い腕を視認した。

 刹那、急速に血の気が失せ、すべてが、黒に染まった。

次回、シェリー視点、もしくは三人称視点で書こうと思っています。

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