『調停』の官位を授かりし者
これから少しづつ更新頻度下がっていくと思います。ご了承ください。
『神代の寝殿クリア
クリアタイム......計測不可よってランキング変更なし
難易度 特上
討伐モンスター数 38体
討伐平均時間 計測不可
お疲れさまでした。怪我、MP等を修復、再生。後、神代の寝殿入り口に転送します』
く、りあ......? 入り口に、転送?
俺は天井に浮かび上がる日本語で書かれた文字をぼんやりと眺めた。
「......どういうこと? リョウ、あいつに何をしたの?」
シェリーが俺の体の上で首を傾げる。それほどまでに今、ここで生きていることが不思議だった。
「俺は、何もしてないよ」
「......あの最後の攻撃に何か付与してた?」
「いや、あれは本当に気力を振り絞った辛うじて放てた一発だ。それに、付与なんて俺はできないよ」
納得のいかない表情をシェリーは見せるが、そんな顔をしたいのはむしろ俺のほうだった。
最後のあれは、内部から崩れていったように見えた。外部からの攻撃じゃなくて、自滅。
溶けた肉片や血がそこら中に散乱しているのがいい証拠だ。
「......まあいい。リョウ、出口」
「あーなんか、入り口に転送してくれるみたいだぞ」
シェリーが俺を背負い、新しく出現した出口へと連れて行こうとするのを俺は止めた。シェリーは俺の顔を訝し気に見つめた。
シェリーは確かここに何度も来てるって話だった。クリアしないと出られないここに何度も来るってことは何回も選定者と戦ったはずだ。それなのに、出口から出る方法しか知らない?
俺はもう一度上を見上げた。やはり日本語で入口へ転送すると書かれている。
「ほら、上見てみろ。書いてるから」
「......? リョウは、あの文字が読める?」
俺の指さす方向を見て、シェリーは再三首を傾げた。
読めない、のか? いや、話し言葉として日本語が通じてる。なら書かれる文字も一緒だろ。
「逆にシェリーは読めないのか?」
俺の問いかけにシェリーは大きな瞳をかっと見開き、上空の文字を指さす。
「.....古代語。魔王の娘である私ですらほんのちょびっとしか読めない」
え、あれが古代語? どう見たって日本語だろ。
「いやいや、あれは日本語だって。俺のもといた世界で使われてた文字の一つ」
「......読んで」
「え? まあいいけど」
俺は上空に書かれている日本語を音読した。読み終えた直後のシェリーの顔は真剣そのもので気安く話しかけれる雰囲気ではなかった。
「......なるほど、さっきから体が楽なのはそういうこと」
「ああ。俺の体の傷も治ってるし、そうだと思うぞ。そして、書かれてることが正しいなら――」
足元に碧い幾何学的模様が浮かび上がり、部屋全体を照らしだした。
浮遊感が体を包み、意識がふわふわとし始める。
「......古代魔術の、転移」
直後、視界に映っていたものが消え、すべてが暗闇に包まれる。
「やあ、神代の寝殿をクリアしたんだね。未来 良君」
俺の、本名......? 誰だ? 勇者の、誰かか?
俺は聞いたことのない声に目を開いた。視界が開け、緑豊かな自然の光景が視界に入る。
その中で、淡い燐光をまとった端正で中性的な顔をした人物が俺の目に印象的に映った。
「初めまして。勇者、未来良ならびに魔王の実娘シェリー・ブロスサム・ゴルデヒア。
僕は、世界の均衡を保つ者、『調停』の官を与えられている、ジルと言います」
ジルは、そう言って柔らかく微笑んだ。