絶望を呼ぶ者
今回は短めです。
「シェリー......」
「......リョウ、疲れた」
俺は、目をとろんとさせてもたれかかってくるシェリーを受け止め、頭をなでる。
「ああ、お疲れ様。助かったよ」
気持ちよさそうに微笑み、シェリーはにやけ顔で目を瞑った。
こうしてみると、本当にただの小さな子供なんだよな。こいつ。
「ここを出たらお別れか」
そうだよな。俺とシェリーは魔族と人族。
本来なら敵対している種族なんだ。こうしていられるほうがおかしいんだ。
......おかしい、んだ......。
俺は胸の奥に疑問がわいてくるのを感じた。
どうして敵対するのだろう。何故、相容れようとしないのだろう。
「いや、そもそもの話。なんで同じ人の形をしているのに種族で分けたんだ?」
そうだ、おかしいだろ。角があって瞳の色が少し違うだけなんだ。
なのに、なんで......。
「ニン、ゲン」
声が、聞こえた。俺はすかさず上を見上げる。シェリーが魔法を打ち込み、一つの生命を滅ぼしたはずの場所。さっきまでかかっていた土煙はとうに晴れ、どろどろに溶解した棘の輪の群衆が姿を現していた。
「――ッ!シェリー、起きろ!」
俺はシェリーを胸に抱え、その場を大きく飛び退く。
それと同時に天井から腐敗した岩石が落ち始め、音をたてて天井が崩壊を始める。
さっきの衝撃で天井の要石が壊れたのか?
「......ん、あ、天井崩れてる。」
「マイペースか! 脱出するぞ、出口はどこにあるんだ?」
ぼんやりと天井を眺めた後、シェリーは周囲へと視線を巡らせるが、一向に出口の場所を教えてくれる気配はない。それどころか、その姿は焦っているようにも見えた。
「......ない。出口が、ない?」
「そんな! そんなバカな!」
「......待って、どうして?」
シェリーはひっきりなしに視線をあちこちへと向けるが、見つけたという声は一切発さない。
「......いつもなら、選定者を倒したら出口が開くのに......」
倒したら出口が開く? それで、今出口が開いてない。それって、まさか......だよな。
「シェリー、お前の勘違いってことはないか? 本当は別に条件があるとか」
「......ない。フェンリスはそう言ってた」
俺は拳を握り、シェリーをかばうように立つ。
上から降ってくる落石を右に左に避け、天井の一点、グレン・アーカイブを倒したはずの場所を見つめる。
天井崩壊によって舞い上がる土埃。隠れる視界の中、俺はグレンの亀裂が全身に奔った体を捉えた。
「でも、選定者は殺してる! 出口が出てないのはやっぱり別の原因が――」
「おやおや、私を殺した、と?」
シェリーに声かけるために振り返った俺の背中に、ついさっきまで聞いていた敵の声が聞こえた。
一人称が俺ではなくなっているが、声はそのまんまグレン・アーカイブの物。
俺は粟立つ体に鞭を打ちその姿を視界に収める。
「生きてた、のか......」
俺の視線の先、一回り小さくなった白色の魔族が不気味に笑っていた。
世界最強は一筋縄では倒れてくれません。