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聞こえない断末魔

 これが、毒の中か。


 俺の視界は泡が浮かんでは消えていく紫の海の中を映していた。

 俺の体はシェリーの張った風の結界に防護され、液状になっている毒を弾いている。


 第一関門、クリアだな。


 俺はその毒沼の奥へとゆっくり沈んでいく。


「お? 壁が透けなくなったってことは、坊主は死んだか?」


 来た! 俺が死んだかどうかは半信半疑。この毒の壁を解除するのか、近寄るのか、方法はわからないがおそらくあいつは俺の死を確認しに来る。


 その声が聞こえた直後、俺の体は地面と衝突した。

 焼けるような痛みを感じない、今まで歩いてきた普通の地面。

 俺は毒の箱の外へと脱出した。


「よし、こっからはスピード勝負。あいつにばれないようにあいつが見える位置に移動する」


 手順を小声でつぶやきながら、俺は毒の壁で作られた箱の下でグレンの姿を視認する。


「まあ、死んでいなかったとしても虫の息だろう」


 グレンはゆっくりと降下を始めた。

 俺は制服の胸ポケットから液晶パネルを取り出し、現在のMPが50以上残っていることを確認する。


 いける。この攻撃に全部突っ込めばいけるはずだ。


 その間にも、グレンは降下を続けている。無防備に、リラックスした状態で、降りてくる。


「忘れてもらっちゃ、困るぜ。俺の罠は、まだそこに残ってるんだよ『磁力操作』!」


 俺は毒箱の下から飛び出し、天井や、壁のあちこちに生えている鉱物で生成された棘に磁場を発生させる。グレンの周囲すべてが強力な磁石となり、血液に含まれる鉄分を引っ張り、彼の巨体をその場に固定する――だけにとどまらず、天井に生える棘の密集地帯に張り付けた。


 第二関門突破!


「坊主、貴様!」


「『鉱物操作!』」


 巨大な杭をグレンの張り付けられている天井の中に生成。

 それをぶっさす!


 俺は巨杭に回転と運動方向を与え、思いっきり磁力を強める。


「貴様、俺のヴェノムワールドに閉じ込め、その体が溶けるところを俺は見たはずだ! なぜ生きている!」


 紅い瞳を汚く濁らせ、グレンは叫ぶ。

 その背後の棘はすでに破棄され、まっ平らな天井に変わっている。


「お前の目が、悪かっただけだろうが!」


 そう言った瞬間、グレンの体に巨杭が到達し、キイィィという甲高い音が鳴り響く。


 刺さらない!?


「ぐ、ガアアアアア!」


 俺がなけなしの魔力を使い、生成、射出した渾身の一撃はグレンの巨体を貫通せず、騒がしくせめぎ合った。グレンの顔は真っ赤に染まり、貫こうとする俺の攻撃を必死に食い止めている。


「......リョウ」

「シェリー! 出られたのか?」


 小さくうなずき、シェリーは指を向けた。その先には、原形を保っていない毒々しい壁があった。


「そうか。今ほかにそそぐ力がないほどにあいつは今あの杭と戦ってるのか」


 追撃、今攻撃すれば倒せる。倒せるのに......今の俺にはMPが、ない......。


「......リョウ、今なら倒せる。攻撃」

「できない。今の俺は、あの杭が、俺の最後の攻撃があいつを貫くことを待つしかできない」


 わかってる。わかってるんだ。でも、こればっかりは......。


「『ダークフレア』」


 杭に貫通されないように踏ん張るグレンの顔面へ黒い炎が飛んだ。

 その炎は一瞬のうちにグレンの姿を包み込む。


「シェリー、?」


 隣に立つシェリーの手のひらから硝煙が立ち上っている。シェリーが攻撃したのは疑いようのない真実だった。


「......リョウ、最初にあった時の私の言葉がダメだったのかもしれない」


 独り言のようにシェリーは呟き、俺を見た。

 常に見る無表情の面。

 だが、彼女の瞳の奥に、何かの意志を感じる。


「......最初、リョウは護衛、私は案内って言った。でも、思った。

 共通の敵がいるなら、それを倒すために手を組んだなら、それはもう仲間と同じ」


「......私は仲間と協力して敵を討つ。今更かもしれないけど」


 俺はシェリーの頭を撫でた。


 なるほどな。


「よし、じゃあ仲間になったということで、敵をしっかり倒そうか、シェリー」

「......うん」


 闇の炎に包まれたグレンだったが、その体には一切傷がついていなかった。

 しかし、よく見れば口元には血を吐いた後がうっすらと残っている。


「シェリー、さっきの攻撃は一見効いてないようにみえるが、そんなことない。あと何発か撃てば殺せるぞ!」

「......わかった『ダークネスウィンド』」


 シェリーの手元から何十という数の風の刃が射出される。

 そして、その刃全てが同時に虚空に溶けた。


「は!?」


 思わず間抜けな声が出てしまう。

 

「結界か!? あいつまだそんな余力を......」

「......違う。あれは風魔法の特性」


 特性? いや待て風魔法?


 一気に湧き出てきた疑問を問いかけようと俺はシェリーの肩を叩く。

 だが、質問の声は、上空から降ってきた叫びにかき消された。


「なんて、咆哮だ。耳がキーンってなったぞ」


 上を見れば、体をズタボロに引き裂かれたグレンがいまだなお杭とせめぎ合っていた。


 特性。見えなくなるっていう特性があるのか。


「......リョウ、MPはまだある?」

「もうすっからかんだ」


 シェリーは軽く下を向き、両掌に風の刃を何十枚と再度展開した。


「......じゃあ、少し休んでて。私がその間持ちこたえる」


 言うや否やシェリーは両手を振りぬいた。数十の刃が飛翔。標的に向かって一直線に突き進む。

 着弾とともに土埃が舞い、鮮血が散る。

 だが、シェリーの攻撃の手はやまない。


「シェリー!?」


 俺の隣で灼熱の炎が生み出され、グレンへと向かって飛んでいく。


 え、シェリーってこんなに強いのか!?


「......リョウ、MPどう?」


 そうだ。シェリーが戦っているのは俺のMPが切れてるからだ。

 早く回復して俺が攻撃に回らなきゃ。


 俺はステータスプレートを見る。

 そこには0/300から動かないおれのMPが表示されていた。


「ダメだ、全然回復してない」


 なんでだ!? 上の階にいた時は相当な速度で回復していたのに、なんで今全然回復しない!?


「......そう」


 シェリーは魔法の連射速度を上げた。俺の回復を待つように開けていた一発一発の法撃の間隔が消え、マシンガンのように火が、風の刃が、乱れ飛ぶ。


「......リョウは休んでて、私がとどめを刺す。」


 無数の傷がグレンの体に刻まれていく。


「ぐ、がぁ、俺はぁ! グレン・アーカイブだぞ! こんな人間と魔族のコンビに!」


 な!? 喋った!? 叫ぶことしかできなかったあいつが会話できるようになったってことは......。

 磁力が弱まったのか!?

「シェリー、拘束が外れるかもしれない」

「......わかった。でも、その前に押し切る」


 言うなり、シェリーは法撃の連射をやめ、口元を締めた。


「......これで終わり。『クロスロット』」


 部屋の中央に巨大な黒い球が出現した。

 中には数えるのも億劫になるほどの刀身が一方向を向いて静止している。


「な、ま、魔法ぉ、の、四天の、一つだとぉぉぉおお!? 小娘、貴様、何者だあ!」

「......死んでいくあなたに名乗る必要性を感じない」


 言うや否や、シェリーは両手を真上に振り上げた。それに吊られるように黒球も天井――グレンの元へ加速する。


「俺は、俺はああああ!」


 ビキリ、とグレンの腹部に亀裂が奔る。


 俺の杭もまだ使える! そうだ、磁力が弱くなったとしても、あいつの体を貫通する向きに力は常にかかってるんだからな。


「死ね! グレン・アーカイブ!」

「最強の俺が、こんなことで!死ねるかああああああ!」


 グレンの体全てに亀裂ができ、出血が起きる。


「やれ!シェリー!」


 シェリーの手のひらが握られ、黒球が弾け飛ぶ。

 その中から射出される無数の刀身。


「――――――――――しゃ」


 ガガガガガガッという連続した貫通音が幾重にも重なり、響きあう。

 その中に、グレン・アーカイブの断末魔は聞こえない。

 天井全体が土埃で覆われた。

 その中から赤茶け、先端の欠けた巨杭が降っててくる。

 広間に静寂が舞い降りた。

補足(?) グレンさんは四天王の中でも最弱......とかいう落ちはないです。この世界では限りなく最強に近い存在だと思ってくれて大丈夫です。


序盤から敵が最強って......

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんかいろいろ仕込もうとしてるなぁって感じ
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