ドッキリ? いいえ、異世界転移です
「昼休みか」
俺はカバンから弁当箱を取り出し、机の上に広げた。
眠たい四時間目の数学を乗り越えたクラスの半数は即座に購買へと向かい、静かな時が教室に流れている。
午後は現文に古典。まあ内職してれば終わるな。
無心で箸を動かし、俺は十分程度で食事を終える。
「なあ良、次の授業なんだっけ?」
「現文」
「おっけ。ありがとー」
泰介がいつも通りの質問をして数人のグループの元へと戻っていく。
気づいている人もいるかもしれないが、俺には友達といえる人はいない。
いじめられているわけでも、嫌われているわけでもなく、常に本を読んでいるから話す友達ができないのだ。
「今日は秘密でも読むか」
俺は最近ははまっているミステリー作家の本を取り出し、読み始める。
あと十分で昼休み終了。それまでに100ページは読めるかな。
俺は周囲の騒音をシャットダウンし、完全に本の世界に没頭した。
「儂は――」
本当にただの事故か? うわ、仕事とはいえマスコミも大変だな。
「詳細は省くが――」
なんだ、どういう現象なんだ? 死者と生者が混在する?
「この世界には――」
こんな、結末......。ありなのかよ。どうしてみんな幸せになれなかったんだ......。
「あとは騎士団長の――」
俺は本を閉じた。心の奥が悲しみに締め付けられ、俺は上を見上げた。
「あれ?」
そこにあったのは、見慣れた穴あきの天井ではなく、ヴォールトと呼ばれる形のかまぼこみたいな天井だった。ふと意識を集中すれば濁っていない自然そのものの空気の味も微かに感じる。
「ここ、どこだ?」
周囲には目をキラキラさせたクラスメイト20人。そして、鎧のようなフルプレートアーマーを身に着けた集団が20人。中でも特別豪華な鎧を着たのが正面に立っている。
黒板があって、俺は席に座ってて、本を手に持っている。つまり、本に没頭している間に仕掛けられたドッキリ......だといいなあ。
「さて、俺はアルフレッド王国で騎士団長を務めているガイル・フォスターだ。気軽にガイルと呼んでくれ。今日から勇者の教育係としてお前たちを強化、教育していく」
いやあ、よくできたドッキリだな。いくらかかってるんだろうな―。あはは。
「さて、お前たちにはまず自分の天職およびステータスを確認してもらう」
言うなり、男が指パッチンをする。
ここまで来たら、もういいや。ドッキリでも現実でも、とりあえず全力でやろう。
......あれ、何をやるんだ? いや、まあとりあえず全力だ。
俺は目の前に浮かび上がってきた液晶パネルを取った。
「まさか、だよなぁ......」