火にガソリンを注ぐ
最初に異変に気がついたのは前線の兵士であった。
日本軍が急に弾幕を形成する様になり、甲高い金属音が聞こえて来るようになった。
見てみれば防御陣地を作る土嚢にできる穴も明らかに以前より大きくなっている。
戦闘時の被害も徐々にではあるが増大してきているのである。
そして敵の小銃を鹵獲してみれば、それは三八式歩兵銃ではなかった。
まさか三十年式歩兵銃や村田銃の様な旧式を使っている訳がないし、かと言って当時最新鋭の九九式短小銃でもなかった。
その正体はなんとびっくりM1ガーランドである。
M1ガーランドの他にもM1911も鹵獲されたりする。
さらに日本軍側にはBARからM1919・M2重機関銃もあった。
挙げ句の果てにはM2軽戦車・中戦車まで出てくる。
もちろん中華共同体はどういう事かとアメリカを問い詰めるが、知らぬ存ぜぬとのらりくらり躱す。
日本だって彼らがアメリカ製の兵器を使っていることを知らなかったし、大本営は補給した分しか戦えないと思っていた。
アラスカからソ連を経由して密かに現地の日本軍へ供給されていたのだが、日中ともに知るよしもなかったのである。
現地の日本軍とアメリカの間では武器を提供するかわりに、中華共同体の征服後に経済圏はアメリカの物になるという密約が交わされていた。
しかし、なんと大盤振る舞いなことだと日本軍は思ったのではないか。
その一方でアメリカからしてみれば、それらは大した武器ではなかった。
小火器は第一次世界大戦からその直後に作られたものばかりであり、一番新しい物は1936年に製造が開始されたM1ガーランドぐらいである。
戦車に関してもM3軽戦車・中戦車への更新で旧式と化すM2軽戦車・中戦車が与えられている。
ともあれ新しい武器を手に入れた日本軍は、やっと中華共同体軍と対等に戦えるようになった。
日中両政府とも講和したがっているのにアメリカが要らない事をしたせいで日中戦争は長引いてしまう。
そんなアメリカは日本に対して侵略戦争をしているという理由で様々な経済制裁をかける。
なんとも分かりやすいマッチポンプである。
中華共同体・イギリス・オランダなどは経済制裁には消極的であり、イギリスだけは満州国の経済圏が脅かされているので非難声明だけは出した。
というかヨーロッパは極東の様子を気にする事ができる状態とは言い難く、真に平和なのはアメリカぐらいであった。
次第に日本は否応なしにアメリカの手によって、世界大戦の舞台へと引き摺り出されていくのであった。




