一歩は一歩である
「なんで私がこんな所まで来なきゃいけないんだ。」
「局長は今忙しいですから仕方ないですよ。」
「まあカムチャッカの視察じゃなくて、内南洋の視察で良かったよ。」
保安局次長の今井臣信は保安隊の艦艇に乗り、日本が委任統治を行っている南洋諸島を訪れていた。
「しかし内南洋も様変わりしたんだな。」
「千野財閥が開発に携わってからは、急激に発展したみたいですよ。」
日本政府は国策企業を設立し、南洋諸島の開発を行うが行き詰まりを見せる。
そこで1930年から南洋諸島の開発に千野財閥が参加した。
「内地と変わらないどころか内地より発展しているんじゃないか。」
「なんでも内地では実用化していないものを試験的に取り入れているらしいですね。」
南洋諸島は新技術の試験の場となっており、街中ではモノレールが走っていたりする。
「問題は大日本兵器の第四開発室の研究所だな。」
「大日本兵器の中でも特に問題児が集まると聞きますからね。」
大日本兵器第四開発室は簡単に言えば、噴進弾の研究と開発を行っている部署である。
元々は、各開発室に散らばっていた噴進弾関係の技術者を一つの部署に纏めたのが始まりだ。
「しかし、本島からかなり離れた所にあるんだな。」
何故、第四開発室の研究所が離島にあるのだろうか。
理由は日本で試験を行った時に、噴進弾がコントロールを失って観測所に突っ込む、という重大インシデントが発生したからである。
島にはコンクリート作りの頑丈そうな建物が一つと鉄塔が一つあった。
建物には大日本兵器第四開発室第二研究所とかいう長ったらしく、読みにくい名称の看板をぶら下げていた。
ちなみに第一研究所は中国大陸の奥深くにある砂漠に存在している。
「ようこそ我が研究所へ!お待ちしていましたヨー。」
「貴方がフォン・ブラウン所長ですか。」
「そうデース!これから艦載用小型噴進弾の試験をやるので見てって下サイ。」
「なんか嫌な予感がするが、視察だからな仕方ない見ていくか。」
「1番発射!」
噴進弾は発射後すぐに水面に突っ込み水没してしまった。
「失敗ですカネ。」
「いや、水中を進んでいるぞ!」
「水中で着弾したみたいです。」
「2番発射!」
二発目の噴進弾は真っ直ぐ進んでいたが、途中で急に上を向いてしまった。
「逸れたか?」
「また下向きに変わりましたね。」
「上部構造物に着弾!」
「3番発射!」
三発目の噴進弾は垂直に打ち上がったかと、思えば水面まで真っ逆さまに落ちてきた。
「下向きに進んでいったな。」
「水深の深い所まで行ってしまいましたね。」
「回収どうしましょうカ。」
「4番発射!」
四発目の噴進弾は真っ直ぐ進み標的艦の土手っ腹に着弾した。
「これが本来想定されていた動きデース。」
「あの噴進弾、舷側にめり込んでないか?」
「凄い威力ですね。」
「今回は戻ってくる噴進弾がなくて良かったですネ。」
「ちょっと待て、そんな危険な試験に自分たちを参加させたのか?」
「大丈夫!科学の発展には犠牲がつきものデース。」
「大丈夫じゃないんだよ!」
「まあ今回の試験で新しい使い道が見えてきたので無問題ですヨ。」




