お望みなら幾らでも
【お望みなら幾らでも】
「アイツ絶対お前のこと好きだって!いけるいける!告って来いよ!」
こういうのは本当にやめて欲しい。
期待なんてこれっぽっちもなかったのにその一言で付き合えるんじゃないのか?なんて、馬鹿な考えが頭をいっぱいにしてしまう。
僕は小学三年生の頃、恋に落ちた。
初めはなんとも思ってなかった君に、
恋に落ちた。
君が僕を見てくれないのは分かってるし、釣り合わないのも分かってる。
でももし、この気持ちが繋がるとしたら?
もし、迷惑じゃないなら?
そんなことを妄想してしまうと心が苦しくなって、理想が羽を伸ばす。
そして目を開くと、理想との差が激しく、冷たい現実にナイフを刺される。
好き。 大好き。
心の中で思うのは簡単なのに、言葉にはでない。
ある朝君が僕に話しかけた。
おちゃらけた様子の君は僕を小馬鹿にしながらケラケラと笑う。
その姿が愛おしくて、
同時に抱きしめられない寂しさが沸沸と沸き上がる。
_______
金曜日の五時間目、英語の授業が社会に変わった。社会は嫌いだけど先生が面白いから嬉しかった。
僕の席の前の斜め前が彼の席。
遠いか近いか分からないくらいの距離だ。
黒板を見ると、自然と僕の目は彼の方へ向かってしまう。
でも彼は僕の視線なんてこれっぽっちも気づかないで、今日も隣の可愛いあの子と楽しそうに話してる。
「おいウィリアム!リリー!授業中にイチャイチャするなぁ」
先生が低い声でそう言うと、クラス全体がわっと盛り上がった。
「イチャイチャなんてしてませんよー!!先生!」
満面の笑みで彼が言う。嘘つけお前はその子のことが好きなんだろ?
心の中で悪態をつく僕を置き去りにしてクラスはより一層盛り上がった。
下校時間のチャイムがなると、みんな一斉に教室から出て行った。
僕もその波に乗ろうと立ち上がると彼がいった。
「ローガン、話があるんだけど、時間ある?」
いつもとは違った真面目な雰囲気の彼に圧倒されてしまい、声に出たのはたった二文字のうん。という素っ気無い返事だった。
教室に人がいなくなり、残ったのは僕と彼だけになった。
好きな人と二人っきりなのは嬉しいけど正直言って心臓が飛び出そうだからもう逃げ出したい。
それに話の内容も気になる。
きっと“何気ない遊びの誘い”だとか、
“今度の掃除当番を代わって欲しい”だとか、
そんな話だろうなと分かっているのに心のどこかで淡い恋心が邪魔をする。
もしかしたら彼も同じ気持ちで、
もしかしたらデートに誘われたりして、
もしかしたら、もしかしたら、
そんなことを考えていると彼が口を開いた。
「あの、さ、あの、明日、映画見にいかない?」
ぁあ、“何気ない遊びの誘い”だ。
僕はなんとも思ってないというような表情で返事をする。
「いいよ!」
ぁーあ、最悪だ。本当に……いっつも期待するのは僕だけで、それに答えてくれないと分かっているのにまだ、彼を好きでいてしまう。『好き』をやめられない。
「他に誰がいるの?」
僕は満面の笑みで彼に尋ねた。
きっと、「二人っきりだよ」なんて言われる訳がないのにまた、期待を含めた質問を彼に投げかける。
彼はニコッと笑って、
「リリーと、キャシーが一緒だよ!」
と言った。
あぁ、やっぱり二人っきりじゃない。まぁ、当たり前か…男二人っきりで何するんだよ。
リリー、リリーあの子か、彼の隣の席の可愛い子。リーダーシップもあって、男女問わず人気者。僕とは真反対だな。
「オッケーじゃあまた明日!」
「うん!また明日!」
________
『大好きだよ、ローガン』
『僕もだよ、ウィリアム』
僕が顔を近づけると彼も目を閉じる。
あぁ、やっとキスできるんだ、
____ピピピ ピピピ
「ぁぁああ!!もうちょっとだったのに!」
悪戯な夢は毎日僕を叫ばせる。
でも今日は良い。だって、今日はローガンと映画に行くんだ!!
リリーとキャシーにも協力してもらって、デートじゃないけど、今日!告白する!そう決めたんだ!リリーだって、キャシーに告白するって言ってたし!僕だって
待ち合わせは3:30だったけれど、待ちきれなくて五分前についてしまった。
そのあとにローガンが来た。
もこもこのジャンパーに身を包んで寒そうに 手を擦っている。ほんとに可愛いな…
遠くの方で僕に気づくと手を振って、
「ごめん、遅れた?」
と必然的にそうなってしまう上目遣いで言った。可愛いすぎるだろ。
思ったが言わないようにして質問に答えた。
「いや、僕が早く来すぎただけ、遅れてないよ」
そういうとローガンは安心した顔をして
「リリーは?」と聞いた。
またか、ローガンはリリーのことが好きなのかな。授業中だってずっとリリーのこと見てるし……いや、だめだ。今日はネガティブ思考は捨てて、勇気を持とう。
「まだだよ!二人は一緒に来るんじゃないかな」
「そうなのか」___ピコン
携帯が鳴った。
「リリーからだ。今日行けなくなった!?私がいかないならキャシーも行かないって言ってたから、今日は二人で楽しんで、は!?」
「え、どゆこと?二人は来れなくなったの?」
不安そうに覗き込んでくるローガン。
可愛い…じゃなくて、、まずいよ!二人っきりになったら何話せばいいんだよ!
とっさにローガンからスマートフォンの画面が見えないようにしてリリーに相談する。
返ってきたのは一言。
『GOOD LUCK!!』
この一言で察しがついた。リリーのやつ、きっとキャシーに告白して成功したんだ。だから今日は二人で過ごしたいってか!!
マジかよ、まぁおめでとうリリー。
二人の間を引き裂く訳にもいかず、結局僕らは二人で映画を見ることになった。
それも恋愛映画を…
他は全部予約が埋まってしまっていた。
「ポップコーン何味がいい?」
「キャラメルがいい」
僕が尋ねると、小さい子供が言うようにローガンが言った。可愛い。。
僕らは隣同士に座ると、映画を見始めた。
思いの外感動してしまい、僕が涙を流していると横でローガンが「泣きすぎ!」とヒソヒソ声で言いながらハンカチを渡してくれた。
僕はそれで目を拭いながら映画を見た。
ローガンの匂いがして少し、いや、大分、興奮してしまった。
映画が終わると、ローガンは残っているポップコーンを見てボーッとしていたので、
「いる?」と聞くと、
「い、いや、別に」
といったので、僕が最後の3つを一気に口に入れようとすると、
「やっ、やっぱりいる!」と言った。
可愛いな、と思いながらも
「はい!」と僕が渡そうとするとローガンが口を開けた。それは無防備すぎるんじゃないのか?と議論を心の中で述べながら「はい…」と、さっきよりも弱々しい声で口にポップコーンを入れてあげた。
ローガンはポップコーンを口いっぱいにして
「美味ひい」
と笑っていた。可愛いぃ、
映画館をでて、僕はもう告白するシチュエーションを考えていた。今から街の夜景の見える丘へ行こう。よし、と意気込んで言おうとしたその時だった。同時にローガンが口を開いた。
「このあと!夜け」「僕んちくる?」
「へ?」
マヌケな声が出てしまった。だって、好きな子が家に招いてくれているんだ。でも、夜景が、
「嫌ならいいよ、違うところいく?」
少し傷ついたように彼がいうのが悲しくてとっさに「行きたい!」と言っていた。
______
夢心地だった。好きな人と一日を過ごすのがこんなにも楽しいだなんて、これはデートなんかじゃないけど、すごくすごく幸せだった。
映画館を出るともう帰ってしまうのか、と思い、凄く寂しくなった。
ここでさよならするのは嫌だと思った。
「僕んちくる?」
勝手に口が動いていた。ウィリアムが何か言ったが聞こえなかった。
「へ?」と言ったっきり返事をしないので不安になって
「嫌ならいいよ、違うところいく?」
と聞くとウィリアムは「行きたい!」と言ってくれた。ほんとに優しいよな。こういうとこが好きだ…
僕の家に着くとウィリアムはソワソワし始めた。
「パーカーはここに掛けとくね。そこ座っててお茶取ってくるから」
僕がベットを指差すと、ウィリアムはうん。といって静かに座った。
お茶を持って帰ってくると、彼に渡し、少し飲んだ。
____シーン
気まずい。どうしよう、
「え、えっと、映画でも見る?」
「いや、映画みてきたんだし、」
「あっそっか、」
僕の提案は呆気なく散った。どうしよう。何か言わないと、
「あの!ローガン!」
急にウィリアムが口を開いた。
「何?」
「僕の話を聞いて欲しいんだ」
_______
「もう聞いてるよ?」
最もな返しをされてしまい。凄く恥ずかしかった。でも俺は今日告白するって決めたんだ。よし、言うぞ。
「ローガン、あのな?僕は君のことが!」
____コンコン
「ローガン」
僕の一生懸命に出そうとした二文字がドアのノック音で潰されてしまった。
「あっごめん、母さんだ。」
「いや、大丈夫だよ、俺もう帰るよ」
告白の勇気がドアのノックに負けた。
大分ショックを受けてしまった僕は帰ってまた、今度告白しよう。と思った。
「早いよ」とローガンが止めてくれたが「長居して迷惑かけちゃだめだから」と僕は逃げるように帰った。
____
「ローガン、あのな?僕は君のことが!」
コンコン!
「ローガン晩ご飯出来たわよ」
ウィリアムが何か言おうとした時に母さんがドアをノックした。
「あっごめん、母さんだ。」
「いや、大丈夫だよ、俺もう帰るよ」
急にウィリアムが帰りたがった。迷惑だなんて思わないのに、それを言えなかった僕はウィリアムを帰した。
「ローガン!友達を呼ぶときは言ってよ母さんスッピンだったのよ?」
「うん、ごめん母さん」
母さんの高い声を聞き流して食卓へ向かった。
僕は夜中にウィリアムがパーカーを忘れていったことに気がついた。
明日持って行こう。
___
ぁぁあああ!僕はバカだ!ウィリアムのパーカーを忘れた。
「ウィリアム!ごめん、パーカー持ってこようと思ったんだけど忘れちゃって、」
「あっ!やっぱりか!俺忘れてたよな!じゃあ帰りにローガンの家寄るよ、」
「わかった」
家に帰ると、すぐにパーカーを持って部屋を出ようとした。
ふっと鼻にいい匂いが通った。ウィリアムの匂いだ。ダメな事が思い浮かんだ。
だめだよ、ローガン?絶対嗅いじゃだめだ。そんな事したらただの変態だ。
頭では分かっているけれど、今を逃したらウィリアムの匂いを存分に匂うなんてチャンス、きっともうない。
少し、少しくらいなら、自分の部屋のドアの前で立ったままゆっくりと自分の顔にパーカーを近づけていく、やがてパーカーに顔が埋まると、ウィリアムの匂いがスーッと鼻に入ってくる。
優しい匂いの中にウィリアムを感じる。
_____ガチャ
不意にドアが開く音が聞こえた。
咄嗟にパーカーを顔から離す。
そこにはウィリアムがいた。
「えっと、パーカーをとりにきたんだ。」
「う、うん、これ、はい。」
僕はウィリアムと目が合わせられずにいた。
目線を下に下げたままパーカーを渡すと、ウィリアムが僕の頬を、手の平で挟んで自分と目が合うようにグイッと持ち上げた。
_____
「どしたんだ?ローガン、俺をみろよ」
「へ?」
呆気にとられたような表情をする彼が可愛く思えて勝手に口が動いていく、
「好きだ、君のことが」
言ってしまった。僕の気持ちを彼に伝えてしまった。
「いいよ、無理しないで、」
「??無理なんかしてないよ!本当に君のことが好きなんだ。」
ローガンの言葉に対して否定した。
「さっきパーカーを匂ったのが嫌だったなら謝るからそんな無理して言わないでよ」
??どういうことだ。あの可愛らしいローガンが僕のパーカーを匂ってたっていうのか?
「もしかしてローガンも僕のこと好きなの?」
期待と喜びと確信を込めて尋ねた。
すると、ローガンは泣き出しそうな顔で
「ローガン“も”ってことはウィリアムもそうなの?」
と質問に質問で返された。
「そうだよ!ローガン!」
「嘘、嘘だ。ほんとに僕のことが好きなの!?」
「そうだって言ってるじゃないか」
優しく言ってやるとローガンは泣き出して
「僕もウィリアムのことが大好きだよぉ」
と言った。
僕はそんなローガンを抱きしめると優しく彼にキスをした。
____
少し落ち着いた僕はローガンが言っていたある事を思い出した。
「なぁ、さっき、僕のパーカーを匂ってたってホント?」
僕は何にも考えずにローガンに聞くと、
彼は顔を真っ赤に染めて、目を逸らしながら
「うん…」
と言った。
「可愛いよローガン」
その姿が可愛すぎて僕は何度も彼にキスをした。何度も何度もキスをするうちに軽く優しいものから深く濃厚なものに変わった。
口を開けて閉じて、
やがて唇を離すと銀の糸が唇を繋げた。
ローガンは熱を帯び、潤おった目をして僕を誘った。
「もうおしまい?」
その声はけして、元気ないつものローガンとは違う。切なく色っぽい、息を吐くような声だった。
僕はそんなローガンをベットに押し倒し、
「お望みなら幾らでも」
と笑って見せた。