ひよっこ魔王とお茶会
番外編で後日談になります。
ちょっと人間関係でアレコレしてた主人公とその戦友のお茶会です。
本編でちょろっと出てきたひよっこ魔王がその戦友になります。
琢磨と付き合ってから2週間。
相変わらずお互いに忙しいが、忙しいなりに連絡を取っている。
琢磨からは次の転勤シーズンにこちらに来ることが決まったということで、住居を探しているらしい。
勤め先の紹介物件やネット上の不動産状況を確認しては私に送りつけてくる始末である。
同棲はしないと言っているものの近くに住みたいらしく、模索中のようだ。
触らぬ神になんとやらなので、大人しく見守りながらもメッセージアプリでやり取りを続けている。
ちなみに、マッチングアプリの存在がばれたときは非常にまずかった。
付き合い始めてから消したものの、うっかりメッセージアプリで連絡先を交換した人からお誘いの通知が来たのを琢磨が発見したのだ。
休みの日に会ったときにそんな通知が来るなんてついてない。
追求されてるときは魔王降臨である。その後、琢磨の宿泊先のホテルに閉じ込められてました。
以来、報連相を気を付けるようになった。主にプライベートで琢磨が会ったことのない異性と会うときである。
『前に話した前職の同期(男)とお茶してくる』
メッセージアプリに送るが、反応はない。仕事かと思ってそのままアプリを閉じる。
そして、チェーン系列のファミレスに入り、ドリンクバーを店員に注文して、ドリンクを準備して茶飲み相手を待つ。
「お待たせー!」
テーブルに腰かけたのは以前、同じ職場で働いていた同じ年の男性である。
「ドリンクバー頼んだから飲んでる。」
「僕も頼んで取ってくるわ。」
「りょーかい。」
ドリンクバーに向かうのを眺めて、その男性をそういえば琢磨に逃げ道を塞がれていったあの日、ひよっこ魔王と思ってしまったなということを思い出した。
「桐川さん、お待たせ!」
「佐藤くん、久しぶり。では定例のお茶会です。」
ひよっこ魔王こと佐藤直明。私と新卒で入社した会社で新入社員研修からの付き合いで、愚痴仲間である。趣味などを話すうちに性別を気にしない友人関係となっている。むしろ女子力とは何かを私が直明から教わっている状況だ。
「始まりましたな。では、今の職場の状態なんだけど~。」
直明から職場の近況と人間関係を聞く。仕事上でどこまでの人間関係を構築しているか、または関係性を互いに把握していく。そして、時折その話を掘り返しながら、会話が弾む。
「プライベートはどう?」
「彼女と別れました。連絡がつきません。」
「おっと…」
数週間前の私かな?最近のことが怒濤過ぎて、連絡がつかなくて元カレとの自然消滅を悟ったのが結構昔な気がしてくる。
「桐川さんは?連絡がつかないっていってた彼氏とは自然消滅したんだろうけど…」
「その通り。自然消滅したけど、その代わり最強魔王を降臨させてしまった。」
「は?」
あの日から一連の出来事をかいつまんで話す。
「なんか…大変だったんだね…やらかしてるのは自業自得な気がするけど。」
失礼な言われようである。
「でも、元カレさんとは結構クズな関係してるなと思ってたから、桐川さんには手綱握っててくれる人がいいんじゃない?」
「私は幼子か。まあ、クズな関係性だったのは否定できないけど。」
「でも、前に話してた片思いしてた人でそんな風になるのって結構漫画っぽい。」
「いや、あれは…」
乙女の夢とかではない。負けて生き残ろうとしても無理だったのだ。夢とかではない。
「佐藤くん、お願いだからそのままひよっこでいて?」
「は?」
人間関係を把握しながら世渡り上手に、たまに悪どくいく直明だが、あのブリザード魔王に比べたら可愛いものである。
その時に携帯の着信がなる。噂をすればなんとやらである。
直明はどうぞと言ってドリンクバーに向かう。
「もしもし?」
「あー、ごめん。まだお茶会してた?」
「してる。」
「いや、その…」
まさか、今日の相手のことを気にして連絡してきたのだろうか。
「あー、大丈夫だって。遅くならないように帰るし、お持ち帰られるような感じの人ではない。むしろ私は女子力を教わっている。というか、前に話した佐藤くんだよ?」
「あ!その人か!なら安心だわ。」
過保護である。まあ、心配してくれるのはありがたいことなのだが。
「私は幼子か…で、まだ仕事中でしょ?大丈夫なの?」
「今は休憩時間。でも、桐川さんの声聞けたからこれからの仕事頑張れそう。」
「なっ…!」
琢磨の楽しそうな声に思わず何も言えなくなる。
こういうことを普通に言う人なんだよなぁ。私の精神の修行は終わりが見えない。
「まあ、今回もちゃんと連絡してくれてるしありがとう。」
「だって…心配してくれるのは嬉しいし…私だって声を聞けたし…」
琢磨の優しい声に思わず本音が出てしまった。
その事実に恥ずかしさが込み上げてくる
「やっぱり、今のなし!忘れて!」
「忘れるわけないだろ?」
「お願いだから!」
「無理。もっと素直になってくれれば今度会ったときにご褒美あげるのに。」
何故だろうか。このご褒美、まともな気がしないぞ。
「ご遠慮します!というか、休憩時間は大丈夫なの?」
「あー、そろそろかな。」
よし、誤魔化しに成功である。ほっとしたその時に琢磨の一言が来た。
「清香はイイコだもんな?」
「ハイ…」
その色っぽい声でイイコは勘弁してほしい。
イイコと誉められながら、この間から何度も甘やかされてるのを思い出してしまうのだ。
お陰でその言葉を聞くだけで顔が赤くなるんです。
「じゃあまた、時間が空いたら連絡する。」
「…仕事頑張って。」
「ありがとう。」
通話が切れるとそのままテーブルに突っ伏す。
平常心、戻ってきてください。早急な帰還命令です。
「上手くやってるみたいで良かったよ。」
直明がいつの間にかテーブルの席に座っていた。
「その彼でしょ?心配してかけてきたの?」
「そうみたい…」
勘弁してくれ。精神ダメージが結構来てるんだ。
「良かったじゃん!…僕、今だから言うけど、桐川さんのこと心配だったからさ。ちゃんと桐さんが頼りたい人見つけられたみたいで良かったよ。下手すると、誰にも頼らずに1人で全部やっちゃうから。僕たちが気づいたらキレイに終わってて先にいてくれて、こっちがまずくなるとすぐに手を回して守ってくれるでしょ?」
「お、おお」
まあ、懐に入れた仲間のために動くのはいつものことだし、もはや性分なのである。
変に誰かに頼んで失敗されるよりも自分でやって、被害の矛先が私に向けばなんとかなると思っていた。
「でも、それじゃあ、桐川さんのことを誰が守れるんだろって思ってたから、今の相手はちゃんと守ってくれそうだね?」
確かにあの私をひたすら甘やかそうとする琢磨なら私よりも先回りしようとするだろう。
私よりも巧みに、周到に。
そして、上手く人を使いながら不利を有利にひっくり返して、敵を笑顔で報復するのだ。決して自分の仕業だとバレないように。
私は私を犠牲にするけど、琢磨はしない。それに見合ったリスク分散をさせて上手く人を動かすのだ。
それが私たちの違い。
「確かに守ってくれるかもしれないけど、守られるだけではないもの。」
「桐川さんならそう言うと思ってたよ。」
リスク分散をさせたときに生じるものを想定して、一方向にリスクを集中させる方がマシな案件は私向きなのだ。
特に相手をみんなから見て悪役にしてしまうのは私の方がやれるだろう。私の負担が大きいけれど。
だから、琢磨はその負担に潰れる前に手をさしのべようとする。その手に縋ったままでは何もできなくなってしまうから、全ての手はとらない。
「お互いに満足すればそれでいいんじゃないかな?あ、もちろん周囲に被害は出さないでよ?」
「ど、努力する。」
「まあ、人間関係の誘導や操作なら協力はするよ。」
「ありがたいわー。」
直明は男性の立場を利用して、人の心理を動かすことに楽しみを覚えながらも、自分の立ち位置を踏まえて動く。たまに人からの印象を気にしない発言することがあるために、その場合はフォローで異性の私が入れば何とかなる。
性差を利用して動くと上手くいくのがなんとも言えない気持ちだが。
人間関係とはかくも難しいものである。
「で、ワンナイトに出来なかった結末としての感想は?」
紅茶を飲みながら聞かれる。
お互いに戦ってきた場所を知ってるからこその問いだろう。
「悔しいけれど、たぶんこれが私の幸せに繋がってるんだろうよ。」
「幸せだっては言い切れないのが桐川さんらしいよ。」
昼下がりの陰謀家たちのお茶会はこうして過ぎていく。
直明と主人公はあくまで職場などでの戦友となります。
人間関係は魔の巣窟なので、お互いに必要となれば切り抜けるために共同戦線を結び、場を上手く動かしてきましたが、主人公の方が苦労性。
直明は主人公のことを心配してましたが、この度何とかしてくれそうな相手が見つかってほっとしてる感じです。