おつまみは卵焼きで(エピローグ)
これで終了です。
番外編などは書けたら書きます。
たぶん、主人公が頭抱えながらも前に進んでいく話とか、過去に何があってこうなってるのかとか書けたらいいなと思ってます。
それから。
和人は宣言通り少し飲んだ後に彼女に会いに行くらしく、私らのやり取りをつまみに飲んでいた。
「桐川さんがここまで逃げ道無くされて、慌ててるの初めて見たから面白いなー。いつもは飄々と危なくなったらスタコラ逃げつつ優位にたてるように手を打つのに、さすがは俺の悪友。」
「罠にはめたくせに。」
ビールを飲み、和人が頼んだ唐揚げを強奪しつつ悪態をつく。
「いやー、でも、想定もできたでしょ?それでも来たってことはさ?」
「だって…こんなになるの見たことなかったし…」
「コイツ、嘘が上手いって散々言ったのにね。」
「和人も嘘は上手だろ?しかも情報収集はお手のもののくせに。」
琢磨は私の手を解放して、ジャケットを脱ぎ、ビールを飲む。相変わらずいい筋肉め。
「優花ちゃんもここにいたらなぁ…」
優花の笑顔が恋しい。ここにはこわい人が多いのである。
「東城さんは喜んでこっちの掩護射撃してきそうだけどね。だって、さりげなく鋭い一言とかしてくるし。」
「優花ちゃん…君の一言は今の私にはキツそうだからな、今度だな!」
和人の指摘が正しい気がして何も言えなくなった。
心の中の優花が素直じゃないねと笑顔で言ってくる。お静まりください。
お酒のペースは落としながら、この間の二の舞は勘弁したいところなのでメニュー表を手に取る。
「卵焼きとお魚のカルパッチョ頼むけど、他に何かいる?」
「いや、いい。」
「俺も彼女に会いに行くために長居しないから、いらない。」
「はいはい…すみませーん!」
店員さんに注文を頼む。さっきのビールを待ってきてくれた店員さんだ。本当にビールのタイミングは重要だから気をつけてください。
「んで、桐川さんはいつから琢磨のこと好きになってたの?」
ビールを口に含んでなくて良かったが、箸は落としそうになった。ギリギリ落とさなくてセーフである。
「い、言って何になるの!」
「和人、そこまでにしておきなさい。」
「いやー、知りたくなるものじゃん?で?俺が紹介してからどれくらいして?」
「和人、俺の楽しみを取らない。」
楽しみって何ですか。これから更に追求されるんですか。私はさっさと帰りたいんです。
「えー!まあ、いいや。同窓会でお前をからかうネタ出来たもんな!」
「和人と同じように彼女の自慢をすればいいんだろ?頭のいいかわいい彼女ができたって。」
「おっと、そうくるか。ま、いいんじゃない?」
私の知らないところで何かが拡散されるのか。恥ずかしいので勘弁してほしい。負けて生き残れば勝ちではなかった。負けたらゲームオーバーだった。頼んだ料理を片付けながら遠い目をする。
「んじゃ、俺はそろそろ行くわ。はい、お金。」
和人がお札を数枚テーブルに置き立ち上がる。
「後は2人でお楽しみにー。また話そうな!琢磨、俺からの久しぶりの手回しちゃんとやれよー!」
「感謝してる。」
にこやかに和人を見送る琢磨。まずい、ビールの残りはまだ半分以上ある。ここのお店のジョッキ、本当に大きいな!逃亡はできそうにない。
「勘弁して…」
「無理。」
テーブルに突っ伏して降伏宣言をした私の頭を撫でる琢磨の手は優しい。
「本当に私でいいの?」
「足りない?」
今度は琢磨の右手が私の左手をつかむ。
「いや、そういう意味じゃなくて…だって、優花ちゃんのことをいいと思ってるんじゃとか考えてたし…それに私って美人でもかわいくもない普通の女だし…」
「まあ、東城さんはかわいいけど、甘やかしてドロドロにしたいのは桐川さんだけだしね。それにメイクだってがんばってるし、かわいくなる努力をちゃんとして、俺からみたらかっさらわれないうちに閉じ込めとかないととは思ってる。」
「甘やかして?閉じ込め?」
とんでもない言葉が出てきた。果たしては酔っているのではないか?お酒ってこわいなー?言えた義理じゃないけど。
「そう。みんなに頼られるからって無茶して努力して、そして頼られると嬉しそうにする。
でも、本当は誰かに頼りたくて甘えたい桐川さん。媚びることが上手くできないのに、人間関係を上手くやろうとする危なっかしい桐川さん。」
「おやめください。それは確かに事実なんだけど。」
「器用そうなのに不器用で、とことん甘やかしたくなるんだよ。あの日、何回もかわいいって言ったのにまだ信じられない?」
琢磨の笑顔が甘い。喉がひゅっとなる。
誰か!ここに梅干しください!糖分過多です!
ビールを何とか飲み終え、お会計を済ませる。
糖分過多な会話は精神の修行でした。個室予約してたのもこれを見据えてだったんだな。
和人、覚えておけよ。
まあ、これでさっさと帰ることができるとお店を出てから歩こうとすると琢磨に手をとられた。
「このまま帰れると?」
「おう…まさかの」
「帰しません。」
いい笑顔だったもので反論できなかった。
仕方がない。好きなものはやっぱり好きなのだ。
理性の蓋はとうにどこかへ消え去った。あの時の片想いも無駄ではなかったのだから、これからもこの想いを大事にしていくことにしますか。
あの日と同じように腕につかまって歩く。
琢磨は少し驚いた顔をした後に、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
私も笑顔を見せる。
周りの結婚ラッシュに私も加わるのかなんて分からないけど、今は幸せなのだ。それでいいじゃないか。
翌朝は起きると抱きしめられていたために、逃亡出来ませんでした。ワンナイトは失敗し、降臨させてしまった魔王に捕まりましたが意外と悪くなかったです。以上!