エリザベート
「うかつだったのは認めるわ。けれど――それをどうこう言っている場合ではないの」
「強大な力を持った転生者か……。それが我慢の限界がきて、輪廻の理から抜け出したってだけだろう?そんなこと、お前たちにとっては珍しくもないだろうに」
そう、ローザの言う通り。転生して前の世界の記憶を受け継いでるものどいくらでもいる。さらに、そこから生まれ変わりという輪廻から抜け出す者も珍しくはない。
だが――今回の問題はそこではない。
「そうなのだけど。能力がどうにもでかすぎるのよぉ」
カレンが言うと。はあ?とローザが怪訝な表情で訊き返した。
「理由は分からないけれども。あれだけの力を無条件で人の体で放つなんてできるとは思えないのよ」
「なるほど。人間の体を質を抜け出しているというのか?確かに。珍しくはないが、例外のだな。それで?俺たちにどうしろって言うんだ?まさか――そいつを倒すのに手を貸せっていうんじゃないだろうな?」
薄くって冗談っぽく言うローザ。
そのまさかである。
とはいっても、カレンは考えているのは、この男に倒してもらうということではない。
「ええ――エリザベートにお願いしようと思って」
それを訊いた瞬間。もう一度、ローザは深いため息をした。
「はぁ――それをあいつが了解すると思うか?」
あきれ顔で言われる。
「ええ。無理でしょうね。だから――こうして、アナタにカレンはぁお願いしているの」
カレンの頼みは間違いなく、エリザベートという魔女は訊かない。ただし、それはカレンからの頼みである場合だ。彼女の主人であるローザなら話は別になる。ローザにとって、家臣であり、奴隷であり、使い魔であり、恋人である。ローザから頼めば、間違いなく二つ返事で”はい”と答える。
「確かに、お前の言う通り俺から頼めば間違いなくあいつはオーケーを出すだろう。ただ、ハッキリ言って今回に限ってはエリザベートじゃどうしようもできない。お前の経緯の話から推測するに、おそらくそいつはエリザベートよりも強い。特に、個人を相手する場合エリザベートは不向きだ。あいつは、”世界を破壊すること”に関しては右に出るものは居ないが、特定の相手を相手するには向かない。まあ。その世界ごとそいつを消すっていうなら話は別だが。そう言う訳じゃないんだろ?」
問われ、カレンはええとうなづいた。
「なら無理だ。大体――殺したところで、また輪廻の理に戻るだけ。そこでまたこと起こされて暴れまわるだけ。そうだろ?」
ローザの言い分はこうだ。
結局、殺したところで、またそいつは転生する。
その時にまた理を外れればいいと。
世界のルールとしてはローザの言うことには間違い。おそらくころしても言っている通りになる。
ならどうするか。もちろん。カレンにはそのことも承知の上で。案は持っていた。
「そうねぇ――だから……。結晶封印の楔」
紅茶を一口飲み。冷静にカレンは言った。
その言葉を訊いた瞬間。ローザの顔色が少し怖いものに変わった。
「正気か?」