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RPG風  作者: たちかぜ
1/1

旅立ちの前の災難

「冗談じゃないわよ!!」

 最初におこった感情は悲しみじゃなく怒りだった。

「……シャレになんねぇ」

 なるわけないでしょ、と女は呆然と立っている男を睨みつけた。

 冗談じゃない。シャレにもならない。

 まだ冒険は始まっていない。始まりの一歩を踏み出そうとしていたばかりだったのだ。

 その理由は冒険の要ともいえるファイター勇者の死。――これがモンスターにやられたのならまだ納得できる。でも……

「自分で底無し沼にはまるなんて!!」

 信じられない。なんのしかけもない、ただそこにあるだけの底無し沼。それに自分からはまったのだ。本当に初歩の初歩的なミス……。

「ここで、あいつ勇者は長い年月をかけて朽ちていくのか。かわいそうに」

 あくびをしながら男は言った。同情のかけらもない言い方で。

 まだ共に戦っていない『仲間』。その『仲間』に悲しみも同情も存在しない。

 悲鳴が聞こえ降り返った時には、勇者は右手しか見えてなく、助けようとした時にはもう右手も見えなくなっていた。

「あれで、経験値は高かったのよね」

「ああ。色白で女みたいに細く、美貌で勇者とはほど遠いイメージだったけどな」

 口の悪い言い方だが、事実その通りだった。その外見とは裏腹に腕はかなりたったようだ。幻の魔物を倒したtか、一撃で十人の敵を倒したとか(どこまで本当かわからないが)世間の評価はかなり高かった。

「一度戦っている所、みたかったな。あの邪気のなさそうな顔がどれくらい変わるのか」

「……悪趣味ね」

 女がそう言うと、男はふんと鼻をならした。

(こんな奴と二人で冒険……?)

 女は思う。

 限りなく続く不安の中、冒険は始まろうとしていた。



「なりゆきのパーティーだとはいえ、自己紹介もまだだったとはな」

 日が暮れ、森の中で野宿をすることになり……。まだお互い職種しか知らないことに気付いたのだ。

「俺はワン・オウプル。盗賊だ」

「私はウィン。精霊使い」

「ウィン・何? 年は?」

「ウィンはウィンよ。年は24」

「俺より2つ年上かよ!!」

 ワンは驚いた。盗賊は人の心理を見抜くことを得意とする。ワンの目からみて、ウィンは24とは思えなかった。確かにそれなりのバディ体をもっている。でもどこか、どこかアンバランスさを感じたのだった。

「――にしても、あんた本当に精霊使い?」

 ウィンにはらしさがなかった。誰もがもっている精霊使いのイメージとずいぶんかけ離れていた。強い瞳。漆黒の黒髪。きつそうな口元……。これで、精霊使いと信じるほうがどうかしている。

「魔法使いの間違いじゃないのか?」

「正真正銘の精霊使いよ。魔法なんて一つも使えないわ。精霊をあやつる精霊使いよ」

 ほらね、といいそれと同時に森の木々が激しく揺れた。

「――で、これからどうする?」

「地図、みせろよ。目的地の場所頭にいれとかねぇと」

「地図?」

「そう。商人の店で買っただろ?」

 そこが2人、いや3人の出会いの場だった。


「アンド、新しい地図が入ったんだって?」

 ウィンが商人アンドと話していると、一人の男が入ってきた。

「さすがは盗賊。情報が速いねぇ」

 愉快そうにアンドは笑った。

「笑っていないで早く売ってくれよ!」

 息急ききってその男は言った。

「何、何の地図?」

 ウィンは訊ねた。

「古城にある秘宝、いにしえの砂の在処を示す地図だよ」

 声を潜めアンドは言った。途端に、ウィンの目ががらっと変わりわめいた。

「どうしてそれを私に言わないのよ?! 私が買うわ。この男より高い値段で買うから、売ってちょうだい!!」

「お、おちついて…」

 興奮しているウィンをアンドはなだめた。

「俺が買うんだ。この俺が盗まず買うて言っているんだぜ? 俺に売ってくれるよな?」

「何言ってるのよ! 私が買うのよ!!」

「俺だ!」

「私よ」

 言い争いが始まったとき、

「あの~」

 と、一人の男が入ってきた。

「いにしえの砂の地図、欲しいんですけど……」と。

 ウィンと言い争っていた男は一瞬顔を見合わせ、入ってきた男に

「俺が買うんだ!」

「私が買うの!」

と、声をそろえて言った。

「まあまあ落ち着いて。こうしようじゃないか。あなたたち3人は私のお得意様だ。この中から一人を選ぶなんて私にはできない。でも、3人でパーティーを組めば問題ないだろう? この地図はまわりまわっているが、いにしえの砂に辿りついた者は一人もいない。いわば幻だ。だからいくら一人一人腕がたつとはいえ、一人じゃあまずクリアできないだろう。勇者、盗賊、精霊使い、この3人が力を合わせれば簡単にクリアできるかもしれないよ」

「アンド、私は今まで一人でやってきたのよ? クリアできないわけがないわ!!」

 ウィンは叫んだ。

「誰にでも不可能はあるものですよ。僕はパーティーに組むことに賛成ですよ」

 一番後からやってきた男はにこにことそう言った。

 ウィンはぎゅっとくちびるを噛む。

 わかっている。できないことの方が多いということは。今までもくじけそうになったことが何度かあるのだから。

 でも……。

(意地をはっている場合じゃないのよ。いにしえの砂を手にいれなくては……)

「――わかったわ。パーティーに賛成する」

 しっかりとした口調でウィンは言った。

「じゃあ決定だね。僕はエクス。よろしく」

 にこにこと男は言った。

「あんたが、あの……」

 有名な勇者? と言おうとしたが、ウィンは言葉が続かなかった。それはもう一人の男も同じらしい。

「ドジなところをぬかせば腕はかなりいいよ」

 驚いているウィンへフォローなのだろうか、アンドが言った。

「俺はまだ何も言ってないぜ?」

 腕を組み、盗賊が言う。

「2対1じゃ、2の方に売るに決まってるでしょ?」

 勝ち誇ったようにウィンが言うと、

「誰が入らないって言った? 入るぜ、パーティーに。その代わりいにしえの砂もちゃんと3等分にわけるぜ? あと、アンド!――安くしろよ」

 荒々しく言うと、地図を引ったくり、隅から隅まで見始めたのだった。

 こうしてなりゆきのパーティーができたのだった。


「……ワンが持っているんじゃあないの? 私持ってないわ」

「俺だって。……あっ、あいつに持たせたんだ!!」

「じゃあ、底無し沼の中ってこと?!」

「……どうする? 諦めるか?」

 戻るにも辺りはもう暗い。それに遠い。

「諦めるわけないでしょ! 私はこのまま進むわ!」

「俺も同感だね。このまま帰るなんてシャクだしな」

 でも、とワンは言葉を続けた。

「いにしえの砂に、なんでそこまでこだわるんだ?」

 アンド商人の店で会ったときからの疑問だ。いにしえの砂、と聞いたときから目の色が変わった。もし、アンドが3人の中で一番高いお金をだした人に売る、と言ったら全財産迷わずだしたことだろう。

「前々から探していたものが、目の前にあったら誰だって欲しがるでしょ? そういうわけよ。ワンは?」

 かわされたと思ったが、これ以上訊けなかった。

「俺は金儲け、っていうのは半分冗談で、いにしえの砂の周りにあるといわれている財宝目当て。あー結局金目当てか」

「……そっか」

 なんとなく2人とも黙りこんでしまった。たき火のパチパチっという音が暗闇に響く。

 正直いって、これほど心細い冒険は初めてだ。一人で行動していたときでも、地図や確かな情報がたくさんあった。

 今回は2人だ。でも、地図もない。確かな情報も少ない、そして相手の素性が本当に信頼できるのか(いくらアンドの紹介とはいえ)、腕がどのくらいたつのか、全くといっていいほどわかっていない。いわば、「敵と一緒に行動する」という感じだろう。

 この森の静けさも気になる。魔物の気配がない。しいんと静まりかえっていて、不気味だ。

「ねぇ、地図覚えてる?」

「……覚えているわけねぇだろ」

「! あれだけ最初にしっかり見ていて覚えていないの!?」

 ウィンが激怒した。それにつられてか、草木がざわめく。

「……どのへんにしかけがありそうか見ていただけだ」

「役たたず!!」

「役たたずって……おまえなぁ…」

 これまでに、何度かパーティーを組んだことはあるが、こんなことを言われたのは初めてだ。仲間の失敗はパーティーの失敗。これが常識なのに…。

 ため息ひとつつき、ワンはいった。

「まあ、ある程度は覚えているさ。それにウィン。おまえ精霊使いだろう? 草や木に訊いて、この森の抜け道を教えてもらえばいいじゃないか」

「できない」

 短く彼女は言った。

「何で?」

「わからない? できないの」

「どうして?」

「ああ、先に言っておくけど、治癒もできないから」

 無表情にウィンは言う。

「どうして? やり方知らないわけじゃないんだろ?」

「知ってるけど、私がやると傷は悪化するわ」

 役立たずとは言えなかった。無表情さがどんな言葉も拒絶していた。

「――ま、なんとかなるさね。明日考えよう。俺は火の番してるから、寝ろよ」

「何もできないと思ってバカにしてるの!? それとも女だから?!」

 ひゅっと音がし、ワンの頬を何かがかすった。血がじわっと滲み出てくる。

 かまいたちだ。

「……ごめんなさい。感情的になりすぎたわ」

「別に。たいしたことねぇよ。ただちょっと驚いたけどな。いろんな意味で」

 少々皮肉に聞こえたのか、ウィンは黙り込んだ。

 ――アンド、本当にこいつは腕がたつのか?

 ワンは恨みがましく空を見上げた。


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